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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
一章 準備 共通シナリオ
18/226

18チュートリアル 選択肢……1

 授業終わりから次の授業までの休み時間はクラスのみなに譲り、唯人はイヤな顔一つせず質問に答えていった。


 そして、念願の昼休み。俺たちは唯人を囲うように席をくっ付け、後からやってきた心春も合流すれば誰も近寄れない要塞が完成した。


「オレはこれから尋問にかけられるのか?」

「これまでの休み時間は何もせずに待っていたからな、やっと俺たちの出番だと思ったら唯人を囲いたくなったのさ」


 周りも俺たちがこれまで引いていたことを分かってくれていたから誰も間に割って入ってこない。これはゲームの影響かもしれないけども今はありがたい。


「それじゃあ、俺たちの自己紹介といこうか、まずは正体が明かされている聖羅から」

「正体って何さ! あたしはいつでもどこでもこの姿よ。……まあ、昨日も教えたけど、神楽坂聖羅といいまーす、気軽に聖羅でもギャル長とでも呼んでね」

「昨日はギャル巫女って言ってなかったっけ? どちらにせよ、オレは聖羅と呼ばせてもらうよ」


 既に前の週で知っていることだが、唯人と聖羅は主人公、ヒロインの関係ということもあって相性はピッタリだ。唯人の寮でのパートナー的な立ち位置だった聖羅は今回も上手くやってくれそうだ。


「次いで、俺は霜月一颯、実家通いだから寮で会うことはなかなかないだろうが、今度部屋に招待してくれよ」

「ああ、今は段ボールだらけだから、ある程度片付いたら呼ばせてもらうよ」

「片付けを手伝ってもいいぞ」

「マジで? それは助かる」


 前も俺が手伝ったからな。情報収集のためにも潜入捜査は大事なことだ。


 そして、最後にうずうずとして待機していた心春が大きく右手を挙げて元気よく自己紹介をする。


「同じく心春でーす! よろしく唯人くん」

「ああ、よろしく、……同じくって何?」


 これは心春のいつものあいさつで、俺たちが兄妹だって言っても似ていないし、だったら兄妹じゃなくてみなと同じ友達として見て欲しいという考えらしい。大抵すぐにばらしてしまうから初見さんをちょっとからかう程度にしか効果を成していないけどもね。


 唯人の質問に笑って誤魔化す心春はただの陽気でお転婆な子、それゆえに愛くるしくてたまらない童心を持っている。


「ええと、一颯と心春……ちゃんは弁当が同じだけど、どういう関係なの?」

「どんな関係って、なあ、心春?」

「うん、見ての通りの関係だよ」


 前にこんなことをやったかなんて覚えてないけど、面白そうだから心春のいたずらに乗ってみる。


 中学は男子校だったという唯人にはぐいぐい来る聖羅や心春に初めは戸惑いを見せるのだが、すぐに慣れるし性別なんて取っ払うように関係なくなってしまう。


「恋人、とか……?」

「唯人、だまされちゃだめ、二人は兄妹なんだから」

「え? 全然似てない……」

「それはちょっと失礼じゃないかな? 唯人くん」

「あ、悪い」

「まあ、義理だから似てないのも当然だけどな」

「おいこら」

「あっはっはっは!」


 心春と息の合った笑い声で誤魔化してやると、聖羅も唯人も一緒に笑ってくれた。だから俺はこのネタが嫌いじゃない。


 だが、主役はあくまで唯人。俺たちのことはさっさと切り上げてこちらから質問を浴びせる。


 どこから転校してきたのか、何かスポーツはやっていたのか、好きなアーティストはいるか、……など、他にも食事をしながらいろいろ聞いてみるのだが。


「前は埼玉エリアの高校に通っていたんだけど、ちょっとした事情で転校することになったんだ。スポーツはやってない、自主的に鍛えることはあるけどね」


 ここまでは自由に質問してよかったことだ。俺がこれからする質問はシナリオに書かれていた“選択肢”のある質問。


 チュートリアルのようなもので、これから出てくる四つの選択肢のうち、どれを選んでもストーリーに影響しない。


 ただ、俺にとってもチュートリアルなものだから、素直にシナリオに沿う。


「唯人、すでにだれか気になったやつはいたか?」

「え? 気になった人……」


 ……よし! 上手くいった。


 唯人が顎に指を添えて考えているときは選択肢が発生した合図だ。そして、俺が投げたものに対して選択肢が発生した場合、唯人の反応に何かしらのアクションを起こさなくてはならない。


 ちなみにここでの選択肢は「月宮陽菜」「神楽坂聖羅」「ハーフの女の子」「チラシ配りの先輩」の四つ。


 後半二つは間違いなく三好サラと小鳥遊真奈美の二人のことだ。


 これまでは順調なのだが、唯人がどのようなアクションを取るか分からないし、俺のアドリブ力が試される。


「…………」


 ……もしかして、もう何か、アクションを起こしたのか? え? 終わったの!?


 どうする? どう動けばいい……やばい、最初から躓いて何しているんだ。唯人に何か変化はあったか? 俺からしたら一切動いたようには見えなかったが。


 俺が視線であたふたしていると、心春が俺に何か気付いてほしそうに目元を指で掻いていた。


 目元? 唯人の目に何か……。あ、そうか! 目線か!


「唯人よ、男は視線と思考は同じものなのだよ。もしかして、すでに何かあった後かな?」

「そ、そんな、月宮さんは昨日寮まで案内をしてくれただけだよ」

「俺は何も言ってないぞ。さっそく手を出すとはなかなかのやり手だな」

「だから何もないって!」


 聖羅と心春には聞こえないよう唯人の耳元で話す粋な計らいに想像通りの戸惑いを見せてくれた。


 心春ありがとう、と下手なウインクを一つ贈ると、鏡映しに、しかして完璧なウインクを返してくれた。


 それにしても、最初にしては難しすぎはしませんかね? 今回は月宮さんが教室にいてくれたからよかったものの、三好さんや小鳥遊さんが選択肢で選ばれたら気付ける自信がないんだけど。チュートリアルだから最悪失敗しても影響は出ないだろうが、これで簡単な方だと言われたらちょっと今後は厳しいかもしれない。


 この自己紹介イベントではこれ以上の選択肢は出ないから、残りの時間を気楽に過ごし、唯人とは気の知れた仲になることが出来た。








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