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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
二章 陽菜ルート攻略シナリオ
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42陽菜ルート 幻の男子生徒

 フラグは上手く立ったようで、無事に陽菜ルートに突入したことを報告しに演劇部に顔を出す。


 そもそも今日は活動日だからそのまま部活に参加し、花恋さんにはこそっと「うまくいきました」と一言だけ伝え、詳しいことは夜に電話かメールで話す取り決めを一瞬で済ませる。


 後は適度に男装した心春が唯人と月宮さんの前に現れて、ある程度情報を集めさせてから正体を明かせば大丈夫だ。


 はっきり言ってルートに入るまでがものすごく大変で、入ってしまえば選択肢なんてほとんどない。俺が関与する選択肢となったら一つもないのだから。そのため、後は放っておいていい。二人の時間を過ごしてもらえば全部上手くいく。


 ああ、でも唯人からの相談はあるからその都度話を聞いてあげればいい。イベントによっては駆り出されることもあるだろうが、基本、唯人に付き合って遊びに行くようなものだろう。


「霜月兄、この小道具ってどんだけ出来てる?」


 舞台の小道具を製作していると、城戸先輩が絡むように肩を叩いて声を掛けてきた。


「あ、それらは今日中に出来そうなので、稽古には既に完成しているやつだけでお願いします」

「あいよ、そうだ、霜月兄、花恋とはどうなったんだ? ん?」

「何も聞かないでください。……というより、聞いたんですね?」


 城戸先輩と花恋さんは仲がいい。寮でも部屋が隣ということもあってよく遊ぶらしい。なら俺とのことも筒抜けなのだろう、というより意図的に漏らしていると思われる。


「あの子があそこまで乙女になるなんて考えられなかったわ。花恋のこと、『花恋さん』て呼んでるんでしょ? 初々しくていいわあ」


 恋愛脳な城戸先輩は、シンデレラの物語序盤の薄汚れた衣装を着たまま両腕で自身を抱いてくねくねと腰を動かす。


 今回の劇の相方である柊木先輩に呼ばれて行ってしまったが、俺にウインクを一つ、そして、隠れてこちらの話を伺っていた心春に何か呟いてから稽古に戻っていった。


 そして呟かれた心春はこちらを向いて瞳をうるうるとさせていた。


「ど、どうした心春!」

「城戸先輩がぁ、……花恋さんの味方するってぇ」

「ああ、……心春も仲がいいもんな」


 城戸先輩は自身の部屋でお茶会を開き、そこに演劇部の女子を招くのだが、心春は毎回必ず招かれるほどに仲がいい。他学年では一番の仲だろう。突然の裏切りに心春が泣きついてきた。多分だけど、これで関係に亀裂が入るとかそんなことはないと思う。


 あくまで花恋さんの味方であるというだけで、心を鬼にして敵になろうとはしていない。


 もしそうなら、さっきの時点で俺を脅しでも何でもしていたはずだ。城戸先輩なら俺相手に弱みをいくつも握られている。ちらつかせられればさすがにいろいろと対応を変えざるを得ない。


「大丈夫だ、俺が言えることじゃないが心春を応援してくれる人はいるだろ」


 ホント本人を前に俺は何を言ってるんだか。だったら気持ちを伝えろよ。


 よしよしと心春の頭を撫でて慰めていると、部室の扉がノックされ見知ったやつが顔を覗かせた。


「あの、ちょっといいですか?」


 唯人だ。後ろに月宮さんと聖羅もいる。ということは、ここに来たのは聖羅の提案だろう。


「どうした? まさか、入部希望か?」


 あくまで俺は何も知らない風を装う。三人がなんの用でここに来たかなんて、本来俺は知っているはずはないのだから。


「聞きたいことがあるんだが、時間いいか?」

「少しなら大丈夫だぞ。あっちに会議室があるからそっちで話そう、安っすいやつだけどお茶なら出せる。お菓子もあるぞ」

「いや、そこまで大事な話ってわけじゃ――」

「お菓子あんの! 行こうよ、絶対そっちで聞く!」


 こう言えば少なくとも駄菓子ジャンキーな聖羅は釣れるだろうと。想像通り釣れた。


 あんまり俺の口から話したくないから、唯人たちを()()()()()()()人の元へ連れて行く。呼びに行こうと思ったらちょうど会議室にいてくれて、三人をわざと花恋さんの前の席に案内した。


「あ、花恋さん、うちのクラスの奴らなんですけど、なんか聞きたいことがあるみたいなんでここ、使わせてもらってもいいですか?」


「いいわよ、でも、わたくしも作業があるから聞かれたくない事でしたら場所を変えなさい」


 作業に戻ろうとする花恋さんを聖羅が止める。


「あ、二階堂先輩ってここの部長でしたよね? ちょうどいいので聞いてもらえますか?」


 上手くいった。ルートに入ってからのシナリオは、『謎のイケメンの情報集めのために東奔西走する』という頑張って四字熟語使いました。てきな適当なシナリオがおいてあるだけ。


 ここら辺は自由にやってくれということなんだろうが、あまりにも適当すぎて頭が痛い。


 話が後半になればなるほど空白が目立つし、他のヒロインは共通シナリオ意外はほとんどが白紙だし、やる気が失せそうだ。


 でもそんなことを言っていられない状況だから悔しくて、お茶葉を濃いくらいに多めに入れてやった。唯人には百度のお湯で入れてやり、緑々したお茶を提供する。


「それで、聞きたいことがあるんですけど、……――熱っつ! 苦っが! なんだこれ一颯!?」

「あ、悪い、残りちょっとと思って全部入れたら多かった。お湯もポットで沸かしたてだから熱いと思う、火傷には気を付けてくれ」

「おせえよ、……すでに舌を火傷したんだけど」


 あ、他三人にはポットのお湯を沸かす前の九十度のお湯を入れたから少し冷ませばおいしく飲めるはず。お茶葉も適量だ。本当はもう少し低い温度だとよかったんだけど、ポットは九十度から百度で保たれている。


「ええと、それで、聞きたいことってのは、去年の一学期終業式前にやった演劇についてなんです。その舞台で登壇したイケメンについて聞きたいんです」

「イケメンとは? うちの部の男子はどの子も優秀で粒ぞろいよ、名前か特徴を教えてもらえないと誰か分からないわ」


 花恋さんもこちらの事情は分かっている。だからあえて惚けてみせるのだ。何か知っている風を装って言葉はすらすらと、正確な特徴を話さなければ教える気はさらさらないと態度が示している。


「聖羅、どんな特徴だった? オレは見たことがないから分からないんだ」

「特徴といっても、さっきそこで稽古をしていた柊木先輩みたいな輝き方をした人という印象しかないかな? イケメンなのは確かなんだけど、そのときはタキシードを着ていたし、セリフもないから分からないよ。後日、演劇部に生徒が詰めかけたけど誰も見てないし」

「むぐむぐ……さくさく」


 前途多難のようだ。たしかに俺も心春も登壇してからは一言も話してないし、俺は心春の恋人役として舞踏会のわき役をしていたにすぎない。その俺のことすら情報がないのだから、情報が孤立して例えが出てこないようだ。


「そんな抽象的なものでは分かりかねるわ、翔が最も該当する人物だけど、そうじゃないみたいね」


 すると、なぜか器用に擬音を口にしながらお茶と菓子を嗜んでいた月宮さんが小さく手を挙げて口を開く。


「昨年の一学期末の演劇で、最後の舞踏会のシーンで観客側から見て左端に立っていた男性、女子生徒の間で話題になって、連日この部室に詰めかけられて困っていたのではありませんか? その話題の中心にいた男性です」


 はきはきとした口調で伝えられる情報を花恋さんはしっかり聞き届け、一瞬だけ視線をこちらに寄越してから答えた。


「その噂となった生徒はたしかにこの高校の演劇部部員よ」


 ひどく中途半端な答えだが、唯人たちにとってはやっと入り口となる情報だ。これを元に徐々に詰めていく。


「その人は今も在籍していますか? いたら話をしたいんですけど」

「在籍は……、しているわ、でもその子は気まぐれでね、ここにはいないの」


 まあ、心春が男装するなんて滅多にないし、気まぐれと称しても何も不自然ではあるまい。


 花恋さんは会話の中でちらほらヒントを散りばめているのだが、答えを知っていなければ気付けない事ばかり、それも小さすぎて気に留めもしないレベルだ。


「そうですか、じゃあ、名前だけでも教えてもらえませんか?」

「それは無理ね、ふふ、不可能なのよ」


 猫のようにころころと笑う花恋さんは少々意地悪で、唯人たちを振り回すことが楽しいのか口元を軽く抑えながら謎々のような返しをする。


「その子に名前なんてないのだから」

「え……?」


 これにはあまり表情を顔に出さない月宮さんですら驚きの表情を見せた。俺は笑い出したくなるのを必死にこらえてお茶菓子を補充することで誤魔化す。


 俺が女装した時は『愛陽』という名前があるが、心春の男装は別に名前を付けたわけではない。だから名前がないのだ。知らないと言わないあたり花恋さんは本当に意地悪だ。


「それじゃあ、その人にはいつ会えますか?」

「わたくしが把握しているわけではないわ、本人の意思次第ね」

「ええと、……一颯は知っているのか?」


 花恋さんじゃ取り付く島もないと思って俺に矛先を向けてきた。しかし、俺の答えはすでに用意してある。


「悪いけど、俺が答えられる質問じゃないね、花恋さんが分からないなら俺も分からないな」


 あまり上手とはいえないはぐらかし方に、唯人と聖羅が少しムッとした顔で睨んできた。……ここまで真剣にやることだっけ、これ?


 本当に正体を暴きたいんだろうけども、こういう場を俺が用意したとはいえ、こうも真面目な取り組みをされると予定が狂うんだけどな。


「あなたたちはなぜ、その人を探しているのかしら?」


 あえて聞いてこなかった質問を花恋さんはここで切り出した。別に唯人たちは隠しておきたいことでも何でもないだろうが、なんでかと聞かれたらそれなりの理由が思いつかないのだ。


「その生徒の関係者と思わしき少女から正体を探って欲しいと頼まれました。藍色のローブを被った女の子についても教えて下さい。顔は見えませんでしたが、おそらくその男子生徒と同じ劇でペアを組んでいたはずです」


 若干内容は変わっているが、月宮さんははっきりと理由を述べた。だが、申し訳ないがその少女の正体は()()()()()()()()設定なんだ。


「少女……、そうね、話を聞く限り貴方たちの言うその少女はおそらく舞台に出てもらった彼女ね、あの時はあの子の相方がいなくて即席で頼んだのよ、あの一瞬だけの名誉演劇部。だからわたくしも貴方たちと同じく何も知らないわ」

「そうですか……、お話、ありがとうございました」

「構わないわ、ただ作業をしているだけじゃつまらないもの。一颯が話し相手になってくれるならいいのだけれども、この子には心春がいるのよねぇ、全然わたくしに構ってくれないわ」


 俺が余計なことを言えないのをいい事に攻めてくる花恋さんにたじろぐ俺。「はっはっは……」と苦笑いを浮かべて三人が立ち去るのを待つ他なかった。







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