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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
二章 陽菜ルート攻略シナリオ
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54陽菜ルート 核心の相談

 夕刻、あいも変わらず心春と俺の部屋で過ごしていると、そこら辺に適当にほっぽってあった携帯が着信を知らせた。


 読んでいた漫画から目を離さぬまま手探りで携帯を求める。手に触れた携帯を掴んで手元に寄せ、画面を見ればそれは唯人からの着信だった。


「携帯鳴ってるよ」


 膝とクッションを抱いて少女漫画を読む心春に促される。


「ああ、分かってる。唯人からの着信……てことは聖羅かな?」


 通話ボタンを押して耳に当てる。てっきり聖羅からだと思っていたから、通話が開始されてからのしばらくの無言がやけに空気を重く感じさせた。


「も、もしもし? ……この雰囲気は聖羅じゃないな、唯人か?」

『あ、ああ、オレだ、唯人だ。突然悪いな』


 機械音声だからということじゃないだろうが、なんとなく声が震えている気がする。何かに怯えている? そんなわけないか。


 それでも何か嫌な予感がして、だから俺はいつも通り何も知らない風を装う。


「唯人、どうしたんだよ、電話してきたと思ったらテンション低いじゃないか」

『ちょっと心臓が痛くてな、……大丈夫、深刻な病気じゃない。ちょっと吐き気がするくらいだ』

「十分重症だ、それ! 救急車呼ばなくていいのか?」

『大丈夫だ、ホントに! ちょっと、聞いて欲しいことがあるんだ』

「なんだ、真剣な話か?」

『今まで隠していたんだが、オレの過去について話したいことがあるんだ』


 俺は心春に目配せをする。何か不穏な空気を感じ取って心春が気付いてくれた。俺の机から紙とペンを音が出ないよう静かに持ってきてくれる。そして心春は自分のことを指さした。


「ちょっと待ってくれ、近くに心春がいるんだけど、席を外してもらった方がいいか?」

『え? あー……どうしよう。でも、えっと……』


 明確にどうしたいかが定まっていないようで、なんだか俺が唯人を困らせてしまったように思えた。焦ってはいけないがこのままじゃ話が進まない気がして俺から切り出す。


「男同士だけのほうが話しやすいだろ? 相手の顔も見れないのに複数人いたら話しづらいだろうし、なんならどっかで集まるか?」

『あ、いや、集まるほどじゃない。でもそうだな、今は一颯が聞いてくれればいい』

「心春、いまから男同士の熱く燃える語り合いをするから、悪いけど席を外してくれるか?」


 シナリオにはないけど、これが何か重要なイベントであることは察しが付く、心春は素直に部屋を後にしてくれた。


 ペンにインクが入っていることを確認し、静かにメモを取る準備をしたのだが、ここまで用意して、これが唯人に対して失礼な行為なのではと思い返し、俺はペン先をしまった。部屋を見回して立ち上がり、椅子にドカッと座る。


 ……これでいい、唯人は俺がこんな感じの大雑把な奴だと思っているはずだ。


「待たせて悪いな、いつでもいいぞ」

『そう改められると話しづらいな。でもそれくらい気楽に接してくれるから俺は一颯を選んだのかもしれない』


 よく分からないが、どうやら俺は正解を引いたらしい。思いつめているようにも思えるから、逆に俺は笑い飛ばすくらいがちょうどいいだろうか?


 通話越しでもなんとなく分かる。唯人は電気も点けていない部屋で俯いて話しているのだろう。ひしひしと雰囲気が伝わってくる。


『オレは小学校に入る前から柔道をしていたんだ。これでも有名な先生に教わってて全国を何回も経験したんだぜ』

「そうか、やけに体格がいいからスポーツか何かをやっているとは思ったよ。それが柔道とは思わなかったけどな」


 余計な相槌だっただろうか? でも通話越しだと相手がちゃんと聞いているかどうか気になるからこれくらいはいいと思う。


『中学に入ってからは柔道漬けだった。毎日、部活で道着を汗で湿らせて、先輩や昔からの仲間と切磋琢磨して練習に励んだんだ。帰りは自転車で寄り道して買い食いして、楽しい毎日だった』


 俺の考えていることはすぐ唯人が話してくれる。だから憶測はほどほどに、紡がれる言葉に耳を傾ける。


『中学三年の最後の夏大会、個人戦。それに学校代表として部長とオレが出場したんだ。自信はあった、順調に勝ち進みもした。だけど、準決勝で負けちまって、引退前、最後となる試合は三位決定戦にもつれ込んだんだ。オレのいた中学は強豪校でな、応援はすごかったぞ、一颯にも見せてやりたかった』

「ははは、そのとき俺と唯人は出会ってないだろ、……でも、それだけの応援って、期待されてたんだな」


 観客席いっぱいに自分を応援してくれるなんて、俺だったら緊張で卒倒してしまいそうだ。それを一身に受けて勝ち続けた唯人の実力はやっぱり本物なんだ。


『相手も三年で、延長は十分以上続いたかな、そんなの普通じゃありえないし、夏でクーラーもない体育館だったから汗が酷くて、果てには互いに足を滑らせたよ。……それが最後だった』

「…………」

『オレが相手の袖を取って足を引っかけたんだ。その時にどっちだったか、……足が滑って複雑に絡み合った。……相手は投げられる直前で回避しようとしていたと思う、でもその相手は大怪我で緊急搬送、オレは危険行為扱いで失格となった』

「唯人が誰かに触れる時、躊躇した素振りを見せたが、あれと関係があるか?」

『よく気付けたな、その通りだよ。といっても何度も怪しげな動きをしていたら分かりやすかったか』


 電話を掛けてきた時のたどたどしさはもうない。一度口にしたからなのか、吹っ切れたように俺の言葉に反応してくれる。


「唯人、直接会って話さないか?」

『え……?』

「唯人の部屋に遊びに行くからさ、ちょっと足元が見えるくらいには片付けておいてくれ」

『今から? いや、だってもう陽が落ち――』


 有無も言わさず通話終了のボタンをタップする。


 着替えて携帯と財布、寮に入るための学生証を手に階段を駆け下りる。リビングにはテレビを見ていた心春と夕食を鼻歌交じりに作る母さんがいた。


「一颯? どこか出かけるの?」

「うん、ちょっと友達に会わなくちゃいけないんだ、夕食は食べてくる。もしかしたら泊りになるかも」

「突然だね、一颯くん。何かあったの?」

「いんや、何もない。直接話さないといけない気がしただけ」

「そう、外は暗くなるから車に気を付けなさい。泊りになるなら連絡を頂戴」


 母さんから許可が下りる。話して喉が渇いたから水を一杯飲んで玄関に急ぐ。


「いってきます!」


 玄関の扉は自然に閉まるのに任せて家を飛び出す。いつもは徒歩で通学しているが今日は自転車が使えるじゃないかと思って、物置から自分の自転車を取り出す。


 こだわりはないからシルバーのママチャリ、平坦を走るのにはこれが適している。安全運転だけは忘れない。


 空は明媚な闇に染まりつつある。ペダルを回せば夜間ライトの発電音がじいじいと鳴り、風は俺の後方へと流れ去っていった。







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