76〈花恋〉アドバンテージ
わたくしの部屋に舞衣子を招いた。というよりはわたくしがどたばたとし過ぎて隣の部屋の舞衣子が苦情のためにこっちに来たというべきね。そうとう五月蠅かったのでしょう。壁に背中をぶつけたときに向こうから怒りの籠った壁ドンが飛んできたもの。
「……で? 愛しの霜月兄とデート出来て、楽しかった?」
「………………うん」
ベッドに女の子座りをして大きなテディベアに顔を埋めながら、わたくしは小さく頷く。ここで大きく首を縦に振るのは憚られた。
だって、……恥ずかしいもの。
「その可愛いフリフリのゴスロリなんて久々に見たわ。気合い入れて霜月兄の好みに合わせて、下着も勝負下着にしたんでしょ? それで何もなかったって……、何のためのデートよ」
「で、でも! 少しは吹っ切れて一颯に近づけたのよ。手を繋いで、今度この部屋に招待もしたわ」
抱いていたテディベアをほっぽり投げ、わたくしはベッドに腰かけて背中を見せる舞衣子に近づいた。
「ふーん、……無駄足ではなかった訳ね。お部屋デートの取り付けとはなかなかやるじゃない、妹は付いて来るの?」
「分からないわ。この部屋に招待しただけだもの」
そういえば二人きりでという取り決めはしていない。わたくしがただ誘ったとなれば心春もついて来るのは想像に難くない。
ああ、……先にデートの話をしていたからてっきり二人きりという前提で話していたわね。一颯に外か部屋かで話していたのが原因、失念していたわ。
「部屋に呼ぶんだったら絶対に霜月兄だけを誘いなさい。入念に、妹のいない隙を狙って、時間を掛けてでも!」
「ま、舞衣子、近いわ……」
怖い顔をしてわたくしに詰め寄ってきた舞衣子は舞台でも見たことのない真剣な眼差しだった。逆にそれが演技だと疑ってしまうほどに迫力がある。
「妹にしか興味のなかったあの子が花恋に意識し始めている今が勝負よ、花恋の演技はもはや自然の動きだから、多少強引にでもあの子の首輪を引っ張ってやりなよ」
「うまく、……いくかしら?」
「私が手伝ってあげるから、ほら、妹に勝つんでしょ?」
「わぷっ!」
舞衣子に引き寄せられ大きな胸に顔を埋められたわたくしは、それでも頼もしい味方がいるだけで自身が持てた。やはり舞衣子の母性は強い、ほんの少しでもわたくしに母性があったなら、一颯のわたくしを見る目も変わっていたかしら?
でも一颯が求めている母性は心春が全て兼ね揃えている。わたくしは一颯が手放したくないと思わせる愛玩と成るしかないのかしら……。
そのことを舞衣子に話せば、くすくすと笑ってわたくしのことを犬を愛でるように長い髪をわしゃわしゃと撫でた。
「花恋は馬鹿ね。霜月兄が妹だけで満足できるはずないじゃない」
「そ、そうかしら?」
「母性に形はない。何も胸があるから母性があるとは限らない、花恋は年上という圧倒的なアドバンテージの元、母性を発揮するチャンスがあるじゃない。あの子を年上ロリの母性という新しい道に堕としやりなよ」
わたくしが一颯を篭絡するなんて……、なんて甘美なことでしょう。一颯がわたくしのことを求めてくれる、わたくしのことを見ていてくれる。想像するだけで涎が垂れてしまいそうだわ。
舞衣子がわたくしのことを抱きしめたままあやすように、洗脳するように耳元で悪魔のささやきを続けるから、妄想もはかどってしまって仕方ない。
「霜月兄が年上ロリと母性を兼ね揃えた花恋を求めて、そうだね、……膝枕とかどうかな? そのまま耳かきをしてマッサージもして、ついに耐えきれなくなったあの子が花恋をベッドに押し倒しても、ドMの花恋は嬉しくてたまらなくて――」
「あ、……あ、あ……」
一颯に……押し倒されたら……わたくし、どうなるの?
「――――」
「あ、そんな……一颯、そんなことしちゃ……」
舞衣子の容赦ない誰かに聞かれてはいけないレベルの言葉攻めに、わたくしの脳内は真っピンクに染まる。
ありえるはずもない妄想なのに、舞衣子の言葉で鮮明にイメージが湧き出てしまう。わたくしが望んでいることを、抱きしめられて逃げられないわたくしの耳元で舞衣子の言葉がねっとりと絡みつく。
「花恋の妄想も、手を伸ばせばすぐそこにあるんだよ?」
「わたくし、……がんばるわ」
舞衣子がパッとわたくしのことを離し、悪い魔女みたいに怪しく微笑んでいる。わたくしを支えていた腕が無くなって、ベッドに背中から倒れたときに、スカートがふわっと大きく捲り上がってしまった。
「…………」
「…………」
慌てて抑えたものの、舞衣子がわたくしのスカートをまじまじと見ている。いえ、おそらくその奥。……見られてしまったようね。どうしましょう……同性相手なのに、とてつもなく恥ずかしいわ。
「この際、どうしてドロワーズを穿いていないのかとかどうでもいいわ。でもホントにそれが勝負下着だと思っているの?」
「え?」
「霜月兄を呼ぶ前に買いに行くわよ。そんなお子様の下着を見せたって、あの子は全く喜ばないわ、その程度なら呆れて妹の下着に手をかけるわ」
さすがにそこまで一颯ははしたなくないでしょう。というより、どうして舞衣子がそんなことを言い切れるのかしら。
……そんなに、呆れかえるほどにわたくしの下着のチョイスは変だったかしら?
「来なさい、……本物を見せてあげる」
――何やら怖い顔をした舞衣子に腕を掴まれ、部屋に連れていかれて見せてもらった女性の本気の下着に、わたくしは言葉もなく終始顔を赤らめるのでした。
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