129予想外
駄菓子屋の前で転校してくる前の唯人と月宮さんが正面衝突するところを心春に見せ、家に帰ってから俺が時間をループしていることを伝えた。
分かりやすく説明できたか不安だが、それなりに理解してくれたみたいだ。
ただ、今回は心春や花恋さんに事情を話さなくても攻略が出来てしまうかもしれない。少なくとも急を要する状況にはない。
でもいざという時にすぐ動いてもらうためにも事情は話しておきたかった。
そのため、心春に事情をなんとか理解してもらった翌日、この日の放課後は花恋さんにも状況を説明するため部室へと向かう。
……そのはずが、想定外のことが起きた。
「さっそく校内を案内してくれるか? 移動教室で場所が分からないと困るしな」
「…………え?」
この日、転校してきて一日目の唯人は校内案内を断り、日用品を買いに行くはずだ。
それがどうしてずれている? 聖羅が学校の周辺を案内するはずなのに。
「よし、そうと決まればさっそく行こうか。……一颯? どうかしたの?」
「あ、いや、何でもないよ……」
この場面に選択肢はない。だから新しく選択肢が発生したのかと思えばそうではない。
唯人は俺と相対して話していたから見逃しているはずもない。こいつは顎に一切指を添えていなかった。
サラルートが特殊だから? 先に三人を終わらせてから解放される特別なキャラだからシナリオも若干の変更が加わっている?
今日の予定については心春に話してあるから、どういうことなのか俺と同じく首を傾げていた。
でもこうなってしまっては仕方ないから、俺と心春は先に教室を出て行った二人を追いかける。
「一颯くん、やっぱり?」
「ああ、本来のシナリオとは違うルートに進んでる」
脳内のファイルを漁ってみるが、シナリオに変更は見られない。サラルートを閲覧しても同じ。
だからこれはイレギュラーなことで間違いはないのだ。
あの白い女性は俺のことをよく知っていて、唯人にも干渉し始めたということ。殺意を向けられたことから、“この世界”をめちゃくちゃにしようとしているように思えてしまう。
俺と同じくループをしているのだとしても、まさか姿はあの白いままではないだろう。この学校内か、それとも俺のことをよく知る人か、今回の変則的なシナリオに翻弄されないよう気を付けながら正体を暴いていこう。
しかし、一日ずれてしまうといろいろと弊害がシナリオを狂わせてしまうのだが、この日は図書室でのシナリオが消えてしまう。
普段なら小鳥遊先輩が図書室のカウンターに座っているのだが、この日に限って他の図書委員が仕事をしている。
よって唯人が図書室へ迷い込んでも特にイベントが発生するわけもなくなく、なんなら階下へ降りて来た唯人を聖羅が発見した。
これで真奈美ルートのフラグはへし折られた。おそらく代わりとなるイベントは発生しないだろう。
翌日、この日は唯人を部活動に案内することになったのだが、本来ならこの日が校内案内を予定していたため、ここでもシナリオが一日ずれてしまう。
最初にサラさんに出会わない。唯人と俺がトイレへと向かう際にサラさんが唯人に利尿作用の高いお茶をプレゼントするのだが、日にちが違うためイベントが発生しない。
案内を終え、唯人を家庭科室へと送り込むのだが、料理部は活動していないため、唯人が料理に興味を持つこともない。
さらに月宮さんは教室から去ってしまい、唯人が教室へ向かっても誰もいない。
聖羅、月宮さんのフラグもここでぽきりと折られてしまう。
だが俺としてはありがたい事なのかもしれない。
他ヒロインのルートのことは一切考えなくてよくなったのだ。サラルートは俺が手を下さなくてもよかったが、他ヒロインのルートへと勝手に突入されても困るため牽制しようと思っていたから、ありがたい。
本格的にやることがなくなってくるが、その分心春と遊べば時間はいくらでも潰せる。花恋さんも誘ってどこか遊びに行くのもいいかもしれない。
予定は狂ってしまったが明日に花恋さんと状況を共有しよう。部活はないからどこかで待ち合わせでもしようかな?
ここまで来て初めての展開。不安が募りながらもどこかわくわくした、嬉々とした感情が湧きあがってきていた。
料理部を見なかった唯人は部活動に興味を持つこともなく、この日は解散となる。やっぱりシナリオとは違うということで心春に相談してみたが、正しいシナリオは俺の脳内にしかない。
相談するにしても“俺の予言”が外れてしまった以上、心春からは首を傾げる動作しか返されなかった。
かなりスローペースでの投稿です。なるべく間が途切れないよう最低限このペースをキープしますので、長い目でお付き合いください。
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