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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
二章 陽菜ルート攻略シナリオ
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47陽菜ルート 女同士の大事な戦い

 翌日、俺は少しばかり重い足取りで高校の方面へと歩いていた。原因は俺自身ではなくこの先に待つボスの相手をする心春が何かを警戒していたからだ。


 警戒心が強い犬のような心春は目的地に近づくほど俺の腕を後ろに引いていた。つまり物理的に足取りが重かったわけだ。


「心春、なにも花恋さんをそんなに警戒する必要はないんじゃないかな?」

「一颯くんは何も分かってないよ!」

「お、おう……?」


 怒った状態でその可愛い小顔を近づけられるとたじろいでしまう。


「花恋さんはね、一颯くんの無意識に忍び寄ることのできるすごい人なんだよ!」

「うん、それはすごいな、……あれ? なおさらなんで怒ってるの?」


 あまりよく分かっていないが花恋さんの特技が心春には許せない事らしい。気を付けてということだから少しは気にしておこう。でも、花恋さんが俺に怪しげなことをしたことなんか……、あ、無意識だから気付かないのか。


 そんなこんなで女子寮の前までたどり着くと、事前に連絡していたから花恋さんが玄関で待っていてくれた。


「ごきげんよう、一颯、心春、待っていたわ」


 室内とはいえ、真夏の日でもフリフリのゴスロリ衣装は気持ち程度に涼しそうな淡い緑を基盤にしている。着ている本人は暑いだろうが見ている側からしたら涼しそうな色でありがたい。


 学生証を機械に通し、簡単な書類に記入すれば女子寮の立ち入りが許可された。


 腕に腕章を着けて廊下を歩けば、他の女子生徒の視線が一気に集まってくる。唯人が前に経験して「最初の一回は運が良かった、二回目からは月宮がいなかったら恥ずか死んでた」と教室で真顔に報告してきたときは笑いを堪えるのに必死だった。


 唯人の言う通り、運が良ければあまり好奇の目線に晒されずに済むのだが、運が悪いと……。


「みんな! 男子が来てるよ!」

「こんにゃろう! 聖羅、ふざけんな!」


 呼びかけ役の一人である聖羅に見つかれば噂は十秒と経たず広がっていく。


 主にギャルたちが集まってきてはひそひそと井戸端会議を始める。俺は値踏みされているのだ。


 俺は心春がいるだけましだ。「なんだ霜月の兄か」と部屋に戻っていく人は多い。それでも舌なめずりするギャルも若干名いて、二人の機嫌がどんどん悪くなっていく。


「一颯くんのバカ……」

「一颯、節操がないわよ」

「ええ……、俺が悪いんですか」


 ちなみに唯人は後ろ盾がないせいで女子たちのボディタッチがひどい。目的が無ければ部屋に連行されていた可能性も無きにしにあらず。俺たちと居る時はたまにずぼらなところはあるが、あの筋肉はモテない男のすべてを凌駕している。それがギャルにモテる要因かもしれないな。


 花恋さんの部屋がある三階へと階段を昇り、寮長の特権である端の部屋へと案内される。


 鍵を開けてもらってお邪魔させてもらえば、アロマのような甘い匂いが俺たちを歓迎した。


 心春の部屋とはまた違った女の子の匂いに緊張して鼻息が荒くなりそうだった。なんだかんだ心春以外の女子の部屋に招かれるのって聖羅を除けば初めてかもしれない。……さすがに失礼か。


「ふふ、そんなに緊張しなくても取って食いはしないわ。狭いけれど、好きな所に座ってちょうだい」


 三人で囲うには少々小さいテーブルにクッションが四つ。部屋の隅にはベッドが壁にくっつくように設置されていて、毛布は綺麗に畳まれている。意外といっちゃなんだが、可愛らしいぬいぐるみ類が一切ないことに驚きを隠しきれなかった。


「ぬいぐるみが好きなのはわたくしの友達の方でしてよ。わたくしも好きだけど、夏の暑い時期に抱いて寝るほど熱意はないわ」


 押し入れから二つほどぬいぐるみを取り出して見せてくれるが、別にそれだけでこれ以上語ることはない。さっさと仕舞っては冷たいアップルジュースをコップに注いでくれた。


「今日は一応勉強会ということにはなっているけれど、それはそこそこにして遊びましょう」

「花恋さん、テストが近いですけど大丈夫なんですか?」

「あら、心春は不安なのね、わたくしと一颯はゲームで遊んでいるから、心春は勉強していなさい。分からないところがあったら三年のわたくしが教えて差し上げるわ」


 ああ、ああ、煽ってるよ、なんでこんな争いが起きているのかは当事者である俺が理解しているけども、これって男である俺が止めに入っていい争いだろうか?


 今はまだジャブみたいだし、下手に突っついたら八岐大蛇あたりが出てきそうで怖いから見守っていたほうがいい気がする。しかし――。


「分かりました、いいですよ、ゲームで勝負しましょう」

「おい、心春、花恋さんにゲームで勝つとか……」

「一颯くんは黙ってて! これは女の子同士の戦いなの!」

「あ、はい」


 やっぱりこうなった。


 どう考えても花恋さんの土俵だし、ここにあるゲームだって花恋さんの私物だ。俺と心春が二人がかりで挑んでも、たとえハンデを貰っても勝てる気がしない。


 先に勉強をしてからということだったが、心春の挑戦を受けて、鴨がネギ背負ってやってきたとばかりにうきうきとゲームのセットを花恋さんが始めている。この日のためにコントローラーも三つ用意し、それなりに練習をしてきたのだとこっそり教えてくれた。でも心春が悲惨な結果に終わらないよう上手くコントロールして接戦を演じてくれるそうで、そこはやっぱり後輩思いの先輩だなと見直した。


 準備が出来たら二人で画面の前に移動する。ゲームは体力制の対戦型ゲームで心春が一対一を望んだ為、俺は邪魔だろうから机の前から観戦しようと思っていたら花恋さんに腕を引っ張られた。


「一颯はここに座りなさい、楽な態勢でいいわ」

「え? あ、はい、ここでいいですか?」


 指定されたのは画面の前、本来ここは花恋さんが座ろうとしていた場所だ。楽な態勢でいいというから胡坐をかく。


 俺が先にゲームをやればいいのだろうかと思っていると、俺が胡坐をかく膝の上に花恋さんがスカートを抑えながらぽすんとお尻を乗せてきた。


「ちょ、花恋さん!?」

「一颯、動かないで。心春も変に動揺しない、わたくしが今日の為にそれなりの譲歩をしたのよ、これくらい特権があってもよろしいのではなくて?」

「うぅ〜、一颯くん〜」


 主人に見捨てられた子犬のような目で俺を見ないで欲しい。二人が今日までにどんな交渉をしていたのかは分からないが、一番動揺しているのは俺なんだから。


 完全に俺の胸に背中を預けてリラックスしている花恋さんには俺に対する警戒なんてものはない。この状態はまるで兄と妹のような関係……、そんなことを言えば目の前の後頭部が顔面に飛んでくるだろうから言わない。


「まるで仲のいいカップルね?」

「……はい」


 だから言わない。

 膝に乗る花恋さんの感触は非情に素晴らしく、特に臀部の柔らかさは際立って敏感に伝わってくる。手で触れなくても人はここまで形を把握できるんだと、謎の感心を持ちつつ興奮を抑える。


 ……だって男だもん。こんな状況で何も感じないとかもはや病気だよ。


 花恋さんが本当に小学生とかだったら俺は何も思わなかっただろう。せいぜい甘えてくる姪っ子あたりで可愛らしく思えていただろうな。でもこの人は俺が尊敬する先輩で、身長が低いというだけで補完して片付けられるほど俺の脳内は完璧じゃない。


 ゲームを始める前、花恋さんが俺の両手を取って自身の臍あたりに持ってきた。これで俺が後ろから花恋さんを抱いている形になる。


 心春はもう戦闘モードに入っていてこの状態に気付いていない。そして、振り向いた花恋さんが耳元でくすぐったいくらいに囁く。


「一颯は匂いフェチだったわね? 先にシャワーを浴びているから存分に嗅いでいいわよ」

「そんなことしませんよ、……というか、なんで誰にも話したことがないのにばれているんですかね?」


 情報の出所はなんとなく分かっているし、とりあえず犯人がいるであろうこの部屋のお隣の壁を睨んでおく。しかし、腹に手を回すということは俺がこの態勢から逃げられなくなったということ。手を外すことは雰囲気からして無理で、でもそうするとどうしても目の前には花恋さんの艶やかな髪があって、俺の鼻が無意識に近づこうとする。


「実はわたくし、お腹を撫でられるのが弱いのよ」

「そうなんですか? じゃあ、なんで俺の手を腹の前に持ってきたんです?」


 俺の手が花恋さんの腹に触れた時、ぴくぴくと身体を動かしていた時点でなんとなく気付いてはいた。だけど、それじゃあ花恋さんがゲームで不利になるのではないか?


「この程度ならいくらでも耐えられるわ、それに接戦を演じても心春には一勝も与えるつもりはないわ。もし、わたくしが負けることがあるとすれば……弱点を責められている時かしらね?」

「…………」


 俺が何も答えずとも、二人はゲームを始めてしまった。予想通り花恋さんが慣れた手つきで心春を一気に追い詰めていく。


 俺は二人が楽しく遊んでいればそれでいいのだが、せめて心春に一勝してほしい。


 ……どうして俺に選択肢が生まれているんだろうな? こういうのは唯人の役目だろうに。


 考え込んでいれば花恋さんがあっという間に心春から一勝をもぎ取っていた。最初に手加減はしないつもりのようだ。何戦やるのかは分からないしすぐに終わってしまうかもしれない。


 シャワーを浴びた後というだけあって、シャンプーの爽やかと、それでいて鼻の奥を刺激する甘い香りに意識が混濁してきた気がする。


 きっと気のせいなんだろうけども、花恋さんが俺の愚行を許してくれることに脳が麻痺しているのだ。

 考えに考え込んで、俺が取った選択は……。


「――……わたくしの勝ちね」

「悔しいよぉ、ほとんど何もできなかった……」

「運要素のほとんどない実力のゲームでここまでわたくしと戦えたのだから、きっと心春は筋がいいのだわ」


 花恋さんが背中を俺の胸に預けてきたことで意識が急に覚醒する。気が付けば決着はついていた。大差で花恋さんの勝ちだったらしい。


 ほとんど試合内容を覚えていないが、画面を見ると、二人は先に十回勝った方の勝ちというルールで戦っていたらしく、最終的なスコアは10対2。


 心春が二戦も勝利していた。


 部屋はクーラーが効いているはずなのになぜか熱い。花恋さんがゲームに熱中して身体から熱を発しているようだ。どこか息も乱れているし、頬も赤く上気している。心春がかなりいいところまで迫っていたようだな。うん。


 心春が二勝した件については、花恋さんがわざと負けてあげたか、心春のこのゲームの適性が高いのかのどちらかだろう。意識が混濁していた俺の取った選択の真実は花恋さんしか分からない。


 俺は真実を聞くのが怖くて、知らないままの方が幸せという言葉を匂いで麻痺が残る脳内で何度もリピートさせるのだった。








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