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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
二章 陽菜ルート攻略シナリオ
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48陽菜ルート 喧嘩両成敗

 この日の夜、俺は部屋の椅子に座りながら心春を膝の上に乗せてゲームをしていた。


「……なんで?」

「花恋さんだけずるいから」


 とのこと。床にではなく椅子に座っていれば、背もたれで俺の逃げ場は無くなった。


 ……まあどこだろうと乗られた時点で逃げ場など無くなっていたのだが、今やっているゲームは花恋さんの所で心春が敗北した対戦型のゲーム。負けたのがあまりにも悔しかったのか、帰りにゲームショップへ寄って割り勘で同じものを購入してきた。


 言わずもがな俺は心春に一方的にやられている。膝の上にいるせいで画面が見えづらく、やったことのないゲームの操作に四苦八苦していていた。


 花恋さんとの対戦でだいぶ操作に慣れている心春は腹いせもあるのか俺のキャラクターを殴っては蹴り、果てには飛び道具で容赦なく俺の操作するキャラクターの体力を削ってくる。


「心春、参ったから降りてくれないか? さすがにこのままじゃ勝負にならない」

「一颯くんの手つきがいやらしかったからダメ。花恋さんがなんか恍惚な笑みを浮かばせていたのが許せない」

「……俺のことが見えてた?」

「うん、鼻を花恋さんの髪に押し付けて、なんなら半目の状態でエロおやじみたいにお腹をまさぐってた」

「言い方! それじゃあ、俺が変態みたいじゃないか!」

「私にはそう見えたよ、……おかげで二勝できたけど」


 俺自身が分かってなかったのに、ばれたらマズイ心春に気付かれていたようだ。自分の知らない性癖か本性か、それとも心春を勝たせたいとする花恋さんに対する悪意か、なんにせよ俺が失態を犯してしまった原因は定かではない。少なくともロリコンではないことだけは信じて欲しい。


「一颯くんは花恋さんの喘ぎ声に気付いてない?」

「…………」

「今、想像したでしょ? ……エッチ」

「ち、違う! ……わけじゃない。ごめん、俺は男の性から逃れられなかった」


 いっそ女装して、愛陽の姿でこれからは過ごそうかなと遠い目をしていると、心春が俺の両手を取って自分の腹の前に持ってきた。この態勢にはデジャブというか、危機感を覚えてあの時と同じように背筋に冷汗がぶわっと湧き立つ。


「贖罪の機会をあげるね、一颯くん。……同じことをやって欲しいな?」

「……同じことって?」


 何をして欲しいかそんなこと聞かずとも分かっているが、どうしても聞き返さないといけない気がした。このままじゃ何か過ちを犯しそうで、俺がやりたくてやったわけじゃないという免罪符が欲しい。


「分かってるでしょ? 私、別にお腹撫でられても弱くないから大丈夫、好きに撫でていいよ。あ、でも胸は触らないでね?」


 間近で振り向かれて、ニッコニコ笑顔に迫られては抵抗なんてできない。ただ、触る場所に制限がかけられたせいで迂闊に動かせなくて困った。どこからどこがお腹で、胸の判定がどこなのか判断がつかなくなる。


「……でも、少しだけならいいよ」

「…………」


 今の言葉を聞いて決して胸には触らないと心に誓い、覚悟を決めて手を動かす。強気に出ていた心春はどうやら威勢だけのようだったらしく、本当は恥じらいを持って緊張している面持ちだった。だから安心できるように、俺がお爺さんになった気持ちで優しく心春の腹を撫でていく。


「……ふう、なんだかポカポカする、お腹を撫でられるのって気持ちいいんだね」


 俺が花恋さんにどのような撫で方をしたのかは分からない。撫でられるのが弱いとはいえ喘ぎ声を漏らすほどの撫で方だ、きっと普通ではない特殊な動かし方でもしたのだろう。


 ……そうなるとやっぱり変な疑問が浮かんでくる。たとえばどんな撫で方を俺はしたのだろうか?

 試しに中指の腹に少しだけ力を入れて、心春の臍の上でくるんっと動かしてみた。


「――ふあっ」

「……ん?」

「ううん、なんでもないよ」


 心春の一瞬の甘い声に嗜虐心が大いに煽られる。大好きな心春の普段は聞けない声をもっと聴きたい。一度でもそう思ってしまえば、俺の理性の枷が外れた気がした。


 静かに手を動かし続ける。なぜだろう? 俺の手は動きを覚えている、これは……、そうか、花恋さんにも同じことをしていたのだな。


 どうやら心春は臍が弱いようで、右手で撫でる振りして一点を責め立てる。左手で脇に手を入れて上下に擦ってみて、ときには腹の肉を摘まんだり、だけど肌に直接触ることだけは避けた。


「んっ……、あ、だめ……」


 心春がくすぐったそうに身体を左右によじるのだが、花恋さんは撫でられるのが弱いぶんもっと激しかっただろう。俺がこの場から逃げられないと同時に心春も俺の手から逃れられない。抵抗は弱々しく、それでいて俺の手を徐々に受け入れようとしている。


 花恋さんにしたことと同じことをして欲しいと言われている以上、俺は手を抜かない。心春が拒もうとしない限り、きっといつまでも続けてしまう。……俺には女子の肢体を弄ぶ如何わしい趣味があることを認めなくてはなるまい。


 思考が超えてはいけない壁を乗り越えようとしたとき、机の上に置いてあった俺の携帯が着信を知らせてくれた時は神の知らせなのでは思ってしまった。


「――きゃっ!」

「おわっ、……て、なんだ、唯人からか。心春、もういいだろ? 降りてくれ、それと今夜はもう遅いから寝ような」

「もう少し一緒にいたいな。電話出ていいよ、静かにしてる」

「……はあ、いいよ。その代わり、呼吸は整えてね」

「ぶう、一颯くんのせいでこうなったのに」


 心春がいると話しづらいことがあると思うのだが、唯人に心春がいることを悟らせなければ大丈夫かな。


 とりあえず通話に出て携帯を耳に当てた。


『ハローグッナイ! みんなの偶像様、聖羅ちゃんだよー』

「聖羅か、なんだよ偶像て、前より少し神格化してるぞ」


 そういえば唯人の携帯から掛けるって言っていたな。ということはまた男子寮に出張しているのか。消灯時間が近いのに相変わらずだな。


 聖羅の声は近くにいる心春の耳にも届いていたようで、心春が俺の携帯に向けて話す。


「聖羅ちゃんだ、こんばんは。唯人くんの部屋にいるの?」

『いんやー、今日は自分の部屋、女子寮でイベントだから唯人はそれまで私の部屋で遊んでたんだ。ちなみにあいつは女子寮の共有場で“闇の大富豪大会”に出場してる』

「それは……何かすごく気になるけど、あまり唯人くんに迷惑かけちゃダメだよ?」

『あはは、分かっているとも、あいつも男だからね、夜にやることがあるのは知ってるよ。通話が終わったら携帯もすぐに返す。……ところで心春? 一颯と声がそこまで離れてないように聞こえるんだけど、何してるの? それと心春の声がどことなくエロイんだけど』


 すげえ、鋭すぎて何も言えねえ。


 俺が携帯を手に持って耳に当てたまま何も言わないから、心春に携帯を奪われてしまった。


「今ね、私は一颯くんの膝の上にいるの、それで後ろから撫でられてたの」


 そして容赦なくばらしていくスタイル。


『心春の声がエロくなるまで一颯の膝の上で後ろから撫でられる? ――あっ……』

「おい! 何を察したかは分からないが絶対に違うぞ」

『一応聞くけど、……服は着てる?』

「着ているけど別に何もない! いろいろあって詳細は話せないが、変なことは一切してない!」


 意味は違うけど思い切り変なことしてました。ごめんなさい!


『どうしてお二人さんは一線を越えないんですかねえ?』

「俺たちはまだ高校生だぞ、おいそれと手が出せるか」

『あー、つまり、今後のああいうそういう問題?』

「……まあな、ああいうそういうことも含む」


 聖羅とは細かく言葉を口にしなくてもニュアンスで何を伝えたいのかが分かってしまう。特に心春には理解されたくない話とかそういう時に使われる。


 ちょっとやけくそな返答になってしまったが、あとになってかなり後悔するやつだこれ。


『ちょいと心春、あたしの声が聞こえない所まで離れてくれる? 少しだけでいいから』

「うん、分かった」


 俺がいくら言っても退いていてくれなかったのに、聖羅のお願いで心春はパッと俺の膝から降りた。


 気持ち大きめに扉の前まで離れれば聖羅の声は聞こえなくなったそうだ。


 聖羅が俺にしか聞かせられない話というのも珍しい。もしかしたらシナリオに関わる大事な話かもしれない。だから、それなりに気持ちを切り替えて真剣に聴く。


「心春が離れたぞ、それで、何の用だ?」


 携帯越しに聖羅がガサゴソと何かを取り出そうとしている音がする。そしてそれとは別に何かスイッチを入れたのか五月蠅いくらいのバイブレーション音も聞こえだした。


『どうしたら一颯と心春が一線を越えてくれるのかなって、ゴムあげようか? ついでに玩具と避妊や――』

「いらねえよ!」


  怒りで通話を切ってしまった。そのままの勢いでサイレントモードに設定してから電源をオフにする。

 それにしてもギャルはそういう物も所持しているのか。まあ聖羅のことを考えたらおかしくはないような気がする、……ヒロインだし。このゲームだし。


「はあ……、なんか疲れた、寝よ、もう眠い」


 大きなため息を吐いて用が無くなった携帯を机の上に放置し、歯も磨いた後だから寝るだけと思って椅子から立つと、駆け寄ってきた心春が首元に抱き着いて顔を寄せてきた。目がとろんとして潤んでいる、少しでも近づけば唇がくっ付いてしまいそうな展開に眠気は一瞬ではじけ飛んだ。


「こ、心春、どうかしたのか?」

「一緒に寝よ?」


 聖羅の話を聞いた後だとどうしてもいけない方向へ脳みそが舵を切ろうとする。心春のこの状態は今までなかったわけじゃない。寂しいと思ったり悲しいことがあった時はこうして抱き着いてくる。


 端から見れば彼氏に甘えようとしているように見えるかもしれない、しかし、実際は元幼馴染だし、兄妹だし、別にやましいことは何もないからいいよね? くらいのノリである。


 このことを一度聖羅に話したことがあるのだが、「あんたらの関係どうなってんの?」と聖羅が珍しく真面目な顔で、昼食の卵焼きを皿に落としたことがある。


 俺たちにとっては昔から普通にしてきたことだし、何もおかしいことはないと思っていたから聖羅の反応に衝撃を受けた。だからって俺たちの関係が変わることはなく、回数は減ったものの昔のように一緒に寝ることはある。


 大体心春が俺を強引に布団に連れ込んで抱き枕のように抱き着いたまま眠ってしまうのだけどね。


「一颯くんが撫でたところが熱くて仕方ないの。一人だと怖いから抱っこして?」


 よく分からないが、原因は俺にあるらしい。


「いいよ、歯は磨いた? トイレは大丈夫?」

「うん、明日の準備もばっちり」


 電気を消して布団を被れば、最初は落ち着きなくもぞもぞとしていたがすぐに幼い子どものようにすぅすぅと穏やかな寝息を立て始めた。その間ずっと抱き着いたままでよく寝苦しくないなとは毎度思う。それでも心春はこの態勢を望んでいるから、俺は心春の背中をトントンとリズムよく叩いてあげる。


 深い眠りに入ったと思うタイミングで心春の髪の毛がぐしゃぐしゃにならないよう丁寧に撫でながら枕に仰向けになるよう誘導する。


 ホント昔から何も変わらないなと思いつつ俺もさっさと寝ようと思ったが、どうも寝付けない。瞼を閉じれば、暗闇の中に今日の映像がフラッシュバックする。


 今日、膝に乗せた二人の女の子。感触や匂いまではっきりと思い出してしまい、悶々としたままの夜は長く、それは夜更けまで続いた。










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