23校内案内シナリオ
いつの間にか何事もなかったように振舞いだした唯人にやせ我慢をしている様子は見られない。いつもの気楽な様子の唯人だ。
校内を案内するため、俺と聖羅が先導して一階から歩いていく。
「一階って職員室と保健室、後はよく分からない先生だけの応接室と体育館に繋がる通用口があるくらいだからあまり覚えようとしなくてもいいかな、職員室はクラス委員になったときに用があるくらいで、……あ、でもここの職員室って校庭を監視できる場所だからふざけているとすぐに怒られるんだよ」
「体育館には二階からも行けるから、保健室の利用法が分かればいいし、心春が保健委員だから詳しくは心春に聞いてくれ」
「中に先生とか誰もいなかったらクラスの保健委員に声をかけてね、無理そうだったら他クラスでもいいから」
学校案内と言っても、重要な場所は後半にとってある。保健室や別にシナリオに関係のない場所はどれだけ懸命に説明しても唯人が使用することはない。
どれだけ懸命に案内したところで重要なのはこの後に紹介する家庭科室と図書室だけなのだから。
二階に上がり、二年のフロアには理科室と放送室、あとは部室に使われる教室が並んでいる。特に説明することもなく、どこにあるかだけ確認して俺たちは三階に進んだ。
三階は三年のフロア、演劇部の部室がある階だが、メインは家庭科室だ。
「ここは家庭科室で、授業はだいたいここでやるよ。あたしは料理部だから部活もここでやっているんだ」
聖羅の見た目はごてごてのギャルでありながら、料理上手な女子なのだ。
心春や俺も全く料理ができないわけではないのだが、聖羅の作る料理は店で出せるレベル。家庭料理に関しては栄養管理も気にするほど。
「今活動しているのは料理部じゃないのか?」
「あれは被服部の方だね、同じ部だけど分野が違うのよ」
「同じ部? だったら一緒に活動しないのか?」
料理と被服が上手く繋がっていない唯人は首を捻っていた。俺も最初は一緒に活動していないことに疑問を覚えたものだ。
「聖羅、正式名称を教えてやらないと分からないぞ」
「ちょっとお硬い部活名だからあまり好きじゃないんだけど、料理部とか、被服部、他に様式美部とかもろもろ合わせて、『総合家庭科部』あたしは料理班の班長だから、肩書としては『総合家庭科部料理班班長』となるわけよ」
「うわ……、なにそれ、お硬すぎやしませんか? まとめて家庭科部でいいじゃん」
そうは言っても、昔からこの名前で伝統ある部活だから先生は簡単に変えたくないらしい。なんでも有名なデザイナーが名付けたという記録があるそうな。校則は自由と謳っているにも関わらずこういうところで頑固だ。
この学校は二校が合併してできた高校のため、各々の伝統が一部持越しされているわけでこんなことになっている。
俺にとっても、おそらく唯人にとってもどうでもいい情報ではあるが、こんなことでも説明しないと、家庭科部なんて他に説明することが無くて物寂しくなってしまう。
「唯人には今度、あたしの手料理を振舞ってあげるから遊びに来なよ。心春と一颯も久々に食べたくならない? あたしの料理」
「いいの!? 聖羅ちゃんの料理って本当においしいから楽しみ」
「そんなに美味しいのか、なら、オレもご相伴にあずかろうかな」
そんなこんなで三階の案内は終了し、次に四階の案内に移る。
四階は一年のフロアになっていて、毎年一年が四階まで階段を上るのが億劫と愚痴を漏らす。
今までと同じ通り、簡単に案内を済ませていると、聖羅が友達と会ってちょっと話していたり、演劇部の一年が資材を取りに自身の教室に戻っていたから軽く挨拶をしていると、いつの間にか唯人が姿を消していた。
まあ、どこに行ったのかは分かっているのだけども、俺は知らないふりをして、唯人を探しに動く。
「聖羅は教室の方を探してくれ、いなかったらそのまま一階の方へ。俺たちはこの階を探していなかったら上の方を探す」
「分かったよ、あたしは忘れ物もあったし、ちょうどいいね」
聖羅を上に行かせてはいけない。一周目の俺がこの時にどう動いていたかは思い出せないが、図書室まで探しに行った覚えはない。このまま解散した可能性が高いが、安全策として聖羅を下の階へ探しに行かせた。
「一颯くん、これで唯人くんは小鳥遊先輩と出会っているんだよね?」
「そのはずだ。ここで、チラシ配りの先輩が図書委員の小鳥遊先輩だということに気づく」
そこでどんな会話が行われているのか気になるところだが、残念ながら俺の介入する余地はない。そもそも、現在確認できるシナリオで唯人とヒロインとの会話の中で俺が混ざっている箇所なんてほぼゼロに等しい。あるとすれば聖羅と一緒にいる時くらいか。
俺と心春は上の階にある図書室を探した振りをして、二階の教室で聖羅と合流した。聖羅からは唯人を見つけられなかったと報告を受け、俺たちも唯人の姿は見えなかったと報告する。
言葉遊びのようだが、嘘はついていない。
「うーん、あたしはそろそろ部屋でのんびりしたいし、解散でいいでしょ? さすがの唯人も学校から寮までで迷子にはならないし」
「ああ、それでいいと思うよ。先に寮に帰っている可能性もあるしね」
それじゃあねと手を振りながら去っていく聖羅を見送り、俺たちは聖羅とは逆方向に歩き出す。
この時期の陽はまだ高く、制服のブレザーが鬱陶しく思わせるほどに汗ばんでシャツが肌に引っ付く。気温の高さはすっかり夏が近づいているのだと感じさせた。七月に入れば夏服に衣替えになる。それまでの辛抱なのだが、どうしても我慢できずに鞄から水筒を取り出して口を付ける。
「あ、私にも頂戴、さっき切らしちゃったから」
「ああ、いいぞ、残りちょっとだし、全部飲んでもいいから」
真上に仰いで水を飲み干した心春から水筒を受け取り、また自宅へ続く道を歩み始める。
「明日はどんなイベントがあるの?」
「そうだな――」
次の日のことを心春と話すのが楽しい。あいつになんだかんだ振り回されてはいるものの、これからどうしてやろうかと、どう動けば上手くいきそうかと、俺たちにしか分からない会議をするこの時間がとても愉快でこれからの楽しみになるだろう。




