表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
一章 準備 共通シナリオ
27/226

27電車の混雑具合

 イベントは主に放課後に起きることが多い。


 もちろん朝の挨拶や休み時間などもシナリオに関係していることは多いのだが、サブシナリオばかりでメインではない。今日もメインシナリオは放課後にスタートだ。


「えー! 一颯と心春はこないの? 暇じゃん」

「悪いな、隣町の森林公園には二人で行ってきてくれ」


 月に一度は職員会議のため授業は午前中で終わり、料理部は外部顧問と共に隣町の公園で小学生とのふれあい料理教室や家庭科の授業に先生役として参加するのだが部員は全員が女子で、男手が一人でもいると助かるということで唯人に白羽の矢が立った。


 ここは聖羅ルートに繋がるフラグが立つイベントなのだが、俺と心春の出番はない。選択肢も陽菜ルートを優先して行動するため何が選ばれても関係ない。実を言うとすでに聖羅ルートに入るためのフラグは一本折ってある。


 唯人が家庭科室で親子丼に突っ伏していた時に心春が家庭科室に入っていったあの瞬間がフラグを折るために必要だった。おかげで唯人が家庭科室から出てきて、陽菜ルートへのフラグが立ったわけだ。


「ごめんね聖羅ちゃん、今日はお出かけなの」

「いいな〜、彼氏とデートとかあたしもしたいのにー」

「唯人で我慢してくれ、こいつなら彼氏役として申し分ないだろ」

「おいおい、オレは不純な付き合いはごめんだぜ」

「求めてないから、唯人は精々女子小学生にモテて通報されてなさい」

「ひでえ!」


 不貞腐れてしまった聖羅だが、今日は手伝えないことを昨日のうちに伝えていたはずだ。心春と俺はデートに出かけるから唯人に声をかけてくれと、了承してくれたはずなんだけどな。


 聖羅ルートならば隠れてついて行くんだけど、関係ないんだったら下手について行ってシナリオに影響を与えるのを防ぎたいし、今日は俺たちにとって休みなんだ。心春と二人きりで遊びたいときだってある。


 俺は前ほど心春と恋人扱いされることに否定しようとはしなくなった。限りなく薄い膜が俺と心春の間に張られていて本当の意味で付き合うことはできないが、ただ一緒に居たいという渇望が俺をこうしていた。


「一颯、オレ一人女子の巣窟に行くのは辛いものがあるのだが、本当についてきてくれないのか?」

「ハーレムじゃん、よかったな」

「そんな無慈悲な……」


 このままではズルズルと引っ張られてしまいそうだからさっさと教室を出ることにした。じゃあなと、二人に手を振って心春と二人で歩き出せば、たまに見かけるカップルと変わらない。端から見て俺たちの関係が兄妹と思う人はまずいないだろう。


 昼食をコンビニでおにぎりを買って済まし、制服のまま駅に向かう。夕食前には帰る予定だから着替える時間すら惜しく、心春の手を引いてホームに止まっていた電車に飛び乗る。


 週末とはいえ、平日の真昼間、電車内が混んでいるなどありえないはずなのだが、……今日は早朝ラッシュ並みに人が詰めて乗車していた。


「く、苦しいよ……。一颯くん、なんで混んでるんだろ?」


 俺もなんでこんなに混んでいるのか分からない。ただ、周りの人は何かワクワクした様子で、共通の装いを身に着けていることに気付く。


「心春、もしかしてコンサートライブじゃないか? あそこの吊り広告に書かれているやつ」

「あ、アイドルグループのライブがあるんだ。開始時間はまだ先なのに早すぎるよ」

「早めの移動とライブ前に物販にも並ぼうとする人も多いからな、タイミングが悪い……」


 もう少し密度が増せば足を浮かせそうなほどに混みあった車内では手を動かすにも一苦労だ。


 心春が押しつぶされないよう壁際に移動させ、俺が背中で後ろの人をわずかに押し返す。こんな時くらい荷物は背負わないで欲しい。


 心春と身体がほとんど密着している状態で揺れに対応しているのだが、次の駅ではさらに人が乗車してきて密着度が増した。俺はついに耐えきれず心春を体で押してしまう。心春が背中と後頭部を壁にぶつけないようとっさに腕を回して抱きしめたはいいがいつも抱き着かれているよりも密着度が増して意外と恥ずかしい。


 少し目線を下げれば煙が出そうなほどに顔を真っ赤に染めた心春が驚いたように目を見開いていて、そのままお互いにじっと見つめ合っていた。


 ほんの少し顔を近づければ、無防備な心春の額にキスが出来てしまいそうでドキドキした。心春の前髪をかき上げている俺の右手はいったい何をしているのか自分自身に問い詰めたい。


「い、一颯くん……? なんで私のおでこばかり見てるの?」

「……ッ! あ、いや、何でもない、綺麗だなと思って」

「汗かいてないか心配だし、恥ずかしいからあまり見ないで」


 パッと右手を離す。危ない、自然と口を近づけようとしていた。一度思いを伝えようとしていたこともあってあまり近づきすぎるのは自分の身を滅ぼしてしまう。しかし、そうすると余った右手は行き場を失って宙をうろうろしてしまい、左手は心春の肩を後ろから抱いているのだから右手も同じくそうすればいいのに……、管理下にないのかいうことを聞かずにいた。


 どういうわけか見かねた心春が俺の右手にスッと指を伸ばして袖を摘まむ。誘導されて向かった先は俺と心春の間、そして心春の左頬へと吸い込まれた。


 もっちりとしてほんのり赤い頬は焼いた餅みたいに温かくて、手のひらに熱は十二分に伝わってくる。どうやら俺の手の冷たさで蒸し暑さをしのごうという魂胆だ。逆に俺は背中がヒヤッとした展開に心春の頬の温かさは安心できるものがあった。


 ガタゴトと揺れる車内に無言で頬を触り続ける俺。心春は目を瞑ってすでに温まってしまったであろう俺の手を握っているからよく分からない。逆に暑くなっているだろうに、これで落ち着くのかどうか気になるところだ。


 しばらくすると車内アナウンスで目的地のホームに到着することが告げられ、俺たちは降車の準備をする。乗車しているほとんどはもっと先のコンサートホールのある駅で降りる為、取り残されないよう根気よくかき分けて進まなくてはならない。


「よし、心春、いくよ」

「一颯くん、はぐれないよう手を繋いでいこ」


 それは俺のセリフだという前には電車は止まり、慣性の法則に流されて人波に揺れる。開いた扉に向って声を出して足を踏み出す。


「すみません! 降ります!」


 俺の声にわざわざ電車から一度降りてくれた。おかげで俺と心春は無事ホームに降り立つことはできたのだが、心春はなぜかふらついていた。


「ごめん、途中で押しつぶされて目が回っちゃった……」

「ありゃりゃ、どうしよう、そこの椅子で一休みしようか? 俺も疲れたし、飲み物でも買ってくるよ」

「うん、お願い」


 心春をホームのベンチに座らせてから近くの自販機に走り、小銭を入れてドリンクの種類を眺めれば、そこにはまたあのお茶のペットボトルがあった。


 案外人気なんだなと思いつつ、それだけは選ばないように心春の好きなアップルジュースのボタンを少し強めに押した。もうトイレに駆け込むようなことはしたくない。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ