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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
一章 準備 共通シナリオ
25/226

25三好サラ

「心春、首尾はどうだ?」

「ばっちり、誰にも怪しまれてないよ」

「よし、これで後は唯人からペンを借りようとして忘れ物に気付かせるだけだ」


 心春の手には唯人のペンケースが握られていた。


 文化系の部活を一通り見学し、各々の部活もそろそろ終わりの時間に差し掛かった頃、俺は唯人を家庭科室へと連れて行った。


 心春と俺はお腹が空いてないからと断って中に入らず、教室の外で唯人が美味しそうに親子丼をハムスターの頬袋のよう頬張っている様子を観察していた。


 机の上にはまだ五杯分の親子丼が用意されていて、全部食べきるにはまだまだ時間がかかりそうだ。


「心春、今のうちに頼む、ペンケースを唯人の机の下に置いて、一応月宮さんが教室で本を読んでいるか確認してくれ」

「まかせて、陽菜ちゃんって集中していると何も周りに気付かないから確認するのも簡単だよ」


 このことに関しては心春がいてくれて本当に助かった。教室に誰もいなくなる頃とはいえ、気付かれずに物事を実行するのは相当難しいから、月宮さんが読書に没頭しやすいタイプでありがたかった。


 心春の言う通り月宮さんは心春が教室に入ったことに気付かなかったようで、無事任務は完了したと連絡がくる。


 唯人はまだ親子丼を食べているようだが、そろそろ限界が近そうだ。女子に囲まれて緊張しているのもあるだろうが、そもそもあの量は食い切れる自信がなかったのだろう。


 階段を上がって戻ってきた心春にグッとサムズアップを交わし、唯人が出てくるのを待った。ただ、唯人の箸を進める手が完全に止まっていて、これ以上は食べきれないと箸を置いてしまった。


「一颯くん、私、ちょっとお腹空いてきちゃったんだけど、“そろそろ”食べに行ってもいいかな?」

「いいんじゃないか、ちょうど唯人は選択肢に悩んでいるみたいだし、こっちは俺が何とかできるから、難しいことは何もないよ」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 やはり料理部の作るご飯は人気があり、食べさせてもらうというのがありがたいことなのだ。


 いい匂いと小腹の隙間に忠実となった心春が家庭科室に入ると入れ替えに、唯人が腹をさすりながら出てきた。


 鞄から先ほど三好さんから貰ったペットボトルを取り出し、キャップを捻ると同時に一気に呷った。


「よく腹いっぱいの状態で一気飲みできるな。俺なら吐くぞ」

「吐くなんて失礼だろ。それに一気飲みできるのは経験だよ」

「経験?」

「あ、いや、何でもない。そういう機会がたまたまあっただけだ。……うぷ、腹が痛いな、悪い、ちょっとトイレ行ってくるから荷物見ていてくれ」


 トイレに駆け込もうとした唯人が鞄をトイレの扉横に置いていった。


 後はトイレから戻ってきた唯人に俺が提出物を出し忘れに気付いて、名前も書いてなかったからペンを貸してくれと頼むだけ。それで陽菜ルートへのフラグが立つはず。


 待っている間は手持ち無沙汰で、トイレから少し離れたところにある手すりに寄りかかって家庭科室の窓を覗いた。


 心春が聖羅や部員たちに囲まれて楽しそうに食事をしている。こんなことに巻き込んで迷惑していたんじゃないかと思っていたが、あれだけの笑顔を見せられては考えを改めなくてはならないな。


 ――視界の端に銀色の何かが見えた。陽の光に反射した何かだと思ったが、気になったからそちらをふり向くと、一瞬己を疑った。


「何やってんだ? あれ、唯人の鞄を漁ってないか?」


 銀色の正体はヒロインの一人である三好サラ。今は取り巻きを一人も連れていないから勘違いかと思ったが、銀髪の時点で勘違いのしようがないし、唯人の鞄を漁っていることに疑問を覚えた。


 もしかして、ペンケースを探しに来たのではないかとかなり焦って、三好さんに駆け寄って声をかけた。


「なあ、君、何しているんだ?」

「ひゃっ! ……霜月先輩? 突然声を掛けないでください。あと、あまり大きな声は出さないでください」


 可愛らしい叫び声とともに振り返った三好さんはバッと立ち上がってこちらに詰め寄ってきた。


 近くで見ると化粧なんてしている様子はないのに豆腐のように触れれば指が沈んで崩れてしまいそうな白い肌で、どこまでも吸い込まれてしまいそうな真ん丸な碧眼に目が離せなかった。


「俺の事、知ってるんだな。なんで唯人の鞄を漁っていた」

「あ、ええと……、ですね。あ! ほら、唯人先輩のお友達のことだから知っていたんです」

「そっちを答えてくれるんだな、で? なんで唯人の鞄を漁っていた」

「ち、ちょっとこっちに来てください」


 俺は三好さんに腕を取られて、唯人の入っていったトイレから死角となる柱の後ろに連れ込まれた。


 柱側に押しやられ、俺の左右にダンッと手を付いた三好さんが俺を見つめる。身長がそう変わらないからちょっと格好悪い。


 これが壁ドンというやつか、初めての体験だ。それにしても三好さんはずいぶん焦っているな。


「な、……内緒にしてくれませんか?」

「何を?」

「だから、私が唯人先輩の飲み終わったペットボトルを回収しようとしていたことです」

「ペットボトル? どうして捨ててしまうゴミを回収しようと思ったんだ?」


 俺は三好さんがペンケースを確認しに来たのではないかと警戒していたが、三好さんはこっち側じゃない。ヒロインの一人であるのだから、すでに唯人へ好意を持っていてもおかしくないのだ。もしかして一目惚れか? 唯人も隅に置けないな。


 俺の勘違いではあったものの、この時点で三好さんが唯人に好意を持っていることが判明したのは大きい。サラルートのときに参考にさせてもらおう。


「ほら、私ってこの国じゃ恋愛弱者じゃないですか。好きな人に告白するなんてできないから、せめて先輩のあれが欲しかったんです」

「あれって何?」

「い、いい言わせないでください! ……とにかく、内緒にしてもらえませんか? 何でもいうこと聞きますので、お願いします!」


 俺は佐久間悠一にぶち切れたい以下略。とにかく、俺はこのゲームの一部設定が気に入らない。


 あの野郎、海外の描写を書くのが面倒だからって日本国を鎖国しやがった。一介の高校生が安々と手に入る外国の情報なんて規制のかかった政治情勢程度。この国のことは勝手に耳に入ってくる。なのに、流行なんかは国境を気にせずバンバン入って来るから不思議なものだ。設定が杜撰すぎる。鎖国するんだったらそれの説明も書いておけよ。


 今の日本国に純粋な外国人は一パーセントもいないし、ハーフというだけでとてつもなくレアである。


 レアではあるが外国の人がこの国に滞在していることをいいように思わない人もいる。普通に受け入れている人がほとんどなのだが、一部のマニアには滅多に見ない外国の少年少女を偶像として崇めようとする傾向がある。三好さんの後ろに着いてきていた男子生徒たちがいい例だ、そんな人たちを嫌う人は少なくない。


 おそらくあの野郎は壁のある恋愛ほど熱い展開に持っていけると踏んで設定をこのままにしたのだろう。本気で藁人形に釘を打ちたくなってきた。


「分かった、誰にも言わないし、対価を求めもしない。それで不安があるというのだったら、いつか、ちょっとしたお願いでも聞いてくれると助かる」

「あ、ありがとうございます! それじゃあ、私はこれで失礼します。霜月先輩」


 見えないはずの尻尾を子犬のように振りながら駆けていく三好さんの手にはちゃっかり空のペットボトルが握られていた。


 三好さんが姿を消し、しばらくしてトイレから出てきた唯人は自分の鞄のファスナーが開いていることに気付いた。


「ああ、それか、ペットボトルがはみ出てたから捨てておいたんだ。ファスナーを締め忘れたのは悪いな」

「そういうことなら別に構わないよ。ありがとな、代わりに捨ててくれて」


 俺は思い出したふりをして自分の鞄から一枚の紙を取りだす。これは何でもない連絡事項がかかれた紙だが、唯人が転校してくる前に配布されたものだから分かるはずもない。


「唯人、悪いんだけど、ペンを貸してくれないか? 今日提出なの忘れてたんだけど名前を書いてなくて」

「いいぞ、ちょっと待っててな……、あれ? ないな……」

「教室に忘れてきたんじゃないか? ペンは心春にでも借りるから、唯人は取りに行ってこいよ」

「だな、じゃないと宿題もできないし、遅かったら帰っててもいいから」

 唯人は階段を下りて二年生のフロアに向かった。それを見届け、俺は大きく息を吐き出す。

「はあ……これでよし!」


 心春を迎えに行くから、いらない手元の紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放った。







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