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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
三章 聖羅ルート攻略シナリオ
95/226

95聖羅ルート 引継ぎ

 聖羅ルート最後の夜、シナリオには関係のないタイミングで、俺はこの夏休み最後の日に唯人と聖羅に通話をすることが叶った。


 これといって話しておきたいことが有るわけではない。ただ……我儘でちょっとだけあいつらの声が聞きたかっただけだ。


 ……俺はツンデレか? しかも男相手に? 誰に得があるというんだ? ヒロイン、またはそれ以外の登場人物の中に腐の付く性癖の方は一人としていない……はず。


 通話の繋がった先、唯人の部屋にはやっぱり聖羅もいるみたいで、後ろから楽しそうに漫画で爆笑している聖羅の声が聞こえた。


「よお、上手くいっているみたいだな」

『一颯のおかげでな。感謝してる、それと悪かった』

「もういいさ、唯人の秘密を一つ二つ知らなくたって俺たちは親友さ。聖羅と二人だけの秘密にでもしておけ。話してくれるんだったら、いつか酒の席で夜通し語り明かしてくれよ」


 最後とは思えないほどあっけらかんとした態度、実際、明日にも夏休みは開けて授業が始まるのだから、俺が唯人と会うのは当たり前だ。唯人の眼にはいつも通りの俺が映っている。


 唯人に“俺”のことを気付いてもらえない寂しさはもちろんあるが、明かしたところで得られるのは自己満足だけ。それでも十分な戦果と言えるのかもしれないが、だったら最後まで貫き通して俺は唯人におめでとうと一言を伝えたい。


 アフターストーリー、それは存在するシナリオであるにも関わらず、唯人とヒロインしか体験できない幸福のひと時だ。そこに俺の存在がないのは当たり前だが、せめて唯人のことを祝ってやりたいのは我儘だろうか?


「聖羅とはどこまでいったよ? デートらしいデートはしているのか?」

『デートは……不甲斐ないことに聖羅の方が詳しくていつも合わせてもらっている感じだ。どこまでいったかについては一颯が仕組んだ通りに全部なったよこの野郎』

「ははは、良かったじゃねえか、これでもう聖羅は手放せないな、手を出したんだからしっかり生涯大切にしろよ?」

『それは本人が近くにいる前で言いにくいことなんだが? それに言い方が重いし、まあ俺にはもったいないくらいだ、手放すなんて選択肢はないな』


 あまり自由を拘束しないようにな、とは言わない。長い事一緒に過ごしてきたが、唯人は聖羅のことを一生大切にすることだろう。昔の不安定な唯人だったら聖羅に依存して困らせていただろうしな、成長したもんだ。


「はあ、唯人にはついに追い抜かされてしまったか。もうマウントを取るなんてことが出来ないなんて……」

『一颯はそこまで自慢しなかっただろ、それに付き合っていないんだろ? いつ気持ちを伝えるつもりだ? 噂じゃ、二人が一颯の取り合いに発展しているってこっちの寮長から聞いたぞ?』


 寮長……、柊木先輩か。コソコソとやっていたつもりだったが、案外周りに見られていたのかもしれないな。それも俺と心春が常に一緒に行動しているなんて有名な話だ。そこに花恋さんが入り込んでいたら気付かれるか。


「今年度の卒業式までに告白することに決めたよ。だから、最後に俺がヘタレようものならば、得意の背負い投げで俺のことを叱ってくれ」

『オレの腕は鈍っているからな、余計に痛いかもよ。というか、オレの得意技が背負い投げって教えたっけ?』

「あっ……、そんな気がしただけで誰かに聞いたわけじゃない。あまり気にしないでくれ」


 そうだった。聖羅ルートの唯人は柔道については俺にほとんど何も話してくれていなかったんだ。今がシナリオに組み込まれないフリーなタイミングで助かった。


「ちょっと聖羅に代わってくれないか? 軽く話したいことがあるんだ」

『ああ、いいよ、……聖羅、一颯から話があるってさ』


 後半は携帯から話したから声が少し遠い。聖羅はベッドの上にいたらしく、するすると衣擦れの音が聞こえた。

 唯人が聖羅に携帯を渡したと同時、なんだか久しぶりとなる聖羅の奇天烈なあいさつが飛んできた。


『はろーぐっない! みんなのうら若き乙女アイドル、聖羅ちゃんだよー』

「いろいろツッコミを入れたいところだけどさ、いつアイドルになったんだ? みんなのって唯人意外に媚び売って怒られないか?」

『あ、そうだね、じゃあ、言い直すと……、うら若き唯人の彼女アイドル、聖羅ちゃんだよー』

「メイド喫茶ででも働いていたのか?」

『おいおい、ツッコミが多いよ』


 まあそんなこんなで二人が上手くやっていることは確認できた。


 ちなみに、俺が聖羅に話したいことがあるというのは詭弁だ、理由なんて元からない。だからなんで聖羅を呼ぼうと思ったのか自分でも分かっていないのだ。


 聖羅ルートにおいての聖羅の声を、最後に聞いておきたかった。……こう思えばスッと自分の中で納得できた。


「唯人とは、……聞くまでもなく上手くいったみたいだな。手を貸した甲斐があったものだ」

『ホント、一颯と心春には感謝してもしきれないよ。お礼にあたしが持ち寄った玩具と同じものをプレゼントするよ』


 聖羅の後ろの方で唯人が思い切りこける音が聞こえた。まあそれで察したわけだが、そんなものを俺が持っていると知ったら心春は卒倒するだろうな。最近、そんなかんじの知識を得てしまったがために、俺のパソコンの検索履歴にはたまにとんでもないワードが飛び出てくる。


 ギャルゲーに出てきたよく分からない単語を調べた結果がこれなんだろうけども、時折俺のことを避けようとすることがあるときは直前にこれらを調べて見てしまったからだと思う。


「そうだな、唯人にはもう言ったんだけど、俺は今年度の卒業式で覚悟を決めることにしたからさ、その時に一式揃えてプレゼントしてくれよ」

『あらびっくり! 一颯のことだから怒って通話を切られると思ってた。もしかして、興味ある? 興味津々? 心春と一線を越えたいの?』


 こんな会話、心春に聞かれなくてよかった。部屋には俺一人だし、こういう時くらい下に偏った話も悪くない。


「早いうちに春の訪れを予習しておこうと思ってな。内緒だぞ?」

『心春だけに? ……冗談、分かったよ、一颯が一人でしこしこ男になろうとしているのを言いふらしたりはしないから』

「なんか悪意が垣間見える言い方だな。聖羅らしいから逆に信用できるけど」

『ふふ、ありがとう。そういえば、話したいことがあったんじゃなかった?』


 褒めたつもりはなかったんだけどな、本人が喜んでいるのならそれでいいか。


「……そうだったな、……もし、俺の様子がおかしくなったり、ヘタレて何もできないとか言い出したら強引にでも何かしてくれないか?」

『すっごく曖昧だね! でもそうか、一颯って心春という可愛い子が傍にいながら浮気を企てるわるーい男だったもんね』


 否定できないのが悔しい。まさか聖羅に恋愛で煽られるとは、……屈辱だ。


 ……いや、これは俺にとっての戦果だ。聖羅ルートをクリアしたから聞ける聖羅の楽し気な声、これを聞くために俺は毎日を奔走していたのではないか。


「そういうわけで、いろいろあったわけだ。しっかり自分の気持ちを整理して、最後はしっかり決める予定だから、今度は聖羅たちのサポートを期待しているよ」

『任せなさい! 一颯を立派な男になれるように二人で力を合わせてサポートしてあげる』

「ああ、任せたぞ」


 ――それから適当に雑談をして通話が切れた。そうか、二人でという言葉は、もう俺と心春の専売特許ではなくなったわけか。


 奪われた喪失感はない。むしろ仲間が増えて嬉しかった。


 やっぱり最後に二人の声を聞いてよかったな。俺は達成感を味わうことが出来たし、これで憂いなく次の世界へと旅立てる。







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