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レテンド大陸興亡記  作者: 嶺月
一章
23/36

伏魔殿へ向かう前のひと時の安らぎ

ルーチェの発明品が完成。第一号はサーマイヤーフの息子たちに贈られます。

 それから数日、王宮への最後の(ある)いは最初のハッタリとして巨艦シムレー号で王都へ向かうことになり、ルーチェは久しぶりにシムレー号の技術監督官としての立場に従事した。加えて、船の精密な整備の合間にガラス細工師へと何やら依頼をしているようだった。

 ルーチェの発明品が完成したのは王宮へと旅立つ前日、ルーチェはレオンハルトとサーマイヤーフを引き連れてサーマイヤーフ邸を訪れた。両手に細長い箱を抱えている。

「しかし嬢ちゃん、2人に何かくれるってのはありがてぇが、貴重な精製水を玩具にされてもちょいと困るぜ」

「だいじょう、ぶ…です。使う、のは…1滴で、す。それ、に…その、作る、ための…せいみ、つな、計算は…他の、ぎじゅ、つてんよ、う…にも…」

「1滴?…で物の役に立つような使い方?それは確かに面白そうだな」

「そう言えば、レテンド大陸式の使用法だと、精製水は大量に集めて一気に消費するのでしたね」

「ああ、1滴ごとに使うって発想そのものが無かった。そこにメスを入れてくれるだけでも、確かに有り難いかもしれねぇ」

 ルーチェの言葉を呼び水にさかんに議論を始めた男たちの前を歩きながら、ルーチェは誇らしさと不安が7対3くらいの表情で歩いていた。応用が利くかどうかはともかく、精製水を平和利用することを思いついたのは嬉しい。しかしルーチェはこの玩具を本当にミーネロートたちが喜んでくれるだろうか不安に感じる。何しろ今まで直ぐ何かの役に立つ事ばかりを目指していたのだ。特別役には立たないが、なんとなく楽しい、などという物に目を向けた事は無かった。レオンハルトとの外出で見た玩具に触発されたが、他人が何を喜ぶかとなると全く想像の範疇(はんちゅう)に無い。祖父が発明は誰かのためにならないのであれば、どんな優れた技術を込めようと単なる自己満足だ、と言っていたのを思い出す。

 しかし少女の若干の不安をよそに3人は目的地に辿り着いてしまった。手のふさがっているルーチェの代わりに、サーマイヤーフがドアノッカーを叩く。

「は~い!…あら、珍しい組み合わせね、あなた」

「おう、ミーネロートとシュワライムに贈り物って嬢ちゃんがな」

「ルーチェさんが?明日は出港で忙しいでしょうに、良かったの?」

「あ、はい。…ひょっとしたら王宮から帰ってからになるかな、と思ったけど、間に合いました」

 レオンハルトはルーチェがスラスラと話しているのに内心驚く。先日2人で訪ねた時はまだたどたどしかった気がするが、忙しくなる合間を()って更にライナとは打ち解けたようだ。レイシン河方面地域に馴染(なじ)んで欲しいという企みとは別に、ルーチェ自身のために微笑ましく思う。

「これ、ミーネロート君とシュワライム君にプレゼント、です」

「まぁ!とにかく上がって上がって」

 レイシン河方面地域軍総司令官の内縁の妻に(うなが)されるままに、3人はリビングまで上がり込む。リビングにはちょうどライナの父と2人の息子が(そろ)っていた。

「なんじゃ小僧、こんな時間に。サボりか?」

「2人の引率だよ、クソジジイ」

 早速憎まれ口の応酬(おうしゅう)を始める2人を無視して、ルーチェはミーネロートに持ってきた箱を手渡す。父と祖父母が心温まる会話をしない、というのは少年たちにとってどうなのだろうと、レオンハルトは少し気になるのだが。

「今日はこれを2人に渡したくって。中はガラス細工だから、そっと開けてね」

「なあに?」

「それは開けてのお楽しみ」

「兄さん、早く早く」

「うん。よいしょっと…ガラスの筒?」

 中身を見たミーネロートは不思議そうな顔をする。それはガラス筒の中に何か液体が充満して、ほんの1滴複雑に色づいた液体が入っているだけに見える。

「そっと床に置いてしばらく見てて」

 ルーチェの言葉に従って、ミーネロートは慎重にガラスを床に置く。すると比重が周りより大きいのだろう、色の付いた液体がゆっくりと下に落ちていき…突然泡になって、勢いよく上に登っていき、水面を飛び出すとガラスの表面でカラフルな花を咲かせた。花となった液体は筒の大部分を占める無色透明な方の液体の表面に集まり、再びゆっくり沈んでいく。そしてまた泡となって立ち上った。

「すごい!水のお花が咲いたよ!」

「ルーチェお姉ちゃん、何これ何これ?」

 少年たちは大喜びだ。レオンハルトもサーマイヤーフも興味深くそのガラス筒を見つめる。

「この色が付いてるのが精製水か?しかし、こりゃどうなってんだ?」

「封入されている液体はほとんど全て、精製水の沸騰(ふっとう)程度では火のつかない、不燃油です」

 あくまでサーマイヤーフの息子たちの方を見ているためか、ルーチェはすらすらと説明できている。

「いくつかの染料を混ぜて色を付けた精製水は、油の中を落ちていく中で熱を帯びて沸騰(ふっとう)して油面を突き抜け、容器のガラスにぶつかった時に冷えて液体の精製水に戻り、ガラス面で幾つもの色が花が開くように広がるんです」

 レオンハルトはその説明に少し不安になる。

「精製水を沸騰(ふっとう)させて大丈夫なのかい?」

「1滴だけだから。ガラスも熱に強い特別製。1番苦労したのは依頼したガラス職人さんかも」

「ところで熱くなるってのはどういう訳だ?」

「流体の抵抗…うーんと、何かを手で(こす)っていると段々熱くなりますよね。液体同士でもそうなんです。精製水は言ってみれば油に(こす)られながら下に落ちていくんです」

 ミーネロートもシュワライムも、ルーチェの説明は全くわからない様子で、ただじっと時折ガラス面に咲く色とりどりの花を見つめている。それでルーチェにも満足してくれたと判るのだろう。自慢げに2人の様子を見守っている。

 サーマイヤーフは息子たちの様子を楽しげに見守っていたが、やがて咳ばらいをすると話しかける。

「ミーネロート、シュワライム」

「どうしたの、お父さん」

「父さんな、しばらく出張でこの街を離れるんだ。母さんを頼むぞ」

「お父さん、お出かけ?お土産買ってきてくれる?」

「…うん…」

 幼いシュワライムと違ってミーネロートは父の真剣な様子に何かを察したのだろう、はしゃぐ弟とは対照的に神妙な顔をしている。今回の敗戦での死者の数字は、歴史的なものだ。サーマイヤーフの立ち位置では、詰め腹を切らされるという事も有り得ないではない。そこまでの事は想像がつかないだろうが、幼いながらにミーネロートは真剣だ。

「任せてお父さん、ちゃんとお母さんを助けて、毎日頑張るから」

「ああ、頼むぞ…お土産も楽しみにしてろ、嬢ちゃんのよりすげえ奴は思いつかねぇが、(たま)には父さんの下手糞な奴じゃない、ちゃんとした絵でも買ってやろうか」

「僕はお父さんの絵、好きだよ。なんだかあったかい」

 ミーネロートが気持ちを受け取った所で、サーマイヤーフは周りも神妙になっているのに気付いて明るい話題を出す。父が笑ってくれたので、ミーネロートも嬉しそうだ。まだ幼いシュワライムには空気の異様さは判らない様子だったが、皆それが逆に自分たちの心の重さが杞憂(きゆう)に思えて救われていた。


 サーマイヤーフの宣言通り、レオンハルト達は明日このシルマンテの街を発ち、港からシムレー号に乗り込んで王都を目指す。それはアイク島から此処までの航海とは比較にならない穏やかな海路だが、その先には伏魔殿が待っている。季節はまだ冬、木々は寒風に耐えながら寂しい姿を(さら)しているが、一足早く謀略の花が王都で咲き乱れようとしている。

第一章レイシン河方面地域篇はここで終了です。

書きながらあれもこれもと追加してダラダラ長くなってしまったのに、追いかけてくださった方、本当にありがとうございます。

第二章は大まかなストーリーは決まっていますが、まだ細かい所を詰めていないので、再開に時間かかるかもしれん。お待ちいただけると嬉しいです。

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