91聖羅ルート 戦場へと赴く乙女
こちらからのお願いを城戸先輩に聞いてもらうことになって、聖羅は恥ずかしがりながらも恋愛のエキスパートである城戸先輩の元へと向かって行った。
その間に俺と心春は残りの夏休みを使って唯人を観察する。料理部に許可をもらって家庭科室に顔を出し、料理の勉強と称しつつ唯人の聖羅への態度を調査していたが、三回ほど観察していれば答えははっきりした。
「あれ、聖羅のことを完全に友達としか見てないね」
「うん、ほぼ確実だね、あれはもしかしたら聖羅ちゃんのことを異性としても見てないかも」
どういう心境の変化があって、吊り橋効果からマブダチへ変化していったのか、そこが分からなくて俺たちは唯人に直接問い質すことにした。正直面倒くさくなったとも言える。
そういうことでさっそく唯人に電話を掛けるとコールが五回ほど鳴ったところで通話が繋がった。
「おう、唯人、最近の聖羅についてどう思う?」
『いきなりどうした! 聖羅について? 最近は普通に遊んでいるよ』
「何か変化に気付いたとかないか? 可愛くなったとか、フェチシズムが刺激されるとか」
『どんな変化だ! ……まあなんだ、なんかあいつが最近エロくなったと感じたよ。格好が大胆だし、好きな男でもできたのか?』
心春と目を合わせる。そして嘆息を漏らしつつ揃って首を横に何度も振った。
こいつ、何も分かっていない……。どうして好きな人が出来たと気付いているのに、自分の部屋に入り浸っているのかその理由を考えろ。別に聖羅の格好はそこまで大胆になっていないし、唯人のためにお前の性癖全開の服装を聖羅が振り向いてもらえるように身に纏ってくれているんだ。
すべては聖羅が唯人に恋する気持ちに気付いてもらうため、聖羅は今すぐにでも告白と考えていたようだが、心春と共に止めておいて正解だった。これでは普通に友達でいようと言われて挫折して終わるところだった。
『おーい、一颯?』
「なあ、唯人? お前は聖羅のことが好きじゃないのか?」
『いやあいつのことは好きだよ。可愛いし、でも聖羅は俺にとってはさすがに高嶺の花だよな。学年問わず告白されているみたいだし、付き合わないのも部活の為だっけ? なんにせよギャルのあいつに俺みたいなバカはつり合わないからさ』
ああ……、なるほど、そういうことか。
唯人は別に聖羅のことをただの友達としかみていない、というわけではなかった。ただ聖羅の校内での知名度が高すぎて、まさか自分に好意を向けられているとは思っていないわけか。なら、聖羅の好意が自分に向けられていると気付けば受け入れてくれるのか?
「聖羅が唯人のことを好きだって言ったら、唯人は付き合うか?」
『そんなのあり得るわけないだろ、でも、……そうだな、もし聖羅にそんなこと言われたら嬉しいな、付き合えるならどんなに幸せなことか。あいつと話しているのは楽しいし、相性はいいと思うぞ、……はは、自意識過剰か?』
「よし! 言質取ったぞ」
『は? どういうこと?』
俺たちのこの会話は心春が傍で聞いている。さすが俺のことを分かっているようで、携帯を取り出しながら部屋を出て行った。聖羅に電話を掛けるようだ、細かいことは心春に任せよう。
聖羅のことについてはちゃんと心春にも相談したみたいで、やっぱり踏み込んだところは男の俺よりも頼りになったみたいだ。女子の恋愛を男の俺がより理解していたらさすがに聖羅を叱らなくてはならないしな。
「今、唯人の部屋は片付いているか? 特にベッドの上とか」
『まあそれなりには、足場が見える程度には片付けてもらった。ベッドの上は物を置かないようにしているが、何かあるのか?』
片付けたのはサラさんか、あいかわらず精魂逞しいな。でもこれからは聖羅と唯人の二人の時間だ、悪いがサラさんにはここで退場願おう。
ちょうど今は夜だし、消灯時間にはわずかに余裕がある。聖羅のことだし深夜の男子寮に学生証を通さずに忍び込む方法は知っているはずだ。
「今な、心春が聖羅と電話しているんだけど、もう少ししたら聖羅を唯人の部屋に嗾けるから」
『どうして? え、何かあったのか?』
「鈍感だなあ、もしかしてそういう系の主人公か?」
唯人はそういう主人公設定なんだよな。それは今までに俺が見て確認してきたから間違いない。
「わざわざ聖羅が唯人好みの格好で部屋に来てくれたというのに、手を出してくれないって嘆いていたぞ」
『は? オレのためなの? なんで聖羅がオレのこと……』
「お化け屋敷で唯人に抱かれた時の男らしさに惚れたんだとよ、だからまた聖羅のことを抱いてやれよ。あいつは今から本気の格好と覚悟でそっちに向かうから」
唯人の性癖全開の格好に見えない所は城戸先輩の全面協力のもと、唯人の理性を吹き飛ばすことは容易であるとお墨付きをもらったそうだ。
「必要な物は聖羅が全て持ってきてくれるから、それは安心しろ。明日は何もないんだろ?だったらあとは欲望のままに聖羅を抱いてやれ、じゃあな」
『ちょ、ま――』
問答無用で通話を切る。直後に唯人から折り返し電話が来たが容赦なく拒否、そうすればもう掛かってくることはなかった。
聖羅からはメールで『絶対に落としてくる!』と一言と可愛く着飾った自身を撮った写真が添付されている。これだけ気合が入っていて乙女全開に可愛いのならば問題ない。頑張れ! 聖羅。
やっぱり俺たちは長い付き合いだったこともあって、俺の応援の入れ方は月宮さんの時よりも強かった。聖羅と唯人、あの二人なら必ず上手くいく。
それにしても早くも大人の階段を上るのかぁ……。まあそういうゲームだし。
このように強引な手が使えるのはありがたいな。本当は唯人が聖羅を好きになって男らしい展開ってのを期待したんだけど、やりすぎたな。立場が逆転しちまったよ。
戻ってきた心春と軽く拳をぶつけた。お互い上手くいったようで何よりだ。
「なんだか、あっという間だったね。あのお化け屋敷から一週間くらいだよね?」
「そういやそうだな、時間の感覚が狂っているせいか何も考えてなかったよ。……そうか、一週間か。いつも様子見ばかりだったからな、たまには強引に誘導することも大切か」
あとは唯人の覚悟次第ではあるが、聖羅ルートに入っている以上、そういう機会があればものにするのが主人公だ。特段気にすることもないだろう。
「ちょっと気が早いけど、お祝いがてら私が明日のお昼を作ってあげるね、明日は母さんたちがいないからささやかにパーティでもしようよ」
「それはいいな、あとは俺たちの出番はなさそうだし、あいつらが上手くいくことも願ってパーッといくか!」
たった三回だけ参加した料理部だが、心春は包丁の扱いにすぐ慣れたみたいで手際がよかった。俺はからっきしだったが、その分、心春が料理の楽しさを知ったらしい。
嗚呼、急に重荷が無くなると身体が軽い。今なら空も飛べそうだ。
さすがにどたばたするわけにもいかず、時間も時間、俺たちは素直に就寝するのだった。




