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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
五章 往年の攻略シナリオ
151/226

151旧サラルート 出会い

 放課後の中庭、夕方でもまだまだ昼間の太陽が照り付ける夏に日陰となる屋根のないここに来るもの好きはいないはずだった。


 誰もいないからこそ俺みたいにやってくる人もいるわけで、そんな考えを持っているのは俺だけではなかったのだ。


「一颯先輩、こんにちは。今日は暑くないですか? よかったら自販機で当たったスポーツドリンクでもどうですか? というより私じゃ飲み切れないので貰ってください」


 ベンチに座る俺の後ろから声をかけてきたのは一年生の三好サラ。


 祖父が露国人らしく、クォーターでも強く祖父の血が遺伝されているのかサラを見て生まれつき日本国人だとは誰も思わないだろう。


 肩甲骨あたりまで背中を隠す程度のストレートの銀髪は夕日に当てればきらきらと輝き、碧眼の瞳に見つめられればそれに吸い込まれてしまいそうに透き通っている。


「そういうことなら貰うよ、ありがとう」

「はい! どういたしまして!」


 校内に残り続ける理由もない生徒が目的もなしにこの中庭へやって来る意味なんてそうそうない。


 俺がここにいるのは誰もいないからというたまには一人になりたいという単純な理由。


 しかしそんな時間は五分と経たずサラが来たことによって終わりを告げ、とりあえずサラを俺の座っているベンチに座らせた。


「それで……あの」

「何度もお礼は貰ったから気にしないでいい。それにあれは見過ごすわけにもいかなかったからな。お礼なら俺より先に動いた心春にしてあげな」

「それはもちろんですけど、やっぱり保健室まで運んでくれたのは一颯先輩ですから」


 俺がサラとこうして話すきっかけとなったのは、サラが人気のない五階の女子トイレ前で制服をびしょ濡れにして倒れていたのを発見したからだ。


 演劇部の大道具を仕舞う倉庫みたいな空教室が近くにあって、小道具の確認のために足を運んだ際に心春と俺が見つけたのだ。


 何か訳ありなのは明らかで、風邪を引いているみたいに発熱していて気を失う寸前だったから急いで保健室へ運んだのだ。


 意識がほんの少しだけあったからしがみついてもらうとして、手っ取り早く持ち上げようと思ったら横向きに、お姫様抱っこで保健室へ駆け込んだのだ。


「あれからもう私をイジメてくる人はいなくなりました。一颯さんには感謝してもしきれないんです!」


 サラがびしょ濡れで倒れていたのには深い闇のような事情があった。


 意図せずとも媚びを売っているように見えてしまうサラの普段の振る舞いに、一年生の間では密かにファンクラブが設立されていた。


 それだけならよかったのだが、そのファンクラブの中には彼女持ちの男子生徒も幾人か加入していて、女子生徒ととのいざこざや修羅場を作ってしまった原因になってしまったのだ。


 サラに好きな男子を奪い取られた女子は多数存在し、嫉妬と激怒に駆られた女子複数人による陰口やいじめが横行してしまったというわけだ。


「それにあれ以降、何人かが私に話しかけてくれたんです。何もかも一颯さんが打開してくれたから、私は普通の女の子になれたと思うんです」

「おおげさだ、俺がやったことなんてファンクラブを解散させたくらいだ」


 保健室で目を覚ましたサラがいじめの内容をつらつらと話してくれて、最後に泣き出してしまっては弱ったもので、俺はその日のうちにファンクラブの会長に話をつけにいった。


 ファンクラブが大体の責任であることはサラの話とファンクラブの活動内容からはっきりしていたため、それを指摘し、サラの名前を出しつつ解散するようお願いすると会長はかなり渋った様子だったが、サラのためと思って解散の号令を出してくれた。


 穏便に済ませるとか、先生には知られたくないとか、そんな意思はサラにはなかった。


 このままいじめられたまま高校生活を送るくらいならぼっちでいる方がマシ、とサラはあからさまな作り笑いで教えてくれた。


 だから俺と心春、巻き込みで聖羅の三人で一年生間の人間関係を調べ、サラと仲良くしてくれそうな女子に、本人には内緒で話しかけたのだ。


 俺たちのことは本人に内緒でサラの友達になってあげて欲しいとこちらから懇願すると、声をかけたのが少数とはいえ、誰一人として嫌な顔はしなかった。むしろ友達になりたいという子は多く、ファンクラブやイジメている女子がいる手前、話しかけづらかったそうだ。


 俺たちの懸命な努力が実ったおかげで、今日は三人も友達が出来たようで安心した。


「今度の休みに一緒にパンケーキを作るんです。家庭科の先生と神楽坂先輩を呼んで、家庭科室で学年問わずのお茶会です。心春先輩も呼んでもいいですか?」

「ああ、時間を教えてくれればあとで伝えておくよ」


 つい先週までは笑うことも自然にできなかったサラが、いまでは次の休みに浮かれて笑顔を振りまいている。


 カウンセリングというほどではないが、彼女は毎日俺の姿を見つけては話しかけてきて楽しかったことを報告してくれる。それで上手くやっているなと感心していた。


 それにしても、彼女は気持ちよさそうに笑うな。


 心春との幼馴染の延長戦とは違う、本当の妹が出来たみたいでこっちまで嬉しくなる。心春もいれば同じことを思うだろう。


 近いうちにこうして毎日話しかけてくることも無くなるだろうが、その時はちゃんとサラが普通の高校生になれたのだと思って遠くから温かい目で見守ってあげよう。







ここからは本編です。

今後の展開に関係する、幕間ではなく、ちゃんと本編ですのでご安心ください。


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