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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
三章 聖羅ルート攻略シナリオ
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81聖羅ルート 月宮陽菜の探し人

 そんなこんなで期末テストはあっという間にやってきた。


 既に何度か受けている授業内容だから飽きるかなとも思ったが、なんか漫画で読んだ無双状態というやつで、先生に当てられても答えられない問題は無かった。模範解答と同じ答えを口にしてカンニングを疑われた時は少しヒヤッとしたけど。


 家では心春の家庭教師として勉強を見てあげていたが、結局は俺も一緒になって教科書とノートを開いていた。


 聖羅が勉強場所を唯人の部屋に指定したため、週に四度、隔日のペースでちまちま勉学に励んでいるようだが、月宮さんと勉強した時のような満足のいく点数は取れないだろうな。


 その間に何かイベントはなかったのかというと、特別目立ったイベントはない。一番最初の、ノーマルエンドを迎えた時のような仲良しこよしで遊びに出かけたり、二人を俺の部屋に呼んだことがあったくらいだ。


 いつも通りすぎて怖いくらいに、何もなかった。


 そういえば、聖羅のことでどうでもいい事ではあるが新しい発見はあった。


 聖羅がいつも必ず髪を留めるために着けているヘアピンについてだが、あれはテストが近付くにつれ色がどんどん赤色に寄ってきていることが判明した。本人にも聞いてみたが意識していないだが、たしかにテスト前は赤が目につくと言っていた。


 これは聖羅が気合いを入れる時に赤色を使用すると考えれば、感情の変化もある程度予測できるのではないかと脳内にメモをする。


 まったく何もない平日は法則性のない信号のような三色を選定しているから、二つが似た色であればその色の感情に染まりつつあると考えてよさそうだ。


 ――期末テスト当日、案の定、聖羅はヘアピンを三つとも燃えるような赤で統一し、色気もない黒縁の眼鏡を掛けてテストに臨んでいた。心なしか化粧も薄く、ぶっちゃけこっちの方が美人に見えたのは内緒だ。それを判断するのは俺ではなく唯人だからな。


「手ごたえはどうだった?」

「ふ、……俺はばっちりだ、平均点以上は取れた自信がある」

「まあ心春と結構頑張っていたみたいだし、この様子なら心春の心配は不要かな? ……で、唯人は見たまんま爆死したと」


 机に顔を突っ伏して腕を宙にだらーんと振り子させている唯人は今にも泣きそうな顔で笑っていた。ちょっと怖い。


「は、ははっ……寮暮らしさいこー、親に点数見られないし」

「通知表は保護者の元にも送られるから、成績が悪いと面倒くさいことになるよ」

「……なあ聖羅、テストの一点って、……いくらで買える?」

「うちの高校はそういうシステムは採用してないよ、諦めな」


 聖羅の無慈悲な言葉についに唯人は机に潰れた。これから起きることを悟ったがごとく清々しい顔で目を瞑り、俺と聖羅だけでなく何とか赤点は免れそうなくらいの連中が集まってきて黙祷を捧げた。


 異様な光景ではあるが、こういう時は男女関係なくノリがいいクラスだ。でも相変わらず月見さんは興味なさげに本を読んでいるけど。


 今回の聖羅ルートでは月宮さんは一切の関わり合いがない。唯人とは朝食を一緒に食べている仲ではあるが、友達の域を出ていない。寮では入学してから二か月で既に名物とまで上り詰めた諸城だいごが唯人と月宮さんとの間に入っているようで、そのおかげで三人は友達でいられるのだろう。


 クラスではほとんど話しかけたことはないが、俺はちょっとした好奇心で月宮さんに話しかけてみることにした。


「月宮さん、いつもなんの本を読んでいるんだ? 差し支えなければ教えてくれないか?」

「うん? 心春ちゃんのお兄ちゃんだ。こんにちは」

「一颯でいいよ、というか前から俺のことは名前で呼んでいたろ」

「ふふ、冗談だよ。でも一颯君が話しかけてくるなんて珍しいね」


 いつも無表情で話すから冗談かどうかの判断がつきづらい。心春といるときはいつもにこにことしてよく話しかけてくれようだが、そんな月宮さんを見たことはない。でも気分がいいのか、今は比較的明るい月宮さんを拝むことが出来ている。


「この本は柔道の入門書だよ」

「柔道の入門書? どうして?」


 これに対する返答はとうに知っている。だから、聞いてみて俺は後悔している。俺は馬鹿だ。


「私ね、探している人がいるの、その人は柔道をやっていると思うんだけど、まずはルールを学ぼうと思って、でも実際にやってみないとよく分からない所が多くて大変なんだ」


 この聖羅ルートにおいて、月宮さんがその探し人を見つけることはない。心春曰く、鈍感な月宮さんがヒントも無しに唯人の過去を暴くことは不可能だ、と言い切ってみせたほどだ。今だから心春の言うことに賛同できるが、心春にそこまで言わせる月宮さんはどこまでもぽやっとしている。


「それで、見つけたらお礼をしたいんだ、その人に子どもの頃に助けられたことがあるから、せめて知識を持ち合わせていた方が探す幅も狭められそうだし、こうして勉強しているんだ」

「テストもそうだが、勉強熱心なんだな、……頑張れよ」

「うん、ありがとう」


 安易な好奇心は俺の感情を蝕む。聞かなきゃよかったなんて思ってはいけないが、俺は月宮さんの探し人を紹介できないことが悔やまれる。


 今の俺は唯人が柔道をやっていたことを知らない。唯人と月宮さんに接点があることも知らない。だから、月宮さんの努力を見て見ぬふりをする。


「……ごめんな」


 去り際、月宮さんには聞こえないよう小さく呟き、席に戻る。


 こんなときに陽菜ルートでの幸せな顔を見せる月宮さんを思い出してしまう。念願の探し人を見つけて、当人の唯人も最後は仲間と仲直りして柔道の道に戻ることが出来た。なのに、それが全て一瞬で無に還されたことに俺は悔しくて悔しくて仕方ない。


 悔しいけど、それを俺がどうにか出来るはずもなく、拳を握り、長らく切り忘れていた長い爪を手のひらに強く食い込ませるのだった。








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