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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
五章 往年の攻略シナリオ
154/226

154旧サラルート 選択肢……?

 サラとの嘘の恋人を演じて数カ月が経った。


 お互いに慣れたもので、お互いの好き嫌いや簡単に何を求めているのかくらいはなんとなくで把握するくらいには長い時間を共に過ごしてきたと思う。


 今日は心春が急に聖羅の部屋に泊まりに出かけたため、珍しく一人の夜。毎日とまではいかないが、サラとは夜に通話で軽く話す程度には恋人のフリが上手くなった。


 だから今日も携帯が着信を知らせたから、もうそんな時間かと画面を見れば、そこに表示されていたのは聖羅の名前だった。


「もしもし、聖羅? 心春に何かあったか?」


 おそらくこっちは楽しいぞと自慢の電話だろうが、万が一のことを考えて素早く通話画面を押す。


『もしもし、一颯? いま時間あいてる?』

「ああ、問題ないよ。何かあったか?」


 珍しく真面目な聖羅の声音と通話越しに風の音が聞こえる。もしかして外にいるのか? そうなると心春に聞かせたくない話か。


 聞かせたくない話だとしても、今まで大したことを心春に内緒にしたことはない。結局はすぐにばれるかどうでもよくなって終わるだけ。


 だから今回もそんな感じの話だろうと適当に聞き流すつもりだった。


『ねえ、一颯、そのままでいいの?』


 それだけが聖羅の聞きたいことだというのは分かるが、どういうつもりで聞いてきたのかよく分からない。


「質問の意味が分からない。なんの話だ?」

『いまね、心春があたしの部屋で泣いてるの。しくしく泣いて、やっとね、さっき寝付いてくれたところ。ずっと我慢してて溜め込んだのが爆発しちゃったみたい』


 話が繋がらない。聖羅はなんの話をしているんだ?


 それに心春が何か我慢している様子なんて俺の前で見せたことがない。聖羅は何か勘違いをしているのだと思ったほどだ。


『一颯はさ、ここ数カ月、あの一年生のサラちゃんとずっと恋人のフリをしているでしょ?』

「まあな、俺がいないとあいつはずっと一人だからな」

『それでさ、そのままでいいの? あんたは心春のことなんてどうでもいいの?』

「そんなわけないだろ! 俺は心春のことは大切に思ってるし、どうでもいいなんて割り切りたくもない」

『じゃあさ、選んでよ。もう心春は限界だから、今日と明日の休みの間で一颯の答えを教えて』

「……なんの答えだ?」


 いくら察しの悪い俺でも聖羅が言いたいことはなんとなく分かった。まさか心春が俺のせいで苦しんでいたとは思いたくなくて、わざわざ聖羅に問う。


『言わなきゃ分かんない?』


 呆れられて溜息を吐かれるが仕方ない。俺だって混乱しているんだ。


『もう十分でしょ? 心春か、サラちゃんか、どちらかを選びなさい。心春はちゃんと受け入れる覚悟はしているから、あんたはあんたで男らしく一つの答えを出しなさい。期限の引き延ばしは無し、どちらを選ぶかはあんたの自由』

「…………分かった。答えを出すと約束する」

『うん、そうしてあげて、……それと、これは私の勝手な願望だから聞き逃してくれるとありがたい』


 妙な言い回しをした聖羅はどこかに腰を落ち着かせるような衣擦れの音が聞こえた。


 きっと瞬くほど数はない星の夜空を見上げているのだろう。


『心春と一颯が……あたしの親友たちが幸せである結末が見たいな』

「それは、……約束できない」

『独り言だから気にしないで。だから、あんたは自分の未来を見据えて覚悟を決めなさいな。……これが最後の選択肢だよ。この選択肢に辿り着くために、心春もあんたも今日まで幼馴染でいたんでしょう?』

「それも独り言か?」

『さあ、どうかな……、何が正解かなんてあたしには分からないことだし、あたしはいわば、主人公の友人ポジション。裏で何をしているのか分からない、運命には抗えない、報われず仕舞いの立ち位置なのかもね』


 途中、聖羅の声が遠くなる。携帯を離して何かの上に置いたみたいだ。


 そうなるとこちらの声も聖羅に届きづらい。


 俺の選択によっては、もう聖羅は俺と口を利いてくれなくなるかもしれない。


 そうなる選択を取って、果たして俺は幸せなのか? 背中を引っ張られながら幸せを選ぶことなんてできるのだろうか?


 聖羅が望むような選択を取れば、たった一つを切り捨ててみなが幸せになるかもしれない。


 それだって俺にとって価値のある選択だ。どちらにせよ何かを切り捨てるのであれば、代償は小さい方が傷は深く負わずに済む。


 だから、俺は聖羅にそのことを伝えようとして、……通話を切った。


 真っ暗な画面に映る自分の顔は酷く怯えていた。


「どうして? どうしてこんな時にサラの笑顔を思い出すんだ?」


 俺が腹を割り切れば解決するのに、脳内で写真のように鮮明に映し出させるのは、サラの屈託のない満面の笑み。……そして、無理をした不器用な作り笑い。たまに見せてくれる華麗なダンスは銀髪が翻す動きまではっきり思い出せた。


 俺の数カ月は今にどのようにして繋がっている? サラはどうして俺と恋人のフリをするのに心春から許可を取った?


 一つ、その答えに辿り着いた時、俺は意味も分からず涙を流していた。


「……はは、俺はとんだ愚か者だ。まさか、……まさか心春もサラも、どっちも好きになっていたなんて」


 親も認める心春との仲。それは将来まで、俺たちが年をとって死する時までずっと続くと思っていて、それはいずれ結婚という形で収まるだろうと、当たり前のように過ごしてきた。


 だから俺は、『恋』を知っていて『恋をする』ことを知らなかったのだ。


 心春に恋をしていて、サラに恋をした。


 そんなことにも気付かないから、辿り着いたのは愚者の選択肢。どちらかを切り捨てなければならない審判の時が来てしまったのだ。


 つぶす勢いで携帯を握り、そして誰かに相談しようと電話帳を開いていた。


「……いや、ダメだ」


 俺はまた、誤った選択を取ろうとしていたと直感が働いた。


 電話帳に表示された名前は部長の名前、二階堂花恋。


 胸が痛くなるほどに心の奥で制止を掛けられた。はたしてこの直感が正解かどうかは分からないが、自分の選択を信じてみることにした。


 期限は明日の休みまで、明後日には俺の選択を告げなければならない。


 心春は自分が苦しむほどに俺のことを思ってくれていた。


 サラはそんな心春に遠慮して期限付きで俺を思ってくれている。期限が過ぎればすっぱり諦めて、心春に全てを返すことを約束したのだろう。


 俺はそんな二人の事が好きだ。贅沢な話、どちらも俺のことを好きでいてくれる。


 後は俺の覚悟一つですべてが決まり、すべてが壊れる。


 サラのためとか、心春の思いに応えるとかじゃなくて、俺の気持ち。どちらのことが好きなのか。


 今の俺の人生を左右する最後の選択肢。


 明日の期限まで、なんて……答えは絶対に出ない。だからいま、ここで決める。


 本当は分かっているはずだ。どちらが好きかなんて、分かっていて、分からないフリをしているだけなんだ。




 そうだ、俺は……。





「……サラのことが好きなんだ」







 ……本当に?

聖羅がこちら側でヒロインでないのはなんでなのか? 深い意味はありません。(伏線等もありませんので気にしないでください)

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