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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
一章 準備 共通シナリオ
30/226

30初アップデート

 昼食後、今度はボクが私服を着て、部長が普通の女子の制服を着てみた。


 部長が着ていた衣装より一回りだけ大きいサイズも買っていたからそれを身に纏う。部長は普段、魔改造のされたフリルたっぷりの制服を着ているため普通の制服になんだか落ち着かない様子。


「なんだか入学式を思い出すわ」

「部長って入学式以降改造した制服なんですか?」


 心春はすでに男装を解いて普段の女の子らしい部屋着に戻っている。やっぱりこっちの方が見ていて安心するな。


「そうね、卒業式もあの制服で臨む予定だから、この制服を着る機会もなかなかないわね」


 部長、あなたは魔改造された制服のまま卒業式に臨むことをボクは知っています。それで教師とひと悶着あった結果、なんとか説得してかなり目立っていたのを覚えています。


「それにしても一颯が小顔でよかったわ。顔の大きさは誤魔化しが難しいもの。髭も生えていなければ脚も綺麗……、あら? もしかして一颯は女性だったかしら?」

「部長、今の一颯くんは愛陽ちゃんですよ。そう呼ばないと気付いてもらえません」

「都合がいいので訂正はしないわ」


 なんかボクのことを抜きに話し込んでいるみたいだけど、ボクは鏡に映る自分の姿にちょっと見とれていた。


 淡緑のアシンメトリーのスカートはボクの動きに合わせてひらひらはためいて、ブラウスは詰め物をしているけれど窮屈じゃないし、こんな素敵な格好をボクがしていることに感動を覚えた。


 スカートを軽く持ち上げてすとんと落とす。なんだかそれが楽しくて何度か繰り返す。


「愛陽、女の子がそんなことをしてははしたなくてよ。何事もなければへその前で右手を下に手を重ねているといいわ」

「あ、ごめんなさい。なんだか楽しくなっちゃいまして」

「いいわ、それより、そろそろ元の姿に戻ってくれるかしら、話したいことがあるの」

「分かりました。着替えてきます」

「それと、私が部長だろうと関係ないわ、あなたは口調を今のうちに変えておきなさい」

「そうでし……、そうだったのじゃ、すぐに着替えてくるのじゃ」

「のじゃろりにはちょっと清楚な衣装すぎたかしら? どう思う? 心春」

「愛陽ちゃんは吊り目ですから、どんな衣装だろうと態度と口調でどうとでもなるかと」


 逆に心春は垂れ目で優しい雰囲気を常に振りまいているけども、吊り目なボクはどうしても活発なイメージが払拭しづらい。それが嫌というわけじゃないがただ大人しいとは思われたくない。さらに言えばこの目つきでやんちゃだとも思われたくはない。せっかく女の子でいるのだから、せめて誰かに優しくできる存在にボクはなりたい。


 部屋で衣装を脱いで普段の部屋着に着替える。洗面所でメイクを落とすとスゥっと頭が冷えていく。


「ああ……、元に戻ったな、これ」


 自分を女の子だと思い込んでいた男子高校生がここにいます。大丈夫、ボク……、俺は演劇部だから恥ずかしくない。


 女装が俺の趣味ではないことは確かなはず、あまりにも嵌りすぎているから自分がのめり込んでいることに気付きにくいだけなんだ。


 ちなみに愛陽という名前は城戸先輩が命名してくれた。一颯という名前が女の子にいないわけではないが俺の男としてのイメージがあるために新たな名前を考えたのだとか。


「一颯、戻りましたか?」

「あ、はい、入ってきていいですよ」


 脱いだ衣装を畳みながら部屋に部長と心春を招く。部長もいつものゴスロリのドレスに戻っていて、クッションを抱えつつ座布団に座るときはドレスの裾がふわりと広がった。


 心春が新しいお茶とお菓子を用意してくれて、それで一息つく。


 これで新しいキャラを確立させられるだろう。後はタイミングを見て部長と合わせて唯人と他ヒロインを欺くだけ。


「さて、前にも話は伺いしましたが、今回の変装がどのような役割をするのか改めて教えて頂戴な」

「はい、今回俺たちが確立させた『愛陽』は主人公である唯人の前に現れる謎の占い師という設定です。現状、占い師というにはこれといった未来を示すわけではないですが、四人のうち、誰かのルートが確定した段階で愛陽の登場も確定します」


 脳内に広がるファイルの中身を取り出してはそれを読む。ほとんどが箇条書きで適当な文章なのを俺の言葉に置き変えることはそれほど難しいことではなかった。


 ただ、次の内容を話そうとすると突然の頭痛に襲われる。


「――痛ってッ!」

「一颯くん!? 大丈夫? すぐに水を用意するからちょっと横になってて」

「ああ、ありがとう、でも大丈夫だ、前ほど酷くない」


 一瞬だけ焼き印を入れられているような脳が焦げる痛み。前はハンマーで脳を潰されたあと、足の裏でぐちゃぐちゃに踏みにじられていると思ったくらいだし、これくらいなら耐えられる。


 どうやら新しくファイルの中に設定が組み込まれたようで、とりあえずあいつはしっかり仕事をこなしているようだ。


「心春、部長、どうやらアップデートが入ったようです。内容としては俺たちが前に決めた月宮陽菜がグランドエンドのヒロインに設定したことについてでして、愛陽というのが月宮さんと何か関係があるという設定が追加されました」

「唐突に来るものなのね。あなたが突然苦しむものだから驚いたわ。それに、まさか本当にシナリオのほとんどが白紙だなんて、製作者はゲームを舐めていらっしゃるのかしら?」


 何かと杜撰なあいつに部長はご立腹だ。それにしても部長はゲームに詳しいようで気になって尋ねてみた。


「部長って普段からゲームを嗜むんですか?」

「ええ、父が小さなノベルゲーム会社の社員なのよ、正統派なものからいかがわしいものまで、……幅広いのはいいのよ? でも、それを歳が十にも満たない幼女に披露するのはどうかと、おかげでわたくしは大人へと近づく階段を誰よりも早く上った気がするわ」


 なんだか遠い目をする部長は静かにお茶を啜った。お嬢様の振る舞いを見せる部長の父親はどのような方なのか一度見てみたい。


 他にも父親に影響されたことは多く、このゴスロリ衣装も元は父親の趣味で勧められたものらしい。当時から身長が低いことを自覚していた部長は、自分を可愛く見せることに力を入れていたせいかフリルの付いた衣装ばかりを集めるようになったのだとか。


 この歳にもなってとか思われそうなものだが、部長の体躯と演技力が全ての常識を覆している。


 身長が低いことを指摘されても怒らないし、自分を磨くための演技、そして自分自身を知り尽くしている部長は俺が思っている以上に大きな存在なのかもしれない。


「部長は努力家なお嬢様ですね」

「あら、先ほどの会話の中でどのような思考回路があればそのような結論にたどり着いたかは気になるところね。でもそれならわたくしの執事としてあなたは傍にいてくれるかしら?」

「一颯くん駄目だよ! 部長も一颯くんを誘惑しないでください。一颯くんは私の……、あれ? 一颯くんは私の何なんだろ?」

「いや、俺に聞かれても、俺は心春の義兄としか答えられないぞ」


 心春は勢いに任せて部長を牽制したはいいものの、その後に口走ったせいでよく分からなくなって小首を傾げていた。


「心春、あなたにとって一颯は王子様ではなくて? ピンチの時はいつでも助けに来てくれるもっとも頼れる存在、それがあなたにとっての一颯でしょう?」

「そ、そんなわけないですよ。一颯くんは一颯くんで、私の頼れるあ、ああ兄なんですから、それ以上でもそれ以下でもありません」


 ものすごく照れ隠ししているのが丸わかりだ。俺のことをちらちら見ながら話しているし、手に持った細い棒状のお菓子は震えに震えて机にぶつけてぽきっと半分に折れた。


「冗談よ、心春、誤魔化そうとするならばリンゴも顔負けの真っ赤な頬と耳を抑えられるよう精進なさい」

「……あう」


 さらに照れ隠しで腕に抱き着かれると俺が困るのだが、とりあえず役得だしすごく可愛いからこのままにしておく。柔らかいものが腕に引っ付いている感触を味わえるなんて、俺は幸福者だな。


「一颯くん……、部長がいじめるぅ」

「虐めちゃいないと思うけど、心春が困っているのでこのくらいで勘弁してあげてください」

「心春にだけは甘いのね。まあいいわ、あいかわらずあなたたち兄妹と話していると退屈しなくて済むし。またいつか招待していただこうかしら」

「あ、はい、それくらいなら喜んで」


 それからは時間の許す限り三人でトランプをしたりゲームを起動して交代しながら遊んだ。ゲーム好きの父親の影響で操作にすぐ慣れた部長が大抵トップで、最後まで一度も追い抜かすことは叶わなかった。







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