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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
三章 聖羅ルート攻略シナリオ
73/226

73存在しない過去を知る

 両親は日曜に二人とも出かけるから今日は夕方前まで不在だ。


 心春と二人で部屋の掃除をしてお茶菓子の準備も怠らない。届いた愛陽の衣装も改めてサイズを確認して試着もしたし完璧だ。あとはもうじきやってくる花恋さんを待つのみ。


「来たよ、お迎えに行こ」


 家のチャイムが鳴らされどたどたと階段を下りて玄関を開け放つと、そこには白を基調としたゴシックロリータの女の子が驚いた顔をして日傘をさしている。


 花恋さんが白いゴスロリを着ているところを久しぶりに見たかもしれない。いつもは黒の妖艶な雰囲気を醸し出すスタイルだったのに、今日は可愛らしさを追求したクリームのような甘く柔らかい装いだ。


「えっと……、心春、一颯はどちらに? それとこの方は?」

「部長、愛陽ちゃんですよ、一颯くんですよ」


 心春の言葉に花恋さんの手から傘がぽろっと落ちてひっくり返った。そんなに驚くような格好はしていないはずなんだけどな。


「ここは暑いのじゃ、だからボクが部屋に案内するからついてきて欲しいのじゃ」

「『ボクっ子のじゃろり』とはなかなか見ない設定ね……。これはどこからどう見ても女の子だわ」


 部屋にあがってもらった花恋さんに冷えたお茶をお出しし、五分ほどは落ち着くまでのんびりとお菓子に手を付けた。


 なんでボクが女装しているかというと、素のままだと恥ずかしくて会話が成り立たないからである。


 だって全部話すんだよ? あんなことやこんなことまでやっていたのを素面で告げるとか絶対に無理です。先日、花恋さんに暴露したり腰を抱いたのは気の迷いで、あの後盛大に赤面してもだえ苦しんだ。


「すみません、『のじゃ』って口調、普段使いするには疲れるので、今は普通にしゃべらせてもらっていいですか?」

「え、ええ、いいわよ。……よかったわ、そこまで性格が変わっているのかと面食らったわ」

「ボクってそこまで変ですか?」


 花恋さんは少しだけ引きつった顔で笑った。やっぱりボクの見た目も声も変わっていることがおかしいんだ。


「とりあえず、ローブとわたくしが見繕った衣装をいくつか持ってきたわ、着付けは一人で出来るかしら?」

「そうですね、……一通りは出来ると思います。ほとんどが前に着たことのある服なので」


 花恋さんが持ってきたキャリーバックから衣装を取り出す。初めて見る衣装もいくつかあるが、形状は他と同じだからボクでも着られる。


 すでに愛陽というボクのキャラは確定されているから、今日の衣装合わせは三人で認識を共有することに意味がある。ボクの動きを花恋さんに真似てもらうから、一緒の格好をすれば双子みたいで楽しかった。それでも花恋さんと二人して心春にどっちだ? て問題を出したら一瞬で見分けられた。さすが心春。


 心春には男装をしてもらって、シナリオで覚えてもらいたいことを心春に指導した。といっても聖羅ルートでは男装の出番はなく無駄に終わるかもしれないが、万が一に備えて練習してもらっても損はない。


 昼の時間になって、花恋さんはボクがうどんを作って欲しいと事前に連絡していたからとにかく張り切っていて、ボクが絶賛するうどんが食べられるということで心春がうきうきしていた。


 一杯の量は多くないからボクと心春で二杯ずつを平らげ、お腹がいっぱいになったところで花恋さんと心春は普段の姿へと戻った。ボクはこのままじゃないと二人と目が合わせられない。


「一颯、……いえ、愛陽でしたね、前のわたくしはどのようにしてあなたに気持ちを伝えたのかしら?」


 この場には心春もいる。席を外してもらおうと思ったら花恋さんが心春にも聞いてもらいたいと、心春をこの場に留まらせたのだ。


「ちょうど今日のこの後です。花恋さんに正面から抱き着かれて告白されました。ちなみに往来のど真ん中だったので周囲の目線が結構気になりました」

「おそらくあなたを逃がさないためね、注目を浴びれば一颯はわたくしを引きはがすことはできないと踏んだのね」

「まあ……、そうですね、ボクじゃ花恋さんを無下に扱うなんてできませんから」

「次に聞きたいのはキスを三度交わしたことについてよ」

「き、キス!? なんで一颯くんと部長が!?」


 そんなの聞いてないとばかりにボクの肩を大きく揺らす心春を何とか落ち着かせ、心春にはまだ話してなかったことを謝罪する。心春ともキスしたことをまだ伝えていないから、もしかしたら後で花恋さんも同じ反応をするかもしれない。


「主人公である唯人とのイベント後のことです。城戸先輩と花恋さんに嵌められてボクは花恋さんの部屋で寝泊まりすることになりました」

「一颯くんが……部長の部屋にお泊り……」


 見捨てられた子犬のような目でボクを見ても過去は何も変わりはしないよ、心春。心春とだって同じ布団で何度も寝たんだから同じではないのかな?


「いろいろあって一緒にゲームした後は花恋さんに抱き着かれながら一緒の布団で寝て、朝は半分寝たままの寝ぼけた花恋さんに二度キスされました。そのあと照れ隠しでもう一度」

「な、……なるほど? わ、わわ、わたくしはだい、だだ、大胆なのね」

「花恋さん? 壊れかけのロボットみたいになってますよ」


 プシューと頭から煙を立ち昇らせながらフラフラと頭を揺らす花恋さんは限界そうだ。急いで布団を敷いて横になってもらったけど、何やら独り言を呟いて本当に壊れてしまったのではないかと心配になる。「一颯の匂い……」と独り言が聞こえた気がするが、まあ気のせいだろう。


「部長、大丈夫かな?」

「やっぱり刺激の強い内容だったかな? 花恋さんって積極的な人だと思っていたけど、前が特別だったのかな」


 いつしか前の花恋さんは吹っ切れたようにボクに接触してきたから、その何かのきっかけがない限りはこのように恥ずかしがりやな女の子なんだな。


「花恋さんのことを話したから、次は心春の話ね」

「うん、私は一颯くんとどんな進展があったのかな?」

「三回くらい一緒に寝て、一回だけながーいキスをしたよ。あとは唯人たちとダブルデートをしたことかな」

「私も、一颯くんとキスしたんだ……」


 唇をそっと抑えて頬を赤らめる心春が可愛い。ほんの少しだけ瞼をおろしてボクのことを上目遣いに見てくる。今のボクは女の子だから何やってもセーフかなって思ったけど、普通にダメだよね。


「ほとんど暴走に近かったけど、花恋さんに対抗してしたことだし、その後あまりの恥ずかしさにボクの首元を噛みちぎろうとしたね」

「そ、そこまで恥ずかしいんだ」


 心春は花恋さんほどくらくらとして倒れるようなことはなかったが、やっぱり恥じらいはあるみたいで布団にくるまっては花恋さんの横でプルプルと震えていた。「一颯くんの匂いだ……」やっぱり気のせいじゃないのかな?


 他にも話したいことは山のようにあるけども、二人ともそんな状況じゃないからボクは心春の部屋で着替えることにする。


 部屋着に着替えてメイクを落とす。その後はどれくらいの時間が経ったか分からないけど相当な時間ぼうっとしていて、徐々にボクから俺に戻ってきた頃に花恋さんと心春がやってきた。


「一颯に戻ったのね。ごめんなさい、想像を遥かに超える現実に脳が処理を拒否していたわ」

「仕方ありませんよ、あの時の花恋さんはやる気に満ち溢れて吹っ切れていましたから、たぶん、相当な覚悟を決めていたのかと」

「わたくしが心春とこうして堂々と争うなんて予想だにしなかったわ。渡されたバトンがあまりにも重すぎて困惑しているもの」


 前の花恋さんは次の自分を信じてバトンを俺に一度託してくれたけれども、これで正しく渡せたのだろうか。でもこの世界と前は全然違うし、ならこのままでもいいのではないか。


 これ以上の話は二人の身が持たないということで流れ、残りの時間をお菓子を食べたりゲームで潰すのだった。


 相変わらず花恋さんのゲームセンスは俺と心春を凌駕していて、何度挑んでも順位を超えることはなかった。







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