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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
六章 サラルート攻略シナリオ
162/226

162占い師の予言?

 ボクはいま、どこにいるでしょう?


 正解は……屋上です!


「愛陽ちゃん、あまりはしゃぐと落ちちゃうよ、気を付けてね」


 女子用の制服に藍色のローブを羽織ったボクは風のない穏やかな陽気に感謝しつつ目の前のフェンスをしっかり掴む。


「分かっているのじゃ、ちゃんと服の下に命綱も着けているから、最悪落ちても大丈夫……のはずじゃ」


 服の下から伸びたロープが一つ下の階から繋がっていて、このままだと中庭のマットに届く直前までの長さに調整されているから、ぎりぎりのタイミングで外す。


「こっちの心臓に悪いからわざと落ちないでね?」


 ボクは屋上に立っているけども、正しくは屋上フェンスの外側、後ろを向いて足元を見れば、中庭に巨大な衝撃吸収マットが敷かれていて、柱に寄りかかるように花恋さんがこちらを見上げていた。


 ボクとサラは自殺を強制的に封じられている。怪我をしづらいし大怪我をしたとしてもすぐに治ってしまうことをサラが確認済みだからこその作戦。


 今日は日曜日ということもあって部活のないし、先生もいない。勝手に忍び込んでこのようなセットをしてもばれないのだ。たぶん。


 フェンス内にいる心春が腕時計で今の時間を確認する。


「そろそろ時間だから私は部長の元へ行くね、助けに入れないから、怪我だけは注意してね? 絶対だよ」

「分かっているのじゃ、絶対に、失敗はしないのじゃ」


 この後の手順を完璧に覚えている。大丈夫、うまくできる。


 心春が屋上を去り、中庭で花恋さんと合流して姿を隠す。それから約五分後、上履きの音を廊下に響かせながら屋上に姿を現したのは一組の男女。


「屋上なんて勝手に入っていいのか?」

「ばれなきゃ大丈夫です。それに今日は誰もいませんから」


 ボクが手紙で呼び出した唯人は大きな身体を懸命に曲げて窓から屋上へと侵入してくる。その後ろから銀髪の少女、サラが唯人の手を借りながら屋上へと足を踏み入れると、二人は辺りを見回した。


 窓から入って右手側のフェンスにボクはいる。隠れるような場所はなく、だからすぐに二人とは目が合った。


 唯人はボクが手紙を出した人物だと確信してこちらに近づいて来る。


「君がオレたちを呼び出した……って! なんで外側にいるの! 早くこっちに戻ってこい!」


 唯人はボクの方へ駆け寄ってくるが、手を差し出しはしない。見知らぬ相手にはまだそれが出来ないことを知っているから、それを利用した。


 そんな唯人の隣でサラは驚愕した表情で駆け寄ってくる。……なんで?


「どうしてそんな所にいるんですか! 早く戻ってきてください! 危ないです!」


 逆にサラは切羽詰まった様子でフェンスの隙間から手を伸ばしてボクの服を掴もうとしている。意外だ、ボクは敵だと分かっているはずなのに手を差し伸べてくれるとは思ってもみなかった。


 なんとかサラがボクの服を指先で掴むと、それ以上動くことは出来なくなった。唯人がサラの後ろであわあわとしているが、そんなことは無視して本題に移る。


「ボクの手紙を無視しないでくれてありがとうなのじゃ!」

「そんなの当たり前でしょう! ああ、お願いだから落ちないでください」


 サラのここまで必死なお願いなんて白い部屋で見た時以来だ。唯人のこと以外でここまで必死になれるなんて、やっぱりサラはいい子なんだな。


「サラ、それと唯人、二人をここに呼び出したのにはちょっと勝負をしたくての、それに付き合って欲しいのじゃ」


 勝負と聞いてサラの服を掴む指がいっそう強くなった。もしかして怒っている?


 ……そう思っていたけど、違った。サラは悲しそうな顔をしていた。


 サラの必死さといい、謎が深まるばかりだが、ここは詳しく聞きたいのをぐっと我慢して、シナリオを進行する。


「勝負というのは簡単なことなのじゃ、今からボクが謎を出すから、二人にはそれを解いてもらうのじゃ、期限は今の三年生が卒業するまで、謎を解けたら報酬をあげるのじゃ」


 ボクをこの場から助け出すことが叶わないと理解した唯人がゆっくりと歩み出て質問してくる。


「オレたちに謎が解けなかったら?」

「サラに幸せになってもらうのじゃ!」

「どういうことだ? サラに幸せになってもらうって、どういうことだ?」


 唯人の疑問はもっともだ。だけどここで詳しく話してしまったら意味がない。正体不明のボクは意味不明な言葉を残してこの場を去るのが丁度いい。


 だから長いこと二人の前に姿を現しているのもあまりよくない。


 ボクはそろそろ退散することにする。


「勝負開始はボクが謎を提示した瞬間にスタートするのじゃ、頑張って謎を解くのじゃ」


 サラは俯いたままボクから指を離さない。でもその指はボクをこの場に留めておくには心持たない。


 摘ままれた程度でボクが体重を後ろに掛けるのを防ぐことはできない。ゆっくりと身体の重心は後ろへと移行する。


 慌てた様子の唯人がフェンスに駆け寄ってくるがもう遅い。


 後ろに体重を掛ける瞬間、懐からカードを一枚素早く取り出し、フェンスの隙間からねじ込むように押し入れた。


 運よくそれはサラの懸命に伸ばした手中に収まり、それをしっかり見届けたボクは“練習通り”空中へと身を躍らせた。


 そして、カードに書かれた謎を読み上げる。


「ボクはだあれ? なのじゃ!」


 反逆の開始。ボクは二人に向かってニヤリと不敵な笑みを浮かべ、サラのことを見上げた。


 さあ、この矛盾した謎に答えてみろ! 答えればこの世界は崩壊するぞ!


 本来グランドルートの真相をその場で解いてしまえば、この世界はシナリオの矛盾を無視できなくなり、停止するかぶっ壊れることをあの神に確認している。


 どうする? サラ。あの自信に満ち溢れた態度を後悔しろ。


「愛陽ちゃん!」


 ボクが宙へと身を躍らせている最中、サラが声を裏返しながらも叫んだボクの名前に頭が真っ白になった。


「え? なんでボクの名前を知ってるの?」


 無重力の中では答えを見つけられなかったが、少なくとも、サラが愛陽という少女と親しい仲であることが発覚した。


 誤算にも程がある。驚愕に態勢がわずかにぶれる。


「うぷっ」


 なんとか練習通りにマットまで辿り着き、まもなくやってきた背中への衝撃に苦悶の表情を浮かべつつも耐え、二人が追いかけてきても見つからないために三人で協力して素早くこの場を離れた。







予想以上に忙しい毎日で、投稿ペースを落とさざるを得なくなりました。申し訳ないですが、それでも週に一話は更新できるよう頑張ります。

よろしければブックマークとポイント評価をしてくれたら嬉しいです。

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