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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
三章 聖羅ルート攻略シナリオ
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87聖羅ルート お化け屋敷講習会

 窓の外は完全に夜、俺たちが学校に来る前にお化け屋敷講習会を行っている多目的室からは一つ隣の教室に移動し、そこで事前に準備していた迷路型のお化け屋敷に今日の参加者はお化けの仮装をして待機していた。俺も心春も準備は万端だ。


 三階から四階に続く階段には若干の血のりを付着させてきたから、唯人たちも四階に何かあると踏んでやって来るはずだ。


「みんな、声は出さなくていいわ、静かに聞いてちょうだい」


 花恋さんが小声でこれからやってくる唯人たちのことを説明する。事前に説明はしているが、先ほどまで講習を受けていた一年生の実践みたいなものだから張り切り過ぎないよう釘を刺していた。何しろ、あいつらは俺たちのことを本物の心霊現象と信じてやって来るのだから、最後にはネタばれをしないといけない。気絶されたら困りものだ。


「――前か後ろか、どちらの扉から入って来るか分からないわ、いつでも脅かすことが出来るよう準備しておきなさい」


 迷路のいたるところに配置された一年生が暗闇の中で頷くのを感じた。楽しみ半分、緊張半分といったところか。


 二年生と三年生も若干名お化け役として配置されていて、俺と心春も聖羅を驚かすために配置についている。


 呼吸を殺して耳を澄ませると、遠くからコツコツと床を叩く音が二つ、遠くから小さく聞こえる。その瞬間、教室には張ったピアノ線のようにピーンとした緊張感が俺たちを包む。


 みなが作った雰囲気だけでこの教室をおどろおどろしいお化けの巣窟を創出する。


「ここか? ……なんだ、これ? 教室が迷路になっている!?」

「ゆ、唯人、ここから先はダメだよ、きっと黄泉に繋がっているんだよ、だから帰ろ? ね?」


 俺たちが作った段ボールと黒いビニールの壁という陳腐な物でも、心霊現象を絶賛体験中の二人にはビニールの触り心地が気色悪いものに感じられるだろう。


 怯えつつも二人が教室に足を踏み入れた瞬間、後ろの扉が勢いよく閉められる。


「――――ッ!」

「なんだ!? クソ! 開かない……」


 聖羅が声にもならない声をあげ、唯人が扉をガタガタ揺らすが、外側で先輩方が鍵を掛け、全力で押さえつけているから、唯人の腕力をもってしても開かれることはなかった。


 このお化け屋敷は迷路のようで簡単な分かれ道しかない。ゴールまではどのルートでもたどり着ける親切仕様だから子どもでも迷子にならない設計になっている。そんな教室を広く使って長い間隔で驚かしが行われる。


「――うわっ! なんだ今のは?」

「な、何があったの?」

「いや、なんか首筋に何かが張り付いたような……」


 まずは古典的なものではあるが、こんにゃくを釣り糸に括り付けて唯人を攻撃する。驚いてはくれたものの、それで怯えるような唯人ではなかった。案外お化け屋敷に慣れていそうだ。そうなれば当然狙いは隣で唯人にしがみついている聖羅に移行する。


 ――そして攻撃を開始する直前に、こちら側にとって非常に嬉しい事件が発生した。


「あ、電池が切れた……」

「うそ! 予備は?」

「持ってきてない」


 唯人が持ってきていた懐中電灯の電池が切れ、教室は完全な闇に包まれる。明かりでくまなく捜索されたらぼろが見つかるかもしれなかったから、本当にありがたい。


 ……さて、そろそろ本格的なお化け屋敷が始まる。心春の出番もすぐでワクワクしている頃だろう。


 唯人たちが心春の潜伏する地点を通った瞬間。


「イヤアアアアアア――――!」

「ど、どうした聖羅!」

「あ、あし、だれかにつかまれた……」


 それは心春がやったやつだな、壁の隙間から心春がガシっと痕が残るくらい力強く、でもばれないよう一瞬で手を離して隠れる。その後は一年生が続いて聖羅の足をくすぐったりまた掴んだり、意識を足元に集中させる。


「な、なんであたしの足を狙うの!? くすぐったいし、なんか、足が重いし……、唯人、置いて行かないでね?」

「あ、ああ、もちろんだとも」


 完全に幼児に退行した聖羅が唯人に縋る。時たまに鼻を啜る声が聞こえるから本当に怖がっているんだな。お化けなんて姿を見なければ怖くもないと自信満々に言っていた聖羅がここまで弱ると、俺だけでなくて周りの奴ら全員の嗜虐心をくすぐられている。


 きっと俺たちはニタニタとイヤらしい笑みを浮かべていることだろう。


「キャア! 背中なぞられた!」


 女子は聖羅に見つからないよう積極的に触れて苛め抜き……。


「キャア! 首に水滴が垂れきた!」


 男子は遠隔で聖羅に地味ないたずらを重ねる。校内で名も知れている聖羅相手ということもあって、男子共は前からかなりはり切っていた節がある。


 精神的に参った聖羅は唯人の介護なしでは歩けない状態だ。ほとんど唯人が聖羅を抱えている。


 ゴールまで残り僅か、そこまで来てついに聖羅が腰を抜かした。


「唯人ぉ、もう、だめ、歩けない……、こわいよう」

「……仕方ない!」


 唯人がしゃがみこんでしまった聖羅を横向きに抱き上げる。普段から鍛えている筋肉の賜物だな、余裕のあるお姫様抱っこだ。


 これには俺を含む何人かが「おお〜」と声を出してしまうが、聖羅にはこれすらお化けの鳴き声と勘違いして叫びと共に耳を塞いだ。


 こうなってしまえばもう聖羅に余計なことはしなくていい。最後に俺が仕事をして完了だ。


 光が漏れないよう暗幕の中で唯人たちの様子を確認していた俺は二人が入ってきた扉の教室側に立っている。


「……あれ? こっちの扉も開かないのかよ……、閉じ込められたのか?」

「いやだよぉ、もう帰りたいよう……」


 俺と共に室内を暗視カメラで確認していた花恋さんからゴーサインが出る。唯人たちが入っていった方の扉の鍵を乱暴に外し、勢いよく扉を開けてもらう。


「では、いってきます」


 俺は駆けだした。力強く床を靴裏で叩いて音を響かせながら。


 順路をどたどたとひたすら走る。ただそれだけなのになぜか楽しい!


「な、なんだ、何か近づいて来るぞ!」

「やだやだやだやだ! 来ないで! 来ないで!」


 唯人と聖羅の悲鳴が子気味良い。面白いくらいに二人は俺たち演劇部の術中にはまってくれた。


 これで最後、最後の仕上げが終わってネタ晴らしをすれば、きっと二人は吊り橋効果で恋愛感情が芽生えるに違いない。


 靴音をドンドン鳴らして唯人たちの元へ駆ける。俺の手元には懐中電灯。


 暗闇の中でこじ開けようと聖羅を抱えたまま扉を叩く唯人の姿を発見した。正確なところは分からないが、聖羅は声すら出せずこちらを恐怖に染まった顔で見ていることだろう。というより精神がぎりぎりで俺のことをお化けじゃないと信じる他ないのだろうな。


 二人を発見した俺は、そこから歩いて近づく。二人にとっては頭の中でカウントダウンが始まっていて、ゼロになった時の絶望が思い描かれているはずだ。


 二人の傍に辿り着いた俺は手元の懐中電灯を胸元から上に向けて持つ。まあ古典的な驚かし方ではあるが、精神が参った状態の二人になら効果は絶大だ。


 ――カチッ!


 その瞬間、懐中電灯のライトが点灯し、俺の顔……、花恋さんや城戸先輩が全力を持ってメイクした本物さながらのお化け面がライトアップされる。

「おわああああ――――!」

「ヒィヤアアアア―――――!」


 予想を裏切らない悲鳴に、俺は大満足。


 しばらくして唯人の後ろの扉の鍵が外され、扉の外から花恋さんが入ってくる。そして壁を少しずらすと、そこにあった教室の蛍光灯のスイッチをパチッと押す。


 突然の光に俺も唯人も目が眩む。


「うっ……、あれ? なんだ、これ?」

「ごきげんよう、演劇部のお化け屋敷は楽しんでいただけたかしら?」

「へ……? 二階堂先輩? 演劇部のお化け屋敷?」


 俺はお化けの仮装をしていたために被っていた白いパーカーのフードを取り去る。メイクは落とせないが、これだけで唯人は正体が俺だということに気付いてくれた。


「い、一颯! これはどういうことなんだ!」

「お、落ち着けって、説明はするから、隣の教室に聖羅を寝かしてきな」

「あ、そうだった、聖羅、……聖羅?」

「キュー……」


 唯人の腕の中で聖羅は目を回して気絶していた。やっぱり俺たちはやりすぎてしまったみたいだ。







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