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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
六章 サラルート攻略シナリオ
181/226

181サラルート プロローグ

 俺は家庭科室にでも聖羅と城戸先輩を呼び、サラと付き合い始めたことを報告しようと思っていた。


 そのためにまずは聖羅に電話で伝えようと思っていたら、予測されていたのか先に言いたいことをずばり言い当てられた。


『そっか、……そっか、もう選んだんだね、おめでとう。サラちゃんと末永く幸せにね』

「どうして俺がサラを選んだって分かったんだ? そもそもサラの事が好きだと気付いたのはこの前だぞ」

『あんたが今までにあたしたちに見せてきた態度をビデオに録画すればよかったね。あそこまで分かりやすくサラちゃんを意識していたら、あたしじゃなくても分かるよ。……はあ、残念だけどさ、一颯は一番の正解を導き出したよ』

「正解とか、そういうのは違うよ。俺はサラを選んだ。ただ、それだけ。……そんなに分かりやすかったか?」

『まあ、あれだけ唯人に嫉妬の眼差しを送っていればね。サラちゃんも終わり際は唯人のことなんて眼中になかったし、……あーあ、心春が可哀そう』

「おい、そこで心春の名前を出すな。あれだけ後回しにした手前、罪悪感が全くないわけじゃないんだから」


 心春は自分の部屋にいる。頬を何度も叩かれる覚悟をしてサラと付き合ったことを伝えると、少し辛そうではあったが、いつもの笑顔を見せてくれて「おめでとう」と、祝福してくれた。


 俺が中途半端な覚悟をしていたばかりに、心春を悲しませてしまった。だけど、もういままでみたいに胸を貸すことが出来ない。これからは義兄妹として、ぽんと頭に手を置くだけ。


 それを心春も理解しているみたいで、涙は見せなかった。


 代わりにこんな会話をした。


「一度も攻めなかった私じゃ勝てるはずもなかったんだよ。でもね、一颯くん。今まで通り一颯くんの傍にいることはやめないから、出来ることがあったらお手伝いするからね」

「ありがとう。正直女の子の気持ちなんて全然理解できていないんだ。そこら辺、教えてくれるとありがたい」

「女の子の気持ちなんて理解できない方がいいよ。少しくらいミステリアスな部分がないと、男の子は見てくれないから」


 ……こんな会話をして、俺たちはいつも通りの日常に戻ったのだ。


 このことを聖羅に話すと、うんうんと相槌を打ちながら心春のことを褒めていた。


『悲しい現実を乗り越えて、強くなったね、心春』

「いや、ホント俺が悪かったから! 生傷えぐるのやめて?」


 そうとう心春に肩入れをしていたらしく、今後考えていた作戦とやらも全て水泡と化したそうだ。だからその恨みを当の本人である俺にぶつけたいみたいだ。


 花恋さんとも話をしたのだが、やっぱり予想されていたみたいで、こちらは笑ってはくれなかった。


「元から心春に勝てるとは思っていなかったわ。そこに新たなライバル登場となっては、わたくしの割り入る余地なんてどこにもないもの。一か八かに出ようか舞衣子と相談していたけども、全部手遅れだったわね」


 城戸先輩も聖羅も、すでに結果が見えた以上は事を急いていたようで、唯人がサラに告白したのがそうだ。そうするよう聖羅が誘導した。


 これからどんな作戦が待っていたのか気になるところだが、どんな誘惑があっても俺の心は揺るがない。


『心春と二階堂先輩ではなく、サラちゃんを選ぶとか、学校でどんな噂が流れるかねぇ。親衛隊も五月蠅く付きまとってくるだろうし、試練はこれからじゃないの?』

「それくらいどうってことはない。というか、もう話はつけてある。隊長が誰か分かっているしね、付き合い始めた次の日には説得して解散の運びとなったよ」

「はっや! 情報通のあたしの耳にすら届いてないんだけど」


 前の俺が親衛隊の隊長を見つけ出し、説得したことが活きた。隊長の目の届かない所で好き勝手やってくれた親衛隊の現状を密告し、いつかは潰してやろうと溜めていた証拠を山のように見せてやれば、元は善意で結成した隊長は謝罪と共に解散の号令を出してくれた。


 しばらくは個人的にサラに付きまとう輩が出てくるだろうから、放課後は常に一緒にいて撃退してあげないといけない。


「あ、サラがみんなに迷惑をかけたことを謝りたいみたいだからさ、明日の昼休みは食堂に集合で。昼飯なら俺がおごってやる」

『マジで? それは助かるよ、最近弁当に飽きてきたから丁度いいや』

「まあ、そういうわけで、サラのことは広い心で歓迎してやってくれ」

『あーい、元から恨みなんてないけどね、あたしの心はデザートによってもっと広くなる』

「はいはい、フルーツゼリーでも奢ってやるから、……ありがとうな、二人を慰めてくれたのって、聖羅だろ?」

『何のことやら? それだったらあたしだけじゃなくて城戸先輩にも感謝してあげないと。あたしに二階堂先輩を慰めるなんて無理だからね? あ、デザートはパフェで』

「……まあ、それくらいなら」


 機嫌を悪くして出て行った花恋さんを宥めたのは紛れもなく城戸先輩で、それは俺にも聖羅にも無理な話だ。


 何かを選ぶということは、何かを選ばないということでもあり、それで生み出される結果を放置することなんてできない。


 俺のやらかした尻拭いをしてくれた聖羅と城戸先輩には昼食のおごり程度では返せないほどの恩が出来てしまった。


 聖羅との通話を終え、続いて城戸先輩に電話を掛ける。何を言われるのか想像も付かないうちに通話は繋がり、第一声で大きなため息を吐かれた。


『はあー……、私の花恋が元気ないんだけど、どうしてくれんの?』

「いや、その……俺にはどうしようもないといいますか……えっと」

『自分の見ていない所で好きな男が別の女とくっ付いていて、それで女の恋愛がきれいに気持ちの整理がつく訳ないでしょう? あんたにはまだ次に妹という手があるけど、花恋は三番手、……分かる?』

「あの、そんな別れても他の女がいるみたいなこと言わないでくださいよ。俺はサラ一筋です」


 納得がいっていないのか、それから細かく恨み言を並べられ、それに俺は耐え続けた。


 しばらくしてとりあえず満足したのか普段の城戸先輩に戻り、軽い雑談に耽る。


『霜月兄、私ね、ちょっと気になっていることがあるのよ』

「何ですか?」

『あんたさ、本当に主人公じゃないの? 女の子三人に言い寄られて、そのうちの一人を選択する。ほら、まさにゲームの主人公じゃない』


 今の自分の立ち位置がまさにゲームの主人公みたいだ。言われて初めて自覚したが、では唯人も含め主人公が二人? いや、そんなわけはない。それとも二つのゲームが一つに合併しているのか?


『霜月兄の話を聞いて私もそれなりにギャルゲーについて調べてみたけど、……あんた、もう手を出したの? だってこれってギャルゲーでしょ? ちゃんとエロのつくギャルゲーでしょ?』

「突然そっちに話を振らないでください。俺は健全に過ごしてます。……まあ、サラが求めればその限りではないですけど」

『わお! やっぱり男子ね、やるならやるで準備は怠らないように、彼女に負担はかけないようにね』


 年下の男子相手にする話ではないと思うのだが、……城戸先輩はこういうのに慣れているのか? たぶん年下としてからかわれているだけだ。


そんなことより! 話を戻して……。


「俺の主人公設定がまだ生きていたとして、何か意味があるんですかね」

『そりゃあるでしょ。だって主人公よ? ヒロインは三人いるんだから、霜月兄はまず一人を攻略したとも捉えられる』

「…………」

『今のあなたは恋人を大切になさい。それが選んだ男としての義務よ』


 俺はこのサラルート限りで記憶を無くしてしまうことを伝えるべきか悩んだ。今話していることも、心春からの祝福の言葉さえも記憶から消去されることを伝えれば、花恋さんは笑顔を見せてくれるのかと。


 ……いいや、ありえない。余計に傷つけてしまうだけだ。


「城戸先輩、俺、今の恋を楽しみますよ。終わりがすぐ目の前にある短い恋愛ですけど、その間に一生分は楽しんでやりますから」

『そうしなさいな、妹と花恋を失恋させたのだから、せめてあなたが楽しまなくちゃ意味がないわよ。選択したことの重要さを噛み締めて、誰よりも幸福を享受する義務を果たしなさい』

「はい、必ず」


 城戸先輩との通話はこれだけだった。


 これからも演劇部の部員として花恋さんと城戸先輩とは顔を合わせる。その時に俺が未練を残しているような顔をすれば、きっと二人を迷わせてしまうだろう。


 残酷なことかもしれない。だけど俺に出来ることは、サラとの付き合いで手に入れた幸福を見せつけてあげることなのかもしれない。







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