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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
五章 往年の攻略シナリオ
130/226

130推理

 シナリオが思い通りに進行してくれないということもあって、花恋さんに説明するのにもかなり時間を要した。


 具体的な証拠を見せることが出来なくて、しかし愛陽の存在は必須だからなんとか理解してもらおうと必死に説明した。


 それで花恋さんは俺のことを信じてくれて、愛陽のことも協力してくれるみたいだ。


 そして、もはや恒例となっている花恋さんとの帰り道、今までのことを話して手を差し出せば、恥ずかし気に俺の手を握ってくれる。


「まだイメージが上手く湧かないけども、相当苦労しているみたいね?」

「何が原因なのか分からないんですけど、予想外の事ばかりで対処が追い付かないんです」


 シナリオに変化が生じている原因は不明で、どのシナリオが変更されているのかも分かっていない。先日、ゲームセンターのイベントは何も変化がなかったし、新しい選択肢についても改めて生み出すことが出来ている。


 それはシナリオ通りなのだが、ならどうして校内案内は日にちがずれてしまったのかが分からない。


「えっと、今はサラルートの最中なのよね? 特殊な設定がされている子だけど、この前までそんなことは分かっていなかったのかしら?」

「分かっていなかったというよりは気付いていませんでした。細かく確認していたわけではなかったので、もしかしたら初めから特殊キャラの設定がされていたかもしれません」

「どうしてその子だけ特別なのか気になるわね、メインヒロインでもないのに、何か主人公と大きな関りがあるのかしら?」


 特別な関係であれば月宮さんの方が大きいだろう。なにせメインヒロインだからな。


 シナリオの設定上、最後に攻略させたいとあの神が鍵を掛けていたのかもしれない、だとしてもシナリオ自体を変える意味は無いはずだ。これではまるでサラさんがメインヒロインの扱いを受けている。


 本人としては嬉しい誤算なのかもしれないが、あくまでメインヒロインは月宮さんであり、謎はまだまだ残されている。


 グランドルートがある以上、混乱するシナリオの改編はやめていただきたい。


「サラさんが特別なのは、元々別ゲームのヒロインだったからじゃないかと思っています」

「あらそうなの? でもどうして“こちらのゲーム”でもヒロインをしているのかしら?」


 花恋さんの疑問に俺は少々考え込んだ。よく考えればそんな単純なことに目を向けたことがない。


 たしかにサラさんでなくても変わりはいる。俺が主人公の時はヒロインが三人だったから、唯人が主人公になったときもヒロインは三人でよかったのではないか? どうしてわざわざサラさんを唯人のヒロインにねじ込んだのかその意図が読めない。


「考えられる理由としては、神のお気に入りだったか、シナリオボリュームの嵩増しに都合がよかったとか?」

「あとは、……あなたを苦しめている白い謎の女性が関係しているでしょうね。サラという子をヒロインに昇格させることで何か本人に利益があったのでしょう」

「利益といっても今のところ俺の妨害? くらいのことしかやってませんよ。こんなゲームを引き延ばして時間稼ぎをする理由もないでしょうし」

「そうとは限らないかもしれないわよ」

「……どうしてですか?」


 花恋さんが答えを言う前に少し自分でも考えてみる。でもぱっと思いつく答えはなくて花恋さんの回答を待った。


「単純な話よ、あなたの邪魔をしてくるということは、一颯の目的が彼女にとって不利益になっているだけのこと。彼女の目的が何か掴めていないけども、ループするこの世界に執着し、あなたにゲームをクリアさせない、ただそれだけの理由で邪魔するのは十分にありえるのではなくて?」

「じゃあ、時間稼ぎをしている可能性は……」

「何か企んでいるのではないかしら? 少なくとも主人公に影響を与えられるだけの人物よ、企みが嵌ってしまえばあなたを完全に封じ込めるだけの策を考えて……」

「……花恋さん?」


 そこで花恋さんが立ち止まり、考え込んでしまった。


 何かの可能性が頭をよぎったのか、黒いドレスは花恋さんの思考に反比例して静かに動きを収めた。


 ささやかな風が花恋さんの長い髪をたなびかせ、さらさらとした絹糸のような黒髪が一本一本確かに視認できた。


 つり目の長い睫毛がぴくっと動いた時、花恋さんがこちらに向く動作に合わせてドレスもふぁさっと裾を翻した。


「一颯、早くその白い女性の正体を暴きなさい」

「え? なんでですか? たしかに正体を暴きたいのはやまやまですけど、ヒントもありませんし……」


 真剣な表情で俺に詰め寄ってきた花恋さんは、握ってきた手を離して俺の胸元に手のひらを添えて触れてきた。下から見上げてくる花恋さんは焦っているように思える。


 突然大胆な行動に出たから少々驚いてしまったが、花恋さんがどうしてその答えに辿り着いたのか知らなくてはならない。


「どうしてすぐに暴かないといけないんですか? 向こうが時間稼ぎをしているとはいえ、動きを見せればこちらも正体を暴きやすくなると思いますし」

「いいえ! 向こうはもう策を実行に移しているのよ」

「え? どうして……」


 花恋さんに手を引かれて近くにあった公園へと入る。子どもたちが数人砂場や滑り台で遊んでいるが、花恋さんはそれらに目もくれず近くの空いているベンチに俺を座らせた。


 身体がくっ付くほど近くに花恋さんも隣に座り、俺の腕を掴んだ。


「あなたから詳しい話をもう一度聞きたいわ。あなたはゲームをクリアし、次の世界に移動する際は……情報の海だったかしら? そこを泳いでこの世界にやってきたのよね?」


 部屋で愛陽が花恋さんに話した内容を改めて聞かれる。答える内容は全く同じなのだが花恋さんにとっては再確認することで何か発見があるのかもしれない。


 俺が情報の海を漂ってここへたどり着いたこと、辿り着く直前に白い女性が俺の首を絞めてきたこと、シナリオ通りにイベントが進行していない事、聞かれたことは素直に嘘偽りなく全て話した。


 それで何が分かるのか俺には見当もつかないけども、花恋さんには何か気付いたことがあるらしい。


「……やっぱり、白い女性、もう“敵”と呼ぶことにするわ。敵はあなたを妨害する策をいくつも用意しているわ」

「それってシナリオ進行を妨害していることですか?」

「それは作戦の第二段階か、その前にもう少しあるかもしれないわ。おそらく最初の妨害はあなたの首を絞めることで殺害してしまおうという単純かつ強力で物騒な作戦よ」

「殺害……ですか……」


 思わず首に触れた。


 首元には未だに残る敵に絞められた時の感触、そして喉元の不快感。すでに何日も経過しているというのに、首には薄く手のひらの痕を残している。


「本当ならそこで『霜月一颯の情報』を殺害し、この世界には敵一人でやって来る予定だったはずよ」

「でも失敗した……」

「ええ、きっと成功する確率は低かったのではないかしら? 情報の海という非現実な世界で特定の誰かの情報を殺害するなど、ぶっつけ本番では難しかったのではないかしら」

「それでも俺よりはあの海に慣れている。そのアドバンテージを利用して俺が慣れて動けるようになる前に片を付けようとした。だけどタイミングが悪かった?」


 もう少しで俺は首を潰されてしまうところだったが、寸でのところで俺はゲームのリスタートに助けられた。


 敵もどこかでリスタート地点に戻されていたはずだ。


「失敗しても次の作戦に移行できるだけの用意はしていたわけね、あなたがここに来て二日目にはシナリオに変化が見られているということは、一日目に主人公に接触できる人物と考えるのが妥当かしら? ……ここまで来るとあなたの行動も全て把握されている可能性があるわ。今、この瞬間も」


 思わず辺りを見渡すが、子どもたちが無邪気にはしゃぐ姿が見えるだけで他には誰もいない。木陰を一本ずつ目を凝らして探してみても見つけられはしない。


「そう簡単には見つからないわよ。敵は既に作戦を実行しているのだから、正体を暴かれないよう今までと同じ動きしかしてこないはずよ。同じ動きしかしないということは、イベント以外であなたに接触する機会もない、何度も同じ行動をしているからぼろも簡単には出てこないわね……」


 相手はこちらの状況を把握していて姿を隠している。何もヒントがない状態で記憶を頼りに犯人探し……。無理じゃない?


 なんか別のゲーム始まってるし。


 俺の目的はゲームをクリアして早くループの檻から解放されること。


 敵の目的は不明瞭ではあるが、おそらくゲームをクリアさせないこと、もしくは『霜月一颯』という存在の抹消。


 情報の海で与えた傷が現実に戻って来て影響を与えていることを知られていなければいいのだが、あのような手段で出てきたからには自分自身で検証を済ましているのかもしれない。


「敵の目的が長期戦を想定しているのであれば、……一颯、わたくしでは力になれないかもしれないわ」

「今回だけで正体を掴むことは不可能だということを理解しているつもりです。敵は本気ですから、何か目的があって俺の前に姿を現さない限りは鼬ごっこにすらなりえません」

「……ごめんなさい」


 俺の服の袖をぎゅっと握り、項垂れて謝る花恋さんに俺は慌てて否定した。


「花恋さんが謝る必要はどこにもないですよ! むしろこんなことに巻き込んでしまった俺が悪いんですから、どうか謝らないでください。……本当に、俺の為に謝らないでください」


 必死なお願いに何かを感じ取ってくれたのか、花恋さんは袖を握る力を弱めた。


「……分かったわ。でも協力はさせて頂戴」

「はい、それはこちらからお願いしたいところです」


 もう花恋さんと心春から謝られるなんて嫌だ。申し訳なくて、俺が謝罪しなくてはならないのに、何度も罪悪感に押しつぶされそうになった。


 情報の海、……忘却場で記憶を忘却しようと思ったが、戒めに覚えておいてよかったかもしれない。







投稿ペースゆっくりでごめんなさい。次章の準備がある程度出来ていないと不安なのです。

準備出来次第、週二話投稿に戻すつもりですので、よかったらブックマーク、ポイント評価をお願いします。

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