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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
六章 サラルート攻略シナリオ
170/226

170用事

 愛陽の正体を暴かせようとしているのならば、最低限シナリオとして成立するだけのヒントを提示しなければならない。


 しかしヒントを出そうにも俺が知っている愛陽より幼馴染として過ごしてきたサラの方が愛陽に詳しいのだ。


 これは誤算だった。まさかサラにそんな過去があるだなんて想像もしていなかったのだ。


 しかしここまで来て引き返すことなんてできない。手探りでサラの知る愛陽の姿に近づけなくては、いずれ偽物だと気付かれてしまうかもしれない。


 ならばグランドルートで愛陽の立ち位置はどうなっているのかを予想してみるか。


 確定していることは、愛陽がメインヒロインである月宮さんと何かしらの関係があるということ。


 学生名簿を探しても愛陽の名前がないことから、俺が主人公だったときと違って、こちら側では学校に通っていない、もしくは別の学校に在籍している可能性がある。だがそれをサラは何も知らない以上、愛陽は幻の存在としてこの学校に彷徨っていると考えた方がしっくりきてしまう。


 如何せん情報があまりにも少ない愛陽についてこれ以上のことは推測が難しい。結局のところグランドルートに突入しない限り答えは分からないのだ。


 今はサラのことについて聖羅と城戸先輩が内密に探ってくれている。その間、俺は一人屋上へと足を運んでいた。


「よう、月宮さん。こんな所で会うとは珍しいな」

「うん? 一颯君だ、心春ちゃんと一緒じゃないんだね?」

「まあな、気分転換にちょっと寄っただけだからな」


 さりげなく月宮さんの隣に腰かける。


 相変わらずぼうっと空を見上げる月宮さんは今も透明な球体が見えているのだろうか?


「月宮さんにちょっと聞きたいんだけど、愛陽という名前に聞き覚えはないか?」


 結構思い切った作戦だった。心春と花恋さんに相談し、いっそ本人に聞いてみればどうだろうかという、最初は没にした案を拾って採用した。


「うーん……ないと思うな。一颯君はその人を探しているの?」

「まあ、探していると言えばそうだけど、月宮さんが知らないなら気にしなくていいよ」

「そう、分かった。でも何か分かったら教えるね」

「ありがとう。よろしく頼む」


 大して期待もしていない約束を交わし、用は済んだからこの場を離れようと立ち上がる。


 月宮さんは特に反応もせず、空から目を離さない。


 微動だにしない彼女から前回と違う内容が聞けないだろうかと声をかけてみる。


「空に、何かあるのか?」

「あるよ、小さくて透明な球体が一つ、ずっとふよふよ浮いているの」

「……小さくて?」


 今までは大きくて透明な球体だったのに、今回は小さな球体。人によって大きさの裁定は分かれるだろうが、あの球体が見えるのは月宮さんだけ。だから答えが変わることも無いはずなのに、確かに月宮さんは今、球体は小さいと答えた。


 月宮さんが二本の指で輪っかを作り、顔から少し離した位置で覗き込む。俺も真似して覗いてみたが、なるほど、球体が小さいというのに納得だ。この輪っかに収まる程度ならお世辞にも大きいとは言えない。


 でもどうして小さくなった? 球体は何を意味しているのか未だに不明だし、月宮さんにだけ見える理由も分からない。だが、今は気にしなくてもいいイベントだ。これはグランドルートに入ってからのお楽しみと考えておこう。イヤでも最後には正体を明かしてくれるはずだ。


 そういえば……。


「どうして月宮さんはその球体を見ているんだ? 俺には見えないけど、何か気になるのか?」

「うん、あれは……なんだろう? ちゃんと見てあげないといけない気がするんだ」


 月宮さん自身もどうして屋上で球体を見ているのか、はっきりとした理由はないらしい。見ていることそのものに理由があるのか、はたまたすでにイベントは始まっているのか。


 なんにせよ、このイベントに関わるのは俺じゃない。唯人が自然とここへ赴いて、いずれ謎を解明してくれるだろう。


「それじゃあ、俺は戻るよ」

「そういえば、最近心春ちゃんの元気がなかったから、たまには二人でデートでもしてみたら?」

「月宮さんもそういう冗談を言うんだな」

「結構本気だったんだけど? でも私はこれでも普通の女の子だと思っているから、冗談だって言うよ」

「分かってる。月宮さんを変人だなんて思ったことはないさ」


 俺たち義兄妹をカップルに見立てたからかいも、月宮さんが言うと本気だと勘違いしそうだ。


 校舎内へ戻り、俺はさっそく心春を探しに教室へと急いだ。


 俺の中途半端な態度が心春と花恋さんを心配させてしまったから、今日はちゃんと全部を話そう。


 俺がここにいる経緯を知ってもらって、同情を誘うやり方かもしれないけれど、これ以上不安を煽るよりは皆で苦労を共有しよう。


 聖羅たちにはもう教えたことを共有すべきか悩んだが、協力を求めるのであれば互いに食い違いの起こらないようまとめるべきだと判断する。


 最近は何一つ進展がなかったから、そろそろ新しい作戦で派手なイベントを起こしたいと思う。


 現在進行させているのは、文化祭の舞台だ。


 愛陽が姿を現さないと謎の解明もはかどらないから、唯人の前に現れるためにも舞台というのは最適な状況を作れる。


 問題は俺が愛陽として舞台に立たなくてはならないということと、サラが愛陽を見て取り乱さないよう事前に忠告しておかないといけないな。


 どこまで裏に手を回しておくか、工作を徹底して騙しきらないと勝ち目はない。


 そんなことを考えていれば、ちょうど目の前からサラが歩いてきた。少し足取りがふらついていて危なっかしい。


 放課後の学校でサラは何をしていたのだろうか? 唯人なら先に聖羅と寮へと帰っているから校内にはいない。


 ……俺はサラが唯人の傍にいないことに猜疑心を向けている。四六時中唯人を探しているわけではないのに、他にやることだってあるはずなのに、それでも疑ってしまうのだ。


 それでほっとしている。サラがちゃんと他の事にも目を向けていることに安心して、いつもより柔らかい口調で声をかけた。


「やあ、サラ、今日は他に用事かな?」

「あ、一颯先輩。……そうですね、ちょっと用事がありました」


 微妙な間に違和感を覚えたが、サラの言葉が嘘には思えない。互いにこれ以上追及することもなく、サラは珍しくこのまま通り過ぎようとするのを引き留める。


「サラ、ちょっと話があるんだけどいいか?」

「いいですよ。ちょうど用事も終わったところです。そうだ、消費期限が近付いている生菓子があるんで私の部屋で話しませんか?」

「え? お菓子? いやいや、いいのか?」


 それは俺を呼んでいいのかと聞いたつもりだったが、サラは特段気にした様子はない。


「構いませんよ。それとも一颯先輩は後輩の女の子の部屋で興奮しちゃうんですか?」

「しないから! 部屋に唯人以外の男を入れて問題ないのかと思っただけだ」


 あと消費期限が近いって処理を体よく任されたということかよ。


「いまさら……って言っても今の一颯先輩ではないんですよね。二人の夜にあんなことまでしたのに忘れられているって、ちょっとショックです」

「反応に困るからもう少しまともな思い出を例に挙げてくれ」

「冗談です。今度デートしてあげますから許してください」

「いや、なんでそれで許されると思ってんだ? 俺たちの立場考えろよ」


 だけど、それもいいなと思ってしまう俺がいた。サラは粉物が好物だったから、たこ焼きとかお好み焼きとか、誘ってあげたら喜ぶ顔が見られるかもしれないな。


「じゃあ、行きますよ。……あ、それと、明日は祝日で休みですけど何か予定は入っていますか?」

「ん? いや、何もないけど」

「そうですか、では寮へ帰りましょう」

「? まあいいか」


 急に元気を見せるサラの後ろに着いていく。仕方ない、今日の部活は勝手ながら休ませてもらおう。そのために携帯を取り出すと、瞬時に詰め寄ってきたサラになぜか取り上げられた。


「そんなの後でいいじゃないですか。せっかくのデートでスマホを見るなんて女心を分かってないですよ」


 どうやら先ほどの冗談をこれで清算するつもりらしい。


 取り上げられてしまったからには仕方ない。後で返してもらった時に花恋さんに謝罪しよう。こちらの事情を説明すれば納得してくれるはずだ。







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