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レテンド大陸興亡記  作者: 嶺月
一章
14/36

騒乱続くレイシン河

敵の予想外の戦法に翻弄された王国軍ですが、体勢を立て直して反撃の機を伺います。

 王国軍の苦戦は続いている。最初の突撃の際に取りつかれた4隻以外の小型艦の他にも5隻が意表を突いた突撃戦法の餌食になった。残りはなんとか後退して砲撃による逆転を狙って前進して来た隊司令座乗艦の下まで戻ることができたが、王国軍の小型艦の陰に隠れるように巧みに操船して追随してきた敵艦を砲撃することはほとんどできなかった。

 ほんの数隻には砲弾を直撃させて大破させたが、焼け石に水とはよく言ったもので、司令座乗艦を中心に組まれた5つの楔形陣形は、どの集団も圧倒的多数の敵艦にその前面を覆われていた。だが流石に集団陣形を取った王国軍にそのまま突っ込んでくる艦は無く、そのまましばし(にら)み合いが続いている。


「ひと先ずは小康状態のようですね」

 幕僚団の1人が安心したようにサーマイヤーフに声をかけるが、彼は状況を楽観視できなかった。

「これまでの奴等の動きならそのまま突っ込んでくる筈だ。わざわざ動きを止めるのは何か裏が有るのかもしれねぇ。そうでなくてもなんとか主導権を奪い返してぇんだ、息ついてる暇はねぇぞ」

 この空白期間を無為に過ごせば、また怒涛(どとう)の攻勢が繰り返すかもしれない。そう思って幕僚たちの尻を叩いていると、通信士が報告を上げてくる。

「レーゼングリュナムから旗信号来ました!‥‥ラ・ム。繰り返します、ラ・ム・…以上です」

「ら…む…?ラムって衝角か?」

「衝角…簡単に接舷したのはそれが原因でしょうか」

「ありゃぶつけた後は離れて勝手に沈ませるための物だが…まぁそれは良い。だとすれば(なお)の事動きを止めた理由がわからねぇな…」

 衝角を従来通り艦の破壊に使うにせよ、今回のように接舷のための手段にするにせよ、艦の速度を緩めては使いようが無い。

「ところで相手が動きを止めてるんだ。大砲で薙ぎ払う訳にはいかねぇのか?」

直掩(ちょくえん)の小型艦が射線を(さえぎ)りますし、動かせば大型艦めがけて突っ込んで来られる恐れも有ります」

「それは上手くねぇな…自由に動けるのはシューラリスだけか」

「それも我が方の5集団を避けるとなると岸辺に近付き過ぎます。擱座(かくざ)の恐れも有るので…」

 こちらが河の地形を把握しかねて動きを鈍化させているのも敵の策略のうちかもしれない。幕僚の答えを聞いてそう考えたサーマイヤーフは、長年争っている因縁の相手の余裕の表情を思い浮かべて歯噛みした。


「これはあきまへんなぁ。敵が陣形を組み直そうが気にせずに群がるように、いう手筈(てはず)やったのに」

 ウンヒョウのわざとらしい呟きに、リーゼンバーグはこれまで幾度となく感じてきた、この胡散臭(うさんくさ)い男への反感を再確認していた。リーゼンバーグの作戦指導の不徹底を責めたいのであれば正面から指摘すれば良い。おまけにそれで戦局が思わしくない方向へ推移しているのに、気にする素振りすら見せない。結局のところこの男にとってこの戦場は他人事、自分の思いついた新戦術を試すための実験場なのだろう。

「それで軍師殿はこうなった場合の腹案などお持ちですかな?」

「そらまぁ面白味はあらへんけども、砲艦の使い時やわなぁ。敵がこちらの意図に気付く前が勝負や。一斉に小型艦を引かせて釣瓶打ちにしたらよろし。ラインズマンはんのお家芸ですやろ?」

「勿論。砲撃戦はヴィセングルの本懐です」

「そしたら急ぎなはれ。敵が損害覚悟で喰いついて来たら厄介やで。幸い小型艦のもう1つの仕込み…3段式の漕ぎ場はこんな時にも活きますさかい」

「通信士、聞いていたな。砲艦には前進を、小型艦には後退を指示しろ。この際時間はこちらの敵だ、手早く動け!」

 ウンヒョウにけしかけられたのは事実だが、砲撃戦こそ本懐だという言葉に偽りは無い。この戦場で好敵手の命を散らすつもりで、リーゼンバーグは勢い込んで命令を下した。


 その頃王国軍艦隊司令部は相手の手筋を読みあぐねていたが、その間の都市連合艦隊の空隙はこの停滞が相手の作戦行動の内ではないという判断に行きつかせた。であれば次はヴィセングルにとって最も手慣れた戦法…砲撃戦を挑んでくるだろうと予想できた。

 ここで幕僚の意見は2つに分かれる。まず後退する敵小型艦を叩くか、それとも敵の挑戦に応じて砲艦と撃ち合うか。砲撃戦がヴィセングルの伝統的な戦法なのは確かだが、今回は敢えて小型艦による接舷戦法を選んできたのだから、再びその戦法に移る前にできるだけ数を減らすべきだという意見は幕僚団の多数派を占めた。

 だが、サーマイヤーフは後者を選んだ。衝角だけでなく、最初の突撃の船足と言い接舷してからの制圧の早さと言い、どうやら何年もかけて密かに温めてきたとっておきの戦法なのだろう。しかしいざこちらが陣形を立て直した途端に腰が引けてしまう辺りから見ても、都市連合の兵士自身がこの作戦を信頼できていない。後方に砲艦という切り札が控えていなければ、士気が低下して本領は発揮できないだろう。

 そう幕僚たちに説明して同意を得た後、砲艦に対処するようにとの命令を各大型艦に伝達するためにボートを出した。ここまで意表を突かれっぱなしの王国軍は今の状況に対応した手旗信号を用意していないのだ。ボートが辿り着いた大型艦から順に、砲戦のために敵軍に横腹を(さら)していく。また随伴していた小型艦を、後退していく敵小型艦を追う素振りを見せつつ敵砲艦との射線を確保するために散開させる。狙われていると判断して慌てふためいた敵小型艦の動きが砲艦の迂闊(うかつ)な前進を誘発すればよいが、砲撃戦に慣れ親しんだヴィセングル兵がその手のミスをすることはあまり期待できない。ここからは正面から練度を競う闘いになるだろう。


 後退する小型艦に構わず、敵砲艦を狙えと言う伝令を受領した、レンデンマーニ号に司令座を構えるミューラージュ・セスメタルスは、直ぐに敵の士気に狙いを定めたサーマイヤーフの意図を了解した。であればなるべく砲艦を叩くのと同時に、狙われているという恐怖感を小型艦に与えたい。そう考え、艦長になるべく射角を低くして砲弾を小型艦をかすめるように飛ばす事は出来るかと尋ねたが、それでは折角の砲艦に対する射程の優位を捨てる事になる、と反論されてしまった。砲艦はこちらの倍存在するのだから、出来るだけ近付けずに済ませたいのは確かだ。ミューラージュは二兎を追う戦法は捨て、敵の小型艦は麾下(きか)の小型艦に追い回させて疲弊(ひへい)させることで満足する事にした。

 砲撃戦は艦長以下の力量に委ねる他無い。出来れば後退する敵小型艦を追い立てて敗走心理を植え付けたいのだが、敵艦の方が圧倒的に数が多いので下手に藪を突いて蛇を出すわけにはいかない。総司令官の命令通り、血迷って反転することが有ればすぐに退避できる距離を保って、緩やかに上流へと小型艦を差し向けた。幸い同格の僚友たちも同じ判断だったようで、少数が突出して好餌となる事態は避けられた。


 ロッテントロット都市連合艦隊の…つまりヴィセングルの10隻の砲艦の1つ、風待月は敵の大型艦の動きを注視しながら慎重に北上していた。総司令官リーゼンバーグは力強く砲撃戦こそヴィセングルの本分だと請け負ったが、長年そのヴィセングルと覇を競ってきたレイシン河方面艦隊も砲撃戦に十二分に精通している。何よりこれから砲弾を交わし合う事になる敵の大型艦は、自分たちが装備している物より口径も射程も上の大砲を、しかも複数搭載している。有利なのは舳先(へさき)に1門しか装備していない代わり、敵に向かって正面を向いて戦闘態勢を取れる事だろう。いざという場面で動きに自由度ができるし、船の形状ゆえに敵から見た的の大きさが大幅に小さくなる。

 風待月の砲手セランは大小の戦いを経験した古強者だが、仲間の顔に隠し切れない恐怖と緊張を見出していた。それを臆病と笑う事はできない。自分も同じような顔付きだろう。決して慣れる事のない恐怖に小刻みに震えるヴィセングルの兵士は、蛇行しながら退避してきた小型艦の向こうに、こちらを向いた砲門が煙を上げるのを確かに見た…


 ミルメラディオの乗組員は、初弾が見事に敵砲艦に命中したのを目視して快哉(かいさい)を挙げた。どうやら轟沈(ごうちん)は避けた様子だが、砲艦は艦首に唯一の攻撃手段を備えているから、直撃すれば無力化できる道理だ。だがこれはまぐれ当たりの類である。今はたまたま無風だったために弾が真っ直ぐ飛んだが、河の上は頻繫(ひんぱん)に強風が吹き抜ける事が有るし、目標までの距離を目視で正確に測るのは容易ではない。

 王国軍と都市連合軍の激闘は第2幕が上がったばかりだ。

読んでくださってありがとうございました。

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