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レテンド大陸興亡記  作者: 嶺月
一章
21/36

逢引の情景

二人のデートの様子、此処までちょっとだらだらと書いてしまったので、ギュッと凝縮して一話に収めました。もっとイチャイチャして欲しい人には物足りないかもしれませんね。

 2人は政庁舎から遠ざかるにつれてだんだん増えてきた住宅の、アイク島との違いについて語り合いながら、まず街の中央に有る広場を目指した。その途中、レオンハルトは擦れ違った身なりの良い男の持ち物を見て、ふと自分に与えられた部屋にずっと安置されている()る物の事を思い出す。その様子を敏感に感じ取ったルーチェは、折角2人で出掛けている最中に、自分以外の事を考え始めたらしい恋人を(とが)める。

「急に何か考え事?」

「ああ、今擦れ違った男性がステッキを持っていたろう?最近は部屋に置いたままの指揮杖の事を思い出して」

「そう言えば、王様から賜った物だもんね。最近はサーマイヤーフ様に心酔しきってる風だけど」

「陛下の事を忘れたことは無いよ。当然じゃないか」

 ルーチェの言に心外だと答えるレオンハルトだが、確かに今遊びに出掛けているのだってサーマイヤーフの依頼が遠因である。(そば)に居ないために話題が出ない事も有って、周りには忠誠の対象が変化したと捉えられている可能性に思い至った。レオンハルト自身はサーマイヤーフとの関係は友情に近いものであって、二君に仕えるつもりなど決して無いと考えているのだが。

「だが、皆んなはどうだろう。勿論家族も居るだろうから、故郷を忘れたという事は無いと思うけど」

「まだ数ヶ月なのに、遠くには感じるよね…でもあたしにとってはアイク島が大事。この街を好きになれるとしても、それは帰る場所が有っての気持ちだよ」

 そう望郷の念を語ったルーチェはイタズラっぽい表情で付け加える。

「だから、これからレオンハルト頑張らなきゃね。お役所まで来る時サーマイヤーフ様が話していらしたけど、今回の敗戦でお立場が危うくなるって。もう直ぐ待ちに待った王宮からの呼び出しが有るそうだけど、予定よりだいぶ大変そうだよ」

「そうか。ルーチェを連れ帰ってくださった時の楽しげな様子では、そんな気配は微塵(みじん)も感じなかったが、確かに(まれ)に見る敗戦なのだからそういう事も有るか」

「…思い出したらまた恥ずかしくなってきた。それで、レオンハルトとしてはどうするつもり?以前はそれが島にとって最善なら、サーマイヤーフ様を裏切ることも選択肢の1つだ、なんて言ってたけど」

 ルーチェは何気なく口にしたが、少しどころではなく物騒な話題なので、思わずレオンハルトは周りを見回してしまう。幸いレオンハルト自身の唐突で怪しい振る舞いも含め、周囲にこちらを気にかけている様子の通行人は居ない。若者の狼狽(ろうばい)ぶりに、少女は若干呆れてしまう。

「誰かが聞いてたら、こんな話題出す(はず)が無いでしょ。そんな事よりどう思ってるの?」

「今回の敗戦の影響が軍や市民の間にどう影響するかも判らないし、王宮に実際に入るまでは態度の決めようがないよ。ただ、閣下の影響を受け過ぎかもしれないけれど、アイユーヴ王国の上層部が信頼と尊敬に値するとは考えにくいね」

「あたし達が今回の戦争より前に招かれなかったのも、サーマイヤーフ様への嫌がらせみたいだしね。確かにあたし達がどうこうって言うだけでなく、アイク島の気風にも馴染まないかもね」

 アイク島では宮廷内の陰謀劇は存在したが、資源の少なさから政には効率性を重視する傾向が有り、足の引っ張り合いをするにしても、最低限の節度という物を踏まえていた。上に立つ騎士がそうである為か、平民にもその傾向が有り、全くの異邦からの来客を平気で辺境に留め置いてしまう王国の態度には、ルーチェだけでなくシムレー号乗組員全員が反感を抱いている様子だ。

「まぁだからこそ、この国を実際に運営する機構に携わる官僚たちは有能かもしれない。それより、せっかく遊びに出たんだ。もっと街の眺めとかそんな話をしよう」

 まだ結論付けるには情報そのものが足りないと考えている事を告げて、レオンハルトはこの外出の目的へと話題を転換することを提案した。ルーチェも嬉しそうに同意して、話している内に見えてきた街の中央の広場の景色についてあれこれと論評を始めた。


「ふ~ん、ここが行商人の露店が並ぶ地区ね。ライナさんの言い様では、もっと(さび)れているような想像をしてたけど…」

 広場に並んだ屋台で、2人とも生まれて初めての買い食いを体験した後、最初の予定通り街の東側に有る、街の外から来た行商人が一時的に土地を借りて露店を出す地区に足を踏み入れた。サーマイヤーフの赴任を機に、レイシン河方面地域は王国の他の地域との交流が減っているという事だった。しかし商業という物がほとんど成立していないアイク島から来たレオンハルトやルーチェには、充分活気のある場所に見える。

「そうだね。アイユーヴ王国との国交が成立すれば、アイク島にも何かを作るだけでなく、誰かが作った物を運んで売る、というのが段々一般的になっていくのかな」

「アイク島の技術で作っている物より、此処(ここ)から来た物の方が多分優れてるから、アイク島で何かを作っている人は困っちゃうのかしら」

「農作物は大丈夫だろうけど、鍛冶師などはそうかもしれないな」

「お祖父ちゃんは心配無いだろうけどね。勿論あたしだって!」

 ルーチェが小柄な背丈を目一杯伸ばして大きく胸を張ってみせる。久しぶりに見た恋人の仕草に懐かしさを覚えるとともに、レオンハルトは今回の旅が終わってアイク島に帰れば、また道は分かれていく事に気付いて寂寥(せきりょう)を覚える。

「ん?どうしたの、レオンハルト」

「ああ…この航海が終わっても、私はアイク島とアイユーヴ王国を(つな)ぐ任務に携わるだろうから、そうなったらルーチェと中々会えなくなるのかなってね」

「あっそうか…でも、あの…その、旅が成功したら、あたし凄く尊敬されるだろうし、その、平民と騎士でも絶対ダメって訳じゃないし…その…」

 ルーチェにしては珍しく結論をさっと告げる事をしないが、聞かなくてもレオンハルトにも何が言いたいかは判る。確かに今回の旅が終われば、ルーチェにはディルの孫娘というだけではない本物の畏敬(いけい)が捧げられ、身分の壁を越える事は容易になるだろう。それにシムレー号が2度目に旅立つまでのしばらくの猶予でも、ちょっとした祝い事はできるだろう。そう思ったレオンハルトは、しかしこのままルーチェが結論を口にするのを待つのではなく、男の自分から関係を変える決定的な言葉を告げたいと、少女の言葉を(さえぎ)ろうとした。

 しかしルーチェの言葉を遮ったのはレオンハルトでは無かった。だが恐らく文句を言うのは筋違いだろう、ここは2人きりの部屋ではなく天下の往来なのだ。

「よう、そこのお2人さん!兄妹で仲良く散歩かい?良かったら俺の店を見てってくれよ!」

 声を掛けてきたのは露店の主だった。連れ立つ2人が歩みを止めて真剣に見つめ合っているのを見て、喧嘩か何かと勘違いして気を遣ったつもりだろう。有難迷惑というものだが、ルーチェは自分が精一杯の勇気を出している所を邪魔された以外の事で気落ちしてしまう。

「…兄妹、だって」

「…うん。まぁ、割と背丈が離れているし、実際5つほど歳が違うし…」

「まあ良いわ。冷静になってみれば、こんな所でするような話じゃなかったし。せっかくだから商品を見せて貰いましょ」

 勢い任せになっている所に待ったを掛けられたルーチェは、それで少し頭が冷えたらしい。気分を切り換えるついでに、誘いに乗って露店を覗くことを提案する。レオンハルトにも依存は無く、2人は声を掛けた威勢の良い店主が広げている、商品を並べた敷物へと歩み寄る。

「この店ではガラス細工を扱っているのかい?」

「応よ、まぁ俺みたいな1人でやってる行商人には、有名どころの工房の伝手(つて)なんかできねぇがな。それでも1個1個自分で目利きした自慢の品だ、ゆっくり見て行ってくんな!」

「ふ~ん。そもそも必需品(ひつじゅひん)じゃない物をガラスでって辺りがもう、アイク島とは全然違うなぁ。それに丁寧な作り…これ、色が違うのは宝石とかじゃないの?」

「これもガラスだぜ。どうやって作ってるのかまでは聞いてねぇが、良い色合いだろ」

「そうね。どうやってるのかな…あれ?こっちのは中に何か入ってる…水の中に家?」

 ルーチェはガラスの瓶のような物の中に、液体と家を()した作り物が収められた細工物に興味を示す。何かの風景をガラス細工で表現するだけならわかるが、それを水に沈めているのがレオンハルトにも不思議に思えた。どうやら自慢の品だったらしく、レオンハルト達が不思議そうに眺めていると、店主は相好を崩して使い道を教えてくれた。

「こいつは一旦逆さにするんだ。そんで戻すと…な?」

 店主が自分の言葉通りに操作すると、底に沈んでいた白い欠片が舞い上がり、ゆっくりと液体の中を落ちてくる。

「へえ、雪景色?」

「お嬢ちゃん、雪なんてよく知ってるな。お天道様が反対向きになるくらい南の方でしか見られないって、作った物好きな職人からは聞いたぜ」

「そっか。この国はだいぶ暖かいもんね。あたし達はこの国の出身じゃないんだ…レオンハルト、あたしこれが欲しいな」

「店主、幾らだろう?」

「銀貨10枚。玩具にしちゃ高いだろうが、何しろ雪なんて珍しい物が見られるって代物だからな」

 店主は値段を提示した後言い訳がましく付け加えたが、レオンハルトにはそもそも相場が判らないので言い値で買う。幸いサーマイヤーフの好意でそれなりに所持金は持っていたし、普段何かに使う当てが有る訳ではないので、ルーチェが気に入ったのならと気前よく銀貨を10枚取り出す。

「まいど。おまけだ、こっちの色付きガラスもさっき気にしてたろ、お嬢ちゃん」

「ありがとう、おじさん!どっちも大事にするね。じゃ、レオンハルト、他のお店も見て回りましょ」

 ルーチェが促して、2人は露店の並ぶ地区を更に東へと進んでいった。目玉商品の買主について行商人は、結局あの2人は喧嘩をしていた訳ではなかった様だし、それに少女の方の呼びかけや態度は兄妹のそれでは無かったな、と自分の人を見る目についてつらつらと考えながら見送った。

読んでくださってありがとうございました。

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