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レテンド大陸興亡記  作者: 嶺月
二章
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王都へ入る直前のやり取り

王都近くの港ビーニーグルに着いた一行は大歓呼に迎え入れられます。

民衆の声に紛れて、王国の権力構造につながる過去の歴史を振り返ります。

 迎えの船から降りて港に入ると、金管楽器のファンファーレと群衆の大歓声がレイシン河方面地域からの客を出迎えた。王都の玄関口と言う事で港の規模そのものがアイク島のそれともヨイレントとも段違いだが、それにしてもすさまじい数だ。これは本当にこの港ビーニーグルの住人なのだろうかとレオンハルトが尋ねると、サーマイヤーフの答えは否だった。

「王都からもわざわざ動員したに違いねぇぜ。俺がお前らを着飾ったのと同じで、向こうだって大きく見せたいのさ。気圧されるんじゃねぇぞ」

(かしこ)まりました」

「そうだ、としても…凄い、です…多分…アイク島全、部より…多い…」

「お嬢、気合気合」

「その通りだよルーチェ、人口が多いことが優れた国だという事にはならない」

「まぁお前らの場合はそうかもしれねぇが、人口は国力と同じだぜ。だが繰り返すが気圧されるんじゃねぇ。こけおどしを仕掛けてきたって事は、向こうはすんなり友好関係を結ぶ気が無いって事だからな」

 これは即席で作ったのだろう、白布に歓迎の文字が染められたアーチをくぐり、大歓声の中を雑談しながら歩く。本来なら私語は(げん)に慎しむべきなのだろうが、あまりに周囲がやかましいのでむしろ仲間たちの間でも声を張り上げなければ会話できない程だ。

 王都では逆に民衆の居ない儀仗兵が時折(たたず)む静寂の街を、整然と隊列を組んで行進する事になる。いやこの町の歓声が無くなれば、出迎える儀仗兵たちの耳が常にレオンハルト達の会話を(とら)える(はず)だ。おまけに王都に入れば恐らくサーマイヤーフとも引き離される。今が王国の事情を尋ねておく最後のチャンスだと考えなければならない。

「…と思うんだが、ルーチェやジークは閣下に尋ねておきたい事は有るかい?」

「そうですね。私としては民衆の男女比や年齢構成が気にかかるのですが。若い男性ばかりのように見えますが、何か事情が有るのですか?」

「それは単に女子供や老人は動員しなかっただけだと思うぜ」

「私…は、こん、な…理由、で…人を、集めら、れる…のが…」

「ああ、俺は結構王宮を悪し様に言ってきたから意外かもしれんな。だが王国にはほぼ官僚専門の富裕層がいる。そいつらは中々良くやってるから、それほど民衆感情は悪くねぇ」

「それ、は…アイク島、の…騎士、みたいな…?」

 レオンハルトはその認識で充分だと思ったが、サーマイヤーフはそうではないようだ。だが明確な違いをどう伝えるべきか判らないようで、しばらく、王都への旅路にあたって綺麗に()り上げた(あご)()でさすって考えている。

「どう言ったもんやら。やる事は似たようなもんかもしれねぇが、税とかは普通に払う平民なんだよな。アイク島について説明を受けた限り、騎士ってのは大体貴族みたいなもんだろ」

「税など、確かに特権階級ではあります」

「だろ。王国ではそういう連中はまぁ大体王族の取り巻きとして存在する。そいつらの人間関係で、次の王やらシンドゥム王国との駆け引きやらが決まる。だが高級軍人や官僚は(ほとん)どが、教育を受けられる程度に裕福な平民が務めるのさ。その辺はロギュートフ辺りから聞いたかもしれんが」

「私はその辺りも重要になるからと、現在の高官の名と役職も一通り」

「私は概要(がいよう)だけですね、ルーチェさんは?」

「あたし、は…一度…教わった、だけ…」

 普段は無頼漢(ぶらいかん)を装っているがサーマイヤーフは一地方の政軍を総攬(そうらん)するに相応(ふさわ)しい器量の持ち主で、この国の内情を知らない面々に要領よく権力構造について説明していった。それなりに知識を得ているレオンハルトも改めて、元は軍人であったロギュートフには知り得なかった情報も含めておさらいする。

 そもそもこの国の起源は巨大な版図を誇った古代の大帝国、エモルが南東の砂漠に暮らす蛮族の侵攻によって崩壊した所から始まる。一部の王族、貴族とそれに従う民衆は蛮族に支配される事を嫌って海へ逃れ、最終的にはアイク島へ辿り着いてレオンハルト達の祖先となった。しかし多くは消極的に敗北を受け入れた。一方で土地の有力者の中には娘を人質に差し出して新しい権力構造に食い込もうとする者が居たようだ。

「娘を人質に…というのは?」

「無理矢理(とつ)がせて血族になるって事よ」

「ああ、政略結婚ですか」

「そんな単純な話だったかどうか。蛮族の目的は一時的な劫掠(ごうりゃく)だったと見ていた文献も有る。それを引き留めて自分たちの後ろ盾にしようって魂胆だとすれば、その後の200年ほどの混乱の原因はそいつらにあるって事だろうな」

「…砂漠、は…大変、と…」

「都市に比べれば確かに生活の苦労は計り知れん。だが彼らは何百年もその苛酷(かこく)な自然環境と折り合いを付けて生きる術を身に付けていた。慣れ親しんだ土地や気心の知れた民と比べて、やたらに反抗的な帝国人を統治の風習も知らずに抑えつけるのがどれほどの物だったか判らんな」

 確かに気苦労は多かっただろう。何しろすでに崩壊したにもかかわらず、帝国人は自分たちこそが文明国であるとの気位が高く、支配者である(はず)の砂漠の民を蛮族と(さげす)んでいたようだから。実際100年程何とか住みよく豊かな土地に馴染(なじ)もうとした砂漠の民たちは、最終的には支配を諦めて砂漠へと帰っていった。後に残った元帝国人の有力者はそれぞれに国王を名乗り、統合と分裂を繰り返しながら全体的に見れば統一の方向性へと進んだ。

 だがエモル帝国の版図がアイユーヴ王国とシンドゥム王国の2つにまとまった後、かつての国王であった貴族たちは違う道を選んだ。シンドゥム王国では王家の宗主権を認めてその下での統一を受け容れたが、貴族たちはそれぞれに徴税権と裁判権を保持して領主としてそれぞれの領土に君臨している。一方アイユーヴ王国では貴族たちはその特権を王家に差し出し、宮廷での政治に専念するようになった。その政治も今では先に説明された通り、平民の中の富裕層に委ねているが、権威だけはいまだに王侯貴族だけが独占している。

「エモル帝国はどちらの支配体制だったのですか?」

「歴史学者なら何らかの見解は出すだろうが、どれも推測の域を出てねぇ」

「どちらもエモル帝国の後継者を名乗っていたのでは?」

「帝国人がそもそもその手のことを記録するのに不熱心だったってのが大きい。何しろ空前絶後の大帝国だったからな、自分たちが滅びるなんて考えてもいなかったみてぇだ。記録に残るのはよほど善政を行ったか、恐ろしい悪行を行ったかのどっちかの皇帝くらいの物でな。おまけに砂漠の民の侵略、大混乱の時代を経て、まともに残った記録って奴がねぇのさ」

「そういうものかもしれませんね。アイク島ではあまり混乱と縁がなかったからか詳細な記録が残っていますが、各家に残る資料は家ごとの任務に関する日記のような物が(ほとん)どだと」

「…それに…ちゃん、とした…歴史、が…知られ、ると…都合が、悪い?」

 珍しくルーチェが積極的に口を開く。正しい歴史が不都合というのはレオンハルトにはすぐには意味が判らなかったが、サーマイヤーフは我が意を得たりと深く(うなず)く。

「流石、嬢ちゃんは()えてるな。その通り、どちらがエモル帝国のやり方を引き継いでいたかなんて知識、誰にとっても役に立たねぇのさ。どっちかが正しいにせよ、どっちも間違ってるにせよ、それで今までの体制を急に変えようなんて誰かが言い出したら、お天道様が西から上るような大騒ぎになる。結果としちゃぁまた混乱期に逆戻りって事も有るかもな」

「私はこれでも学徒のつもりですから、都合が悪いという理由だけで真実が消されるのは残念ですね」

 ジークが彼らしい意見を出す。ルーチェもあくまで現政府の都合を言い当てただけで、その姿勢に思うところは有るようでジークの言葉に(うなず)いている。レオンハルトは混乱の種になるならば歴史の真実など埋もれさせてもいいと思うが、しかし真実を追求する学者の気持ちはわかるような気がして中途半端な答えを出す。

「歴史学者の間でだけ真実を広めるというのでは駄目だろうか」

「そいつぁ甘い考えだぜ、レオンハルト」

 青年の倍は生きた男はその経験から(つか)み取ったものが有るのだろう、即座に否定する。

「お偉いさんだけが判ってりゃあ良い。そう言った奴から戦場では死んでいくぜ」

「軍人は命令厳守だと思っておりました」

「死ぬと判ってるような命令でも不満を飲み込んで従ってもらわにゃ困るがな。その事と命令の裏に有るものを(わきま)えるのは別の話って事よ…うちみたいに大して仕事もしてない奴が偉そうにふんぞり返ってる国じゃ特にな。レオンハルト、覚えておけ。王族、貴族、官僚…それぞれにそれぞれの立場での意見と思惑がある。同じ派閥の中でもそこでずれが生じる。そこを見誤らずに付け入ってやれよ」

 いつもの王族批判と思われたサーマイヤーフの言葉は、意外と最後は真剣な口調へと変化した。

読んでくださってありがとうございました。

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