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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
一章 準備 共通シナリオ
6/226

6ノーマルエンド

急展開です。

 昼休みの時間と放課後の時間を使って俺と聖羅、後から合流した心春の三人で唯人を案内するために校内を歩き回り、クラスの連中とは朝のブーイングの誤解やらなにやらあって仲良くなったようだ。


 月宮さんにもしっかりお礼を言えたことで唯人は満足したようだし、彼のこの学校においての生活の基盤はしっかりしたものとなったようだ。



 ――それから時は勢いのある滝のようにあっという間に流れていった。



 三人で行動していたところが四人になり。俺のいない場所、主に寮の方では聖羅が唯人の部屋にちょくちょくお邪魔しているようだし、唯人は運動神経が抜群によく、体育では女子の視線を釘付けにした。俺たち男子も負けじとアピールしたが唯人に叶う奴は誰もいなかった。あいつの筋肉は本物だ、学年を超えて唯人の筋肉は女子を魅了した。


 夏休みは四人で海や山に行った。来年は大学受験で遊べないとなると今年中に高校で遊べるすべてをぶつけるべきだと心春が主張、みなが賛同して遠出をした次第だ。


 水着姿の唯人の逞しい大胸筋に聖羅が魅了されかけて、俺と心春は筋肉にペタペタ触る聖羅を尻目に二人でのんびり水の掛け合い、唯人は解放されてからはうずうずとして海に飛び込んで遠泳なんかしていた。


 日焼けのひりひりした痛みに慣れないうちに山に入ったわけだからそれはもう大変で、痛い痛いと涙を流しながら蚊に刺されて登山中にも関わらず全身が痒くなって、散々な目に遭った。


 それでも楽しかったのは事実で、唯人は「どうしてこんなにも楽しいのに今までしてこなかったんだろう」と大げさに涙を流した。


 あまり遊べなかった過去があるのか、この青春を謳歌している唯人には今を楽しんでもらいたかったから詳しいことは何も聞かず、唯人のためにも、と思って夏休みが終わっても俺たちは遊び尽くした。


 夏休みが終われば文化祭が近付いてきて、俺と聖羅はクラスの実行委員に立候補してスムーズに準備を進めてみせた。


 お化け屋敷、それが俺たちのクラスの出し物で、学校側からまさかの優秀賞が出ると聞いてみなの目の色が変わった。


 他クラスも着々と準備を進める中、俺たちのクラスは放課後も残れる人は残って下校時刻が過ぎても準備を進めた。時には先生に怒られて追い出されて、それでも学校に忍び込むスリルはお化け屋敷の怖さよりも何倍もあったのかもしれない。


 たった一つの教室に小さなRPGゲームを題材にした大作お化け屋敷を完成させた俺たちはやってきたお客さんを大いに怖がらせ、楽しませることに成功したわけだ。


 ゲームが故にやり込み要素があり、一度では満足しきれなかったお客さんや物珍しさに何度も立ち寄ってくれたお客のレビューもあって、RPGお化け屋敷は大盛況、隣のクラスのメイド喫茶を抑えての見事優秀賞を勝ち取る。

 加賀美先生は学生時代に文化祭で賞をもらったことが無かったらしく、見事な男泣きを見せた。


 みなが一丸となってもぎ取った優秀賞の景品は一人に図書カード千円という、喜ぶ人もいれば苦笑いを浮かべる人もいる微妙なライン。


 秋の過ごしやすい季節はあっという間に過ぎ去って、この頃になって初めて知ったのだが、どうやら唯人は他学年に仲良くなった女の子がいるらしい。どうやら一年生の子らしいのだが、その子は常に取り巻きがいるお姫様のような女の子だったのだ。


 冬休みは各自実家に帰って正月も過ごしたからこれといって語ることはないが、俺たちは互いに年賀状を出しあった。スマートフォンで簡単に済ませるのではなく誰が一番手の込んだ年賀状を用意できるか勝負し、満場一致で心春の力強い達筆な墨字の年賀状に軍配が上がった。


 休みも終わり、学年末テストに向けて四人で勉強に励んだ。


 各自苦手科目には苦しめられたがなんとか赤点を回避し、無事俺たちの進級が決まった。ちなみに俺たちで一番頭がいいのはギャルの聖羅だったりする。


 卒業式、俺たちは在校生として参加し、見知った先輩たちを涙交じりに旅立ちの門出を祝った。 校門前でお世話になった先輩方に挨拶を済ますと、先ほどまで近くにいた唯人がいないことに気づいた。探せばすぐに見つかったのだが、唯人の話している相手は俺の知らない先輩で、なんだかんだ唯人は俺たち以外にも仲のいい人がいたようで安心した。


 学年が上がるとクラス替えがあり、俺と唯人、聖羅と心春でクラスがばらけてしまった。心春としてはクラスに聖羅がいて嬉しいと飛び跳ねていたが、唯人としては四人で一緒のクラスがよかったと少々荒れたのを覚えている。


 ――体育祭、夏休み、文化祭、冬休み、受験、そして……。


 高校生活最後の一年はあっという間だった。今まで遊びに使っていた時間を受験勉強に当て、隙間時間があれば心春とちょっと息抜きにゲームをしたり。


 今年に遊ぶ分を昨年にまとめて遊んだからその分勉学に励んだ。とにかく勉強した。おかげで俺たちは無事進学先が決まったのだった。


 特にこれといった将来の夢があったわけではなかったから、俺と心春と唯人は国立桜花大学の政治経済学部に進学、聖羅だけは将来のことを考えて東京エリア外の調理の専門学校に通うこととなった。


 ずっと一緒に遊んでいた分、誰か一人欠けてしまうのが辛くて、何度も何度も、離れていても絶対に連絡を取り合おうと約束を交わす。


 ――そして、俺たちの卒業式。在校生に見送られて、今度は俺たちが旅立ちの門出を祝われる番。


 真面目に歌ったことのない校歌に涙を流し、後輩からは「卒業しても頑張ってください」と何人から同じことを言われ、同じことしか言えないのかと自分を誤魔化したくなるほど情緒が不安定になり、寂しさが募って我慢しきれず涙をこぼした。


 夕暮れの最後の学校、西日が窓ガラスを貫通して校舎を茜色に染める頃、俺は中庭である人物を待っていた。


 いままでなあなあで過ごしてきた関係を変えたくて、ついに俺は覚悟を決め、勇気を振り絞ることにした。


「ここに呼ぶなんて、……な、何か用事があるのかな? 一颯くん」

「心春……来てくれたか」


 声がした方を振り向くと、卒業証書を入れる筒を後ろ手にそわそわしている心春が頬を赤らめて待っていた。


 夕陽のせいではない。心春は……心春だけじゃない、俺もきっと同じ顔をしているのだろう。


 生まれた時から一緒に過ごしてきたんだ。俺がこれから言いたいことなんてとっくに気付かれている。


 だけど……俺の口からこの気持ちを伝えなくてはならないんだ。そうじゃないと、昔と何も変わらないから……。


「ええと……あの、な……はは、いざ、口にしようとすると恥ずかしいな」

「う、うん、私もちょっと恥ずかしいな、心臓のドキドキが早くて破裂しちゃいそう」


 お互いの身が持たなくなる前に早く伝えてしまおう。


「あのな、もうとっくに気付いているだろうけど、俺、心春のことが――」


 俺の言葉はこれ以上続かなかった。


 突如、目の前の景色がブラックアウトし、音を消し去る。


 慌てて心春に伸ばした手も届かずに、俺の意識は景色同様、暗闇の中へと墜ちていった。






連投失礼しました。次からは二話か三話ずつ、ストックの底が見えれば一話ずつ投稿の予定です。

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