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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
五章 往年の攻略シナリオ
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128不穏なリスタート

投稿再開します

 六月二十五日、やっと動かせるようになった重い瞼を押し上げて、口から一気に空気を吸い込む。


 いきなり吸い込むものだから「コヒュッ」と授業中の教室としては場違いな音を漏らしてしまう。


 先ほどまで首を絞められていた違和感が残っていて、今でもあの殺気がヘビのようにまとわりついていて恐怖を拭い去ることが出来ない。


 手と背中には汗がびっしょりと、クーラーの利いた教室なのに頭から足先まで全身が汗にまみれていた。


「どしたん? 一颯」


 俺の前の席で授業を受けていた金髪のギャルこと神楽坂聖羅は、短く折り畳んだスカートから伸びる脚を組み、後ろを振り返って俺のことを小声で心配してくれた。


「あ、いや、なんでもない……」

「そ? 昼寝もほどほどにしなよ」


 ギャルとは思えないほどのお人好しで、この後も俺が何も書き写していないと分かってノートを貸してくれるのだ。


 いつもなら授業終わりか今のタイミングで教室を出て陽の光を浴びに行くのだが、今は恐怖に足が震えて立ち上がることもできない。


 情報の海を漂い、ゴールが見えた瞬間に何者かが俺の首を絞めてきた。あれは一体何だったのか?


 目も鼻もない、白い光に包まれた女性のシルエット、不気味に口端を釣り上げた女性は俺のことを嗤っていたのだ。


「では、次回までに宿題をやっておくように」


 授業が終わり、先生が黒板に残した宿題範囲を見ずにノートを鞄に突っ込んだ。


 聖羅はまだノートに書き写しているみたいだから、俺は勇気を出してふらつく足で廊下に躍り出る。手すりに掴まり窓から空を見上げた。


 この日に戻って来て必ず太陽を見る。立ち眩みに苛まれる感覚が心地よく思えてきたが、これは精神的にあまりよくない事なのではないだろうか。


 やっぱり俺は疲れている。何周も同じ景色を見せられて、それでも謎は俺に襲い掛かり、ついには殺気を向けられた。


 俺が誰かに狙われている事実は決して無視できることではない。だが、一体だれが俺に恨みを持っている? そもそもどうして“俺と同じ次元”に存在できる?


 第一に考えられるのは、あの神の野郎が俺を排除しようと模索していること。


 でもそれはあいつの指先一つで簡単に出来ることではないのか? この世界はゲームで、俺がこの世に誕生するまではあいつの意思だったのだから。


 そうなれば次に考えられるのはバグだろう。シナリオ更新時の頭痛、これはバグがあるから起きるわけで、先ほどの白い女性も深刻なバグが原因と考えられる。


 あの神がいつまでもバグを直す気配がないため、原因としては一番かもしれない。


 視線を校舎四階に向けると、そこには誰もいなかった。


 いつもなら女子生徒が窓辺に佇んでいるはずなのだが、ここに来るのが遅かったせいか、もうそこにはいない。


 すぐに担任の加賀美先生が机と椅子を両腕に抱えて運んできて、それを俺の席の隣にセットするよう指示が飛んでくる。


 ……少々イレギュラーな始まり方をしたが、サラルートは特殊なキャラ設定のため、多少の変化は見られてもおかしくはない……と信じたい。


 のんびりと教室で明日やって来る転校生、椎崎唯人の席をセットしていれば、その間に教室を震撼させる巨大なブーイングに包まれる。


 今回もまた加賀美先生が転校生が来ることをあっさりとばらしてしまったからだ。


 少し変化はあったものの、意識を向けなければならないような特異な変化は見受けられなかった。


 先生が自身の過去を話して自爆して、放課後になれば義妹の心春が俺と聖羅の待つこっちの教室へやって来るのを雑談で時間潰ししていると、聖羅が俺の首を指さした。


「一颯、その首どうしたの? 寝相が悪かった?」

「え? 首になんかついているのか?」

「ついているというか、なんか食い込ませたみたいな痕が残っているね、これって、指じゃない? ちょっと待って……、ほら、鏡で見てみな」


 聖羅が鞄からプラチナ色のコンパクトケースを取り出し、付属の鏡をこちらに向けてくれた。


 鏡は小さなものだったが、首の痕を見るのであれば十分だ。


 顔を近づけて首を見てみると、確かにそこには指を押し沈められた痕が残っている。


「これ、……首を絞められた時のやつか……?」

「一颯、首絞められるようなことしたの? どんなことを心春にやらかしたのよ」

「いや、心春には何もしてないって! ……多分寝相が悪かったんだな、こう……、首に指を食い込ませたまま突っ伏していたんだよ、うん」


 見知らぬ誰かに首を絞められたなんて言えるはずもなく、苦し紛れに誤魔化してみれば、訝し気な視線をされつつもとりあえずは納得してくれた。


「誰かに首を絞められたような痕だけど、本当に心春じゃないんだね?」

「違う違う、絶対に違うから、俺の寝相が悪いだけ」

「そっか、今日は一颯と心春が昼休みに二人でいたからさ、その時にてっきりそこで何かあったのかと」

「そ、そんなわけないだろ? はっはっは……」


 ――もう覚えていない。


 六月二十五日の最後の授業、それも終わりの方に俺は覚醒するが、それより前に何をしていたかなんて、覚えているはずがない。


 心春と何を話していたか、昼食に何を食べていたかなんて昔のこと過ぎて記憶にないのだ。


 首に残った痕は誰の手によって付けられたのか、今回は時間があるからじっくり探す事が出来そうだ。


「お待たせー! ごめんね、今日も先生の話が長くって」

「そっちのクラスは終わりが長いもんな、毎度のことだし、別にこれくらい気にしてないよ」


 サイドテールの髪を胸元でポンポン跳ねさせながら教室に飛び込んできた心春を迎え入れ、これからいつも通り駄菓子屋へと向かうこととなった。


 聖羅には賄賂として駄菓子百円分を渡すことでこちらの都合よく誘導することが出来る。


 心春には現実では信じがたい光景を見せなくてはならないが、今のところそれが最も効率がいい。


 しかし、このまま駄菓子屋へ向かうにはなんだか気持ち悪くて、トイレに寄ると偽って簡単に校内を探索した。


 何か見つけられないかと五分ほど速足で探索してみたが、これといって変わったものは見つけられなかった。







週に一度の更新となりますが、もしかしたら間が開くかもしれません。

今章は元々幕間として考えていたものを本編として改稿した章となります。もろ幕間だろという話もありますがそもそも元が幕間ということで納得してくれたら幸いです。

時間はかかりますがブックマークやポイント評価等、よろしくお願いします。

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