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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
三章 聖羅ルート攻略シナリオ
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85聖羅ルート 義兄妹の喧嘩

 家に帰ってきた俺たちは部屋に戻り、心春に頬を両手で挟まれた。人によってはそれを平手と捉えるかもしれない。


 痛い。身体の芯まで響く、鈍い痛み。


 ……覚悟していたことだ、俺は心春を怒らせてしまったのだから。


 床に正座した俺は正面に女の子座りする心春に頬を叩かれても、どんなに怒りを買ったとしても後悔だけはしなくなかった。


「本当はどれにトロフィーが入っていたか、知っていたんじゃないの? じゃないと、あんなに真っすぐ奥の段ボールを取ろうとしないもん。上に乗っかっていたのも、中に何が入っているのか知っているみたいにどんどん落としていくし」

「……そうだ、俺が取った段ボールは、唯人の言う思い出が詰まった段ボールの一つ隣だ。その段ボールには唯人の汗が染み込んだぼろぼろの柔道着が入っている」


 俺の胸を心春が握った拳でどんと突き出して叩いてくる。ちょうど心臓のある位置で威力が弱くても少し息が止まった。


「どうして? どうして一颯くんは、唯人くんの“マブダチ”であることをやめたの?」

「先に言っておくぞ、俺はすべてを諦めたわけじゃない。思い出のトロフィーが入っている段ボールの隣にも似たような物が入っていることに期待しなかった訳じゃない。むしろ入っていてくれと願っていたほどだ」


 俺はそう期待して、あえて隣の段ボールを引っこ抜いた。あの段ボールにトロフィーといった唯人の栄光は何も入っていない、……手に持った瞬間にそんな気はしていた。最悪これで唯人とは友達の縁が切れてしまっても仕方ないと、半ば諦めている。


「じゃあ! どうして唯人くんと友達であることを望まずに、“聖羅ちゃんを優先”することにしたの?」


 普段から俺のことを見てくれている心春だからこそ、涙を流してまで問い詰めてくれる。


 できればこんなことにならなければよかったなんて後の祭りだ。もう唯人が柔道の道に戻ることはないだろうし、これから話すことを心春に聞かせるのは勇気がいる。


 先ほど叩かれた心臓の心拍数が上昇するのを感じる。口を開くための唇がやけに重かった。


「俺は……、聖羅ルートの攻略に、一度失敗している。心春には俺が陽菜ルートを完了させてここにいると説明したが、正しくはその間にノーマルエンドを挟んでいるんだ」


 俺の言葉に心春は困惑している。それもそうだ、ノーマルエンドは最後まで行くと二年の月日が経過するからな。精神的になら、俺は心春よりもすでに四歳くらいは上なわけだ。実際は高校生の域を飛び出していないから特に変わらないのだけども。


「え……? 一颯くんが聖羅ちゃんを優先した理由って……」

「唯人を優先しても聖羅ルートを上手くこなすことは可能だった。ただ一度の失敗にかなり堪えて、安全策に走っただけだ」


 ノーマルエンドが確定した時にはすでに俺は三年生になっていた。どう考えてもシナリオ進行が遅すぎると思って唯人と聖羅にいろいろ探りを入れてみたが、互いに恋人になりたいとかそういう感情を一切持ち合わせていないことが判明した。


「失敗した要因はなんだったの?」

「まだ挽回できると思って見て見ぬふりをしていたけど、唯人が転校してきてすぐの頃に聖羅と唯人が隣町の小学生に家庭科の教師役として課外活動したじゃん? 実はあれ、前はよく分からないまま失敗に終わったんだ」

「たしか、やってきた自転車乗りの男性を唯人くんと聖羅ちゃんの方向へ誘導するイベントだったよね?」

「ああ、それだけだと思って最初は俺と心春で料理部の手伝いとして参加したんだ。だけど小学生に懐かれすぎた挙句、あまりの忙しさに抜け出すタイミングを見失って、気が付けば授業が終わっていた。その後も必死にイベント発生に誘導しようとしたけど、聖羅と唯人はばらばらに行動してそのまま解散した」


 新しくフラグを建て直せばいいなんて楽観的になって精神を落ち着かせていたが、その機会がやってくることは最後までなかった。躍起になってフラグの立て直しを図っていたら愛陽の登場シナリオもほったらかしにして、唯人は柔道に戻ることもなく、かといって料理部に所属もしなかった。聖羅とは友達のまま終わりを迎えた。


 俺が一度体験した、あのノーマルエンドをなぞるようにシナリオが修正されていったのだ。


「部長はそのことを知っているの?」

「いや、心春に話したのが最初だ、なるべく前と同じになるように行動していたけど、もしかしたら俺が早とちりしている部分はあるかもしれない」

「そうなんだ……じゃあ、これからはどうするの? 唯人くんとは関わらないの?」


 それに関しては俺が迷っていたことだ、一切かかわらず唯人と聖羅のこれからの進展はありえない。


「すでに組み立てた予定はそのままに、聖羅を信じて俺は唯人と元通りの関係に戻れるよう努力するよ」

「聖羅ちゃん、唯人くんと上手くできるのかな? ちょっと不安」


 聖羅は最近、唯人のことを慰めることばかりをしていたから、もしかしたら唯人は聖羅に恋心ではなく、依存の関係を求めてしまうかもしれない。でもいまはそれでいい。


 今度のお化け屋敷講習会、これに全てを賭ける。これが失敗に終わったのなら俺はまたノーマルエンドを拝むことになるだろう。すでに花恋さんとは打ち合わせを何度もしてリハーサルも行っている。


「俺一人の力じゃ絶対に成功できないことは陽菜ルートから学んできている。だから、力を貸してくれ、心春」

「うん、……うん! もちろんだよ! 私は一颯くんの力になりたい」


 ありがとうと感謝を述べると、階下から母さんの声がする。そういえば、朝は早かったからちょうど今が昼だったな。


「やることを始める前に、まず腹ごしらえは欠かせないな」

「うん、唯人くんと聖羅ちゃんを驚かせるためにも、お腹が空いていたら何もできないもんね」


 怒って怒られ、たとえ喧嘩したとしても、俺たちは最後に笑っていた方が結局は幸せでいられる。そんな当たり前を忘れないでいたいと、自分に言い聞かせた。








ストックが無くなってきました。

この聖羅ルートも後半に入り、次の準備も間に合わない内に今後、執筆ペースが極端に落ちてしまうため投稿ペースもかなり落とすと思います。申し訳ないです。

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