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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
二章 陽菜ルート攻略シナリオ
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45陽菜ルート 授業中の雑談

 本日も雨が降らないのをいいことに連日しゃしゃり出ては熱中症や脱水症状を誘う太陽にうんざりしていた。


 五限の体育を終え、今日の六限の授業は先生が出張ということで自習。課題をさっさと終わらせた俺たちは椅子の向きを変えて三人で雑談に耽っていた。俺たちみたいな自習を雑談に耽るやつはクラスのあちこちで見かけられる。


「一颯、期末試験の対策はばっちりか? 来週にはテストだぞ」

「ん〜? まあ、なんとかなるだろ、平均点狙って頑張るよ。聖羅はどうだ?」

「あたし? 部活の方もあるから復習は欠かしてないよ。部活の野外イベントをメインにしているから、こってり勉強なんてする気ないね、寝不足は肌に悪いし」


 俺と唯人はそんな勉強熱心な聖羅に意外だ、と呟けば頭をチョップされる。


「ギャルが男作らず部活に熱中、それでいて勉強も毎日欠かさないって……、本当にギャルか?」

「失礼ね、今時ギャルでも打ち込むことの一つや二つ、それが恋愛じゃなくてもおかしくはないでしょ? というか、唯人は部活もやってないんだからテストで点数取らな内申点やばいよ」

「やっぱり? 聖羅のとこで飯食ってるだけじゃ、ダメ?」

「ダメに決まってるでしょ! あたしたちの料理をたかりに来て、それで評価上がったりなんかしたらあたしの料理に男が寄って来るでしょ」

「ギャルとして喜ばしい事じゃないのか、それに唯人はいいんだな?」

「残さず全部食べてくれるから、こちらとしてもありがいのよ。あとあたしは安い女じゃない」


 そういうものか、今まで知らなかったことが後になって分かると面白いな。すでに二年近く共に過ごしてきているものの、知ろうとしなければお互いに未知の領域が存在していて、そこに触れられた瞬間の悦びは、俺は人一倍敏感になっている。とにもかくにも俺は情報に飢えているのだ。


「唯人には勉強を教えてくれる人はいないのかあ?」


 少しにやつきながら聞いてやると、案の定唯人の視線は焦りだし、手振り身振りが大きく阿修羅のような動きを始めた。


「い、いるわけないだろ! 部屋に聖羅が来たって菓子食ってマンガ読んで……」

「あれ? 唯人の部屋ってあたし以外にも女子が出入りしているでしょ、この前なんか月宮ちゃんなんか連れ込んじゃって、手を出すのがお早いこと」


 やっぱり寮に住んでいる聖羅のほうが情報の伝達は早そうだ。俺もこの学校ではそれなりの情報通でたまに声を掛けてくる奴らがいるが、女子の深いところには踏み込めない。そういったところまで把握しているのが聖羅であって、思いがけないところで新情報が飛び出すことがある。


「そうだ、勉強会を開こう!」

「え、俺は心春と勉強するし」

「あたしは部活優先」

「なんでー!? 聖羅はともかく、一颯は集まれるだろ!」

「悪い、他に用事もあるんだ。勉強するにしても日時が限られてる」


 まあ半分は嘘なんだが、それを確かめる術は唯人にはない。


 実際、俺と心春は一緒に勉強をするのだがその場所というのが女子寮で、花恋さんの部屋に招待されています。はい。


 屋上に閉じ込められた際に追加で要求されたのがこれ、花恋さんの部屋で勉強会を開くこと。なんとか食い下がって心春共々ということで落ち着いた。


 俺があまり唯人の時間を奪ってしまっては月宮さんとのイベントが発生条件が満たせないかもしれない。今のところそんな不十分なことになっていないが万全を期するべきだ。


 主人公の友達である俺は物語が後半になればなるほど舞台からフェードアウトしていく。もう“俺たちの時間”は十分に過ごした。唯人を正規のシナリオへと返還するべきだ。


「そういうわけで、唯人は彼女としっかり勉強するんだぞ」

「ばっ! 一颯!」

「おや? まだそんな関係ではない?」


 一応聖羅には聞こえないよう配慮したのだが、口にされるだけで恥ずかしいらしい。それに、意識し始めているもののどうすればいいか分からない状態か。


 一年生のクラスで早く授業が終わったのか、聖羅の後輩がちらっと顔を出しにきていた。本当は授業中に教室を出るのはいけないが、さすが聖羅の後輩というべきかこういうところで度胸があるようだ。


「あ、二人とも悪いね、部活の後輩に呼ばれたからちょっち行ってくるね」


 聖羅が「はいはーい、今行くよー」と駆けていく。男だけになれば先の話も続きがしやすくなった。


「なあ、唯人、さっきは勉強会に参加できないって言ったけど、実は土曜の夕方までは一日予定が空いているんだ」

「お、おう、じゃあ、なんでそれを先に言わない」

「いや、な? 唯人が誰かを誘うかもしれないのに俺が邪魔したら悪いだろ」

「な、何のことだ? オレが誰かを誘うと思うか?」


 動揺が言葉にして現れている。まあそんなこと関係なく唯人を振り回してでも月宮さんを誘ってもらわないと困るのだが。


「今度の土曜に俺は心春と図書館で期末テストの勉強に行く予定だ。唯人も来いよ、好きな人でも誘ってさ」

「好き、な……、人?」

「そうだ、聖羅でも、あのハーフの女の子でも、それこそ月宮さんでもいいぞ」


 三人の名前を挙げてみると、唯人が一番反応したのはやっぱり月宮さんだった。次いで三好さんかな? 触れ合いが少ない順だと推測する。本当は四人の名前を挙げてみたかったが、俺は小鳥遊先輩のことをこの目にしていないし唯人と仲がいいなんて聞いたこともない。ここで挙げるのは少々危ない橋を渡る気がしたからやめた。


「ちなみに月宮さんと心春は大の仲良しだから誘うのは簡単だ」

「そ、そうなのか? ……俺もその勉強会に参加しようかな」


 下手な誘いに唯人はまんまと釣られる。俺はそれを聞いて大満足、時計をチラッと確認して、……タイミングもばっちり。


 唯人の背中をバンッと強く叩いて笑顔で告げる。


「そうかそうか、参加してくれるんだな。ここは男らしくしっかり誘って来いよ、楽しみにしてるぜ!」

「え? 心春ちゃんが誘ってくれるんじゃ……」


 唯人の言葉を遮るように授業終了のチャイムが鳴る。同時に加賀美先生が聖羅の首根っこを捕まえて教室に入ってくる。


 廊下でこそこそ話していたところを見つかったみたいだ。猫のようにぷらーんと手足を投げ出した聖羅が反省用の作文用紙を二枚持たされて地に降ろされていた。


「おら、さっさと帰りのホームルームを終わらせるから静かにしろ、神楽坂は最終下校時刻までに一枚半以上書いて提出な」

「うえーん! あたし反省文なんか書きたくないよー、ちょっと廊下にいただけじゃんか、先生の鬼!」

「ちなみに一年の子は担任があの鬼瓦先生だからな、反省文は作文用紙五枚に誤字脱字は初めから書き直しだ、……優しい担任でよかったな、神楽坂?」


 名前の通り強靭な筋肉は鬼の面をした男性教諭で、鬼瓦先生の肩に担がれて生活指導室へ運び込まれた生徒は数知れず。何人の生徒が矯正されたことか。あれでも生後六か月で双子の女の子の優しいパパなんだそうで人は見かけによらない。


 そんな鬼瓦先生が他先生方に向けて特に力を入れて指導していることが『体罰はいけない』。


「あ、はい……、加賀美先生様の寛大なご配慮、痛み入ります」


 加賀美先生の素敵な笑顔には聖羅も頷かざるを得ない。流石俺らの加賀美先生! クラスのギャルにも屈しない加賀美先生格好いい!


 ……的なことを脳内で歓声を上げている奴がこのクラスには少なからずいるくらいには加賀美先生も人気がある。


「加賀美先生、ばんざーい!」

「神楽坂うるさい!」


 涙交じりに作文用紙へペンを走らせ始めた聖羅。怒られてこれ以上枚数を増やされないことを祈っている。


 ホームルームが着々と進んでいく中、忘れていたが隣を見ると、……唯人が顔を真っ赤にして頭を前後左右に激しく振りながら悶々と何かを考えているようだった。ホームルームが終わっても気付かないから声を掛けず、遅れてやってきた心春と一緒に笑いながら観察していた。








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