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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
二章 陽菜ルート攻略シナリオ
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46陽菜ルート テスト勉強

 図書館といっても学校の図書室とはレベルが違う。


 俺たちの住む街に建てられた唯一の図書館だ。規模はそれなりに大きくて四階建て、そのすべての壁が蔵書で埋め尽くされているといっても過言ではない。


 昨夜、心春と相談して現地集合のメールを唯人だけに送った。そして今日の朝、これもまた唯人だけに、月宮さんにはメールを送るのを忘れたと連絡する。


 心春と二人してニヤニヤしながら朝食を食べていたら母さんに怒られた。


 現地集合にしたのは出来るだけ二人の時間を増やすためだ。唯人だけでなく、俺にとってもいい作戦ではなかろうか。


 唯人しか予定を知らないから、月宮さんを誘うのは唯人の役目と伝えてあるし、今更ドタキャンは許さない。一応、月宮さんには心春が予定を伝えてあるから誘えば来てくれるはず。というより、唯人にお願いされたら来てやってくれと頼んである。


 二人で一緒に来たことを確認したい俺たちは炎天下の元、図書館の自動ドア前で唯人たちが来るのを待ちわびていた。


 心春は胸元にワンポイントの青いリボンが施された淡色な肩出しのワンピースと可愛らしい麦わら帽子。ノート一冊が余裕を持って入れられる程度の鞄を肩から斜めに掛けているからまるでお忍びでやってきたご令嬢だった。


 七月とはいえ完全に真夏日だ、これくらい涼し気な格好をしなければ外を歩くのも億劫。


 心春の麦わら帽子姿が幼さを醸し出しているせいで俺たちは普段よりも周りから兄妹として見られていると感じた。いつものサイドテールはそのままだが、まとめた髪とは反対側に見られるうなじの汗に色気が溢れ出ている。日焼け止めを塗った真っ白な鎖骨部分の肌は、あまりにも細すぎて触れてしまうだけでほろほろと崩れてしまいそうだ。


 タオルを心春に渡して汗を拭い、熱中症対策の塩分と水分をこまめにとっておく。


 倒れては元も子もないので先に入って待っているかと心春に声をかけたと同時に、曲がり角から待ちわびた二人の姿が見えた。


「おーい、こっちだ」

「なんで外で待ってんだよ……」


 俺と心春が待ちわびた光景に外の暑さは忘れてしまう。でも二人は永遠と照り続ける日差しが暑くてたまらないようでさっさと図書館内に入る。


 おそらくこの街の、人がいる場所で最も閑静な場所。わずかな私語も躊躇しなきゃと思わせられる鋭い目つきの司書たちとは目を合わせたくない。


「やっぱりすごいね……」


 隣で声量に気を付けて小声で話す心春に小さく頷く。


 見上げれば、天井近くまで並ぶ本棚に圧倒される。真ん中に大きな支柱を残して吹き抜けとなっている構造で建物自体は四角形をしているが、本棚の配置による錯覚か、図書館内は円柱の構造をしているように思えた。


 唯人と月宮さんはちょっと休憩にと、水分を取ることがかろうじて許されているコーナーへと、そこにある冷水機へと直行していた。


「先に行ってるよ」


 勉強のできる場所を求めて階段を上がる。二階には机がいくつも並んでいて、ちょうど四人掛けの机に心春と並んで座った。


俺たちが腰を据えてしまえば、聞こえるのは受験生か俺たちと同じ期末テストに追われる学生か、ペンを紙に走らせる断続的な音が響く。そしてたまにページを捲る音、これらが図書館での少なからず存在する音だった。


 階段を上がってきた唯人たちに無言で手を振り、なんとか気付いてもらう。本当は俺たちが全く別の場所ではぐれた風を装って二人の時間を作ってあげればよかったかもしれないが、さすがにそれは不自然極まりないから自重した。


 今回の期末テスト、実を言うと俺はほとんど勉強していない。さらに言えば授業もまともに受けていない。普段から考えることが多く睡眠不足が続いていて、授業を受けているふりばかりが上手くなっていく。


 約二年前とはいえ一度受けたテストだ、何とかなるだろうと楽観視している。ノートを開けばまっさらなページがほとんどで、数学なんて計算が少し書いてある程度、それも全部は解ききっていない。


 事情は心春に話しているとはいえ、さすがに何もかも教えてもらうのは悪いと思って教科書と照らし合わせながらなんとか思い出す。


 ……よかった、ここら辺でやった問題は三年になったときに応用で習ったから、少し問題を解いてみれば公式とか大体は思い出した。テストは授業でやった問題をそのまま出す場合もあるため、覚えている限りでテストに出た問題に赤で丸を付けていく。


 数学だけで十問ほどになっただろうか、これで三十点前後は取れるからありがたい。他の問題は少し数字が弄ってあって、だけど応用以外は難しくもないため根を詰める必要はなさそうだ。


 心春にこっそりと丸を付けた部分を見せてあげると、最初は何のことか分かっていなさそうだったが、すぐに気付いて苦笑いを浮かべる。そして、見せてあげた教科書を首を横に振りながら押し返してきた。


「大丈夫、自分で頑張る。でも、この問題は教えて?」


 それはテストに出ない問題だった。でも心春はまんべんなく理解しておきたいということで、先の知識も踏まえて丁寧に教える。


 唯人たちはどうだろうかと、視線だけそちらに向けて見れば、二人とも黙々と勉学に励んでいた。ただ、問題を解くペースは月宮さんの方が圧倒的に早く、唯人は書いては消してを繰り返すばかりだった。


 唯人が葛藤している現状を気付かせる方法は何かないだろうかと思案していると、解けなくてイライラしていたのか、唯人の消しゴムが文字を消すと同時に綺麗に真っ二つに折れて月宮さんのペンを動かす手元に飛んで当たった。


「あれ? なんで消しゴムが……?」

「ごめん、問題が解けなくてちょっと力んじゃった」

「そうなんだ、どこが分からないのかな? 見せてみて、教えてあげる」

「あ、……ありがとう」


 月宮さんが椅子を動かして唯人のすぐそばまで移動する。唯人は恥ずかしながらもしっかり月宮さんの教えを聞いていて問題に取り組んでいた。


 そんな仲睦ましい光景に俺と心春は二人に温かい視線を送りながら勉強の続きに戻る。


 ――周りの音も忘れて、俺は心春を見習ってテストで出る問題以外も復習する。気が付けば秋学期の授業内容まで範囲を伸ばしていた。


 誰かがゴトッと物を落としたような音に意識が教科書から逸れる。今は何時だろうと思って時計を探すが見当たらない……。しかたなく携帯を取り出せば、時刻は昼をとうに過ぎていた。


「一颯くん、今何時?」

「もう二時だ、かれこれ四時間以上はここで勉強していたことになる」

「わ! そんなにやってたんだ、周りに音が無いと没頭しちゃうんだね」


 俺の集中力はハサミで切ったようにぷっつりと、心春も「……うーん」と大きく伸びをする。同時に心春の腹からくぅと可愛らしい音が聞こえて、恥ずかしそうに腹を抑えた。


 集中している唯人のノートの上をペンの尻でトントンと叩けば、顔を上げてくれる。


「もう二時だ、さすがに腹が空いたからこれくらいにしよう」

「……そうだな、……久しぶりだな」

「え? 何が?」

「いや、何でもない、おーい月宮、戻ってこい」


 この勉強の時間に唯人は何を思っていたのか、ずっと集中して勉強しているようにしか見えなかったが、もしかして何か重要なフラグでも見落としていたのか? もしそうだとしたら、少しもったいないことをしたな。でも唯人は集中していたことで何か浸ることがあったのか、どこか嬉しそうにも思えた。


「何かいい事でもあったか?」


 俺は図書館を出てから唯人に問いかけた。


 唯人はどこか上の空で、すぐ隣に月宮さんがいるにも関わらず恥ずかしがる素振りもない。


「ああ、……オレって、高校に入ってから何かに熱中したことってなくてさ、勉強とはいえ、こんなに集中していたことに驚いてさ」

「中学の時は何かに嵌ってたのか?」

「ああ、それなりには……、な」


 それが柔道をやっていたことだとは教えてくれない。やっぱり唯人は柔道をやっていた過去を隠したがっている。ということは過去に何かあったのか。


 断片的な情報しか持ち合わせていないが、唯人は柔道の選手としてかなりの実力者であり、大会でも個人と団体共に上位には必ず食い込んでいる。そんな唯人が失敗した過去とは一体何なのか、詰め寄ってでも問い質したいが、そうすれば俺たちの関係が崩れてしまう可能性を危惧しなければなるまい。


 聞き出すにはかなりのチャンスだと思ったが、それなりの情報が揃っていない以上問い質すのは危険だと判断し、俺はこれ以上この話を掘り下げることはしなかった。


「腹減ったし、四人でどこかに食いに行くか?」

「あ、悪い、親が俺たちの分の昼食を残してくれているみたいでな、家で食うわ。唯人は月宮さんに勉強を教えてもらったお礼でもしてやれ」


 主人公の友人らしくアドバイスを送ってやれば、唯人は口実があるからと月宮さんに向き直る。


「いやー、えっと、……月宮、飯食いに行くんだけど、一緒に来るか?」

「うん、いいよ、行こう。じゃあ、心春ちゃんとはここでお別れだね、また学校で」

「そうだね、もしかしたら明日、女子寮に行くから会えるかもしれないよ」

「そうなんだ、何か用事があるのかな?」

「そんなところ、じゃあね」


 二人ずつで別れて今日はお開きとなった。ちなみに家で昼食というのは真っ赤な嘘で、これから心春と遅いけどファミリーレストランにでも寄ろうと思っている。


 二人で外食というのは久々で、仲良く駅前方面へと進路を変えるのだった。







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