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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
五章 往年の攻略シナリオ
138/226

138旧スタート地点

 脳内のファイルを確認すると、唯人が主人公であるシナリオが開けない。代わりに俺が主人公の時のシナリオが、破損なく修正される前の状態で残されていた。


 原因は不明だ。ただ、俺が何度も体験したことがあるのはサラの口から聞いた証言だから、一時だけ“思い出して”いる状態なのではないだろうか?


 同時に心春ルート、花恋ルート、そしてサラルートをクリアしないとこの夢から脱出することも叶わない、……たぶん、そんな気がした。


 落ち着いてシナリオを確認する。


 こちらは唯人の時と違ってシナリオが最後まではっきりしているからやりやすそうだ……が、以前言っていたサラの言葉が気になる。


 たしか、サラルートだけは難しかったはずだ。シナリオがあるにも関わらず困難を極めたみたいなことを言っていた気がする。


 攻略の順番は決まっていて、最初に心春、次に花恋さん、最後にメインヒロインのサラ。ノーマルエンドはなく、グランドルートとサラルートが兼用らしい。


 シンプルでシナリオ自体も短い。だから三人ともシナリオがちゃんとあるのかもしれない。


 ……神の野郎が俺に嘘を吐いていたのか。あいつは俺たちが生まれてから何も手を加えていないというが、ここまではっきりしたシナリオがある以上、操られていたということではないか?


 ゲーム開始前に蓋を開けたら俺が心春と義兄妹の関係になっていて、急遽唯人を主人公に変更した……、嘘じゃねえか!


 夢なのに、いつものアップデートとは関係のない頭痛に苛まれて頭を抱えた。


 それで今はゲームのどこのシナリオを進行しているのか順を追って確認していくと、なんと既に心春ルートに突入しているようだった。


 何もしなくてもノーマルエンドが無いから勝手に心春ルートに入ってくれる、そんなことをサラは言っていた。でも今までに辿ったシナリオを見てみると、ちゃんとフラグを立ててこの場にいる。


「……ああ、なるほど、サラの苦労の意味がやっと分かった。そういうことか、確かにこれは気が滅入るな」


 シナリオの短さは攻略において楽な点だが、ここに至るまで選択肢がいくつも存在する。一つでも間違えばそのルートに入れない、サラが苦労したということは、こちらも選択肢は逆が選ばれやすいのだろう。


 そして心春ルートにだけあるバッドエンド、俺と心春で心中するシナリオみたいだが、正しく心春ルートに入ったのであれば発生しないイベント。だが……たとえばサラルートの突入に失敗して中途半端に心春ルートに入るとバッドエンドに直行するらしい。


 こればかりは何が何でも避けて通りたい。絶対に気を付けよう。


 シナリオがシンプルであれば選択肢もシンプルであり、各ルートに入ればサラルート以外選択肢は発生しない。初心者入門にはちょうどいい難易度設定にしようとして高難易度になってしまった駄作か。せめてバッドエンドは無くしてほしかった。


 シナリオをぱっと流し読みしていけば、特に変なシナリオはない。いたって普通の恋愛アドベンチャーゲームだ、ただ十八歳未満御法度なのはあっちと変わらない。


 前もちらっと見たが、今回も少しだけピンク色のシナリオを覗いてみる。


「……うわあ、……生々しく一枚絵を置いておかないでくれよ」


 一瞬で閉じたとはいえ、思春期男子のこういう時の記憶力を舐めてもらっては困る。血が滾ってしまうのと同時にはっきりと三人の……、何かとは言えないがしっかり脳に焼き付いてしまった。


 どこまでがクリアしたことになるのか分からないが、その時はその時、夢だから、すべてそれで割り切るしかないだろう。ちょっと期待しているとか全然ない。ホントだ。


 よく見ると、『セリフは実際の音声を収録する』とファイルの注意書きに小さく書かれていた。


「まじかよ……、リアルを収録するのこれ? ……あれ? ちょっと待て、こっちのゲームはサラがほとんどクリアしたことになっているよな? あいつも最後までやることやったと怪しく笑っていたし、……もしかして、俺の現状、神の野郎が手を出しているのか?」


 なんのために? と考えても答えは出るはずがないから放置する。


 でもサラがすでにクリアしているにも関わらずもう一度シナリオ通り進行するのには何か意味があると思う。


 サラが辿ってきたシナリオを俺がなぞるように進めば、何か分かることがある。


 そう信じてみることにした。


 さて、既に心春ルートに入っている状態と分かっていても、確認せずにはいられない。なんせ俺はあれだけ心春と花恋さんと付き合うことを避けていたのだから、こっちではあっさり付き合っている恋人同士、にわかには信じがたいのだ。


 一人で考え事をしていたベランダから家の中に入り、俺の部屋に戻れば当たり前のように心春が寛いでいる。


 いつも通りの光景過ぎてやっぱり実感が湧かず、思わず直球に聞いてしまった。


「なあ、心春、俺たちって付き合っているんだよな?」

「え? 一颯くんはそう思ってくれていなかったの!?」


 心春の驚愕した声に俺は慌てて否定する。


「ちがうちがう! そうじゃなくて、……俺たちが付き合うなんてあまり考えてこなかったからさ、あまり実感が湧かなかなくて」

「それじゃあ、恋人らしいこと、する?」

「え? 恋人らしいこと……」


 心春が自分の隣に来るよう俺のことを手招きする。なにせこれ以上先の展開は初体験になるだろうと、想像がつかず言われるとおりに動いた。


「えへへ、それじゃあ、じっとしててね」


 次の瞬間には唇に甘い口づけをされた。先ほどまで一緒に食べていたチョコレート菓子とお土産のラムネの香り。感触を気にする間もなく、唇を離した俺たちは間近で額をくっ付けて見つめ合っていた。


「これじゃあ、ダメかな?」

「いや、ありがとう、嬉しいよ」


 お返しに今度は俺から……と思ったけど、まだヘタレは治っていない。せめてもの感謝に心春が大好きなハグを満足するまでさせてあげた。







ヒロイン視点の幕間として用意していたので、次話からの本編はヒロイン視点の話が多くなります。もちろん主人公視点もありますよ。

なんとか少ない時間の中で次章の準備が間に合いそうなので、ブックマーク、ポイント評価等でやる気にさせてくれたら嬉しいです。

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