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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
四章 真奈美ルート攻略シナリオ
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118真奈美ルート フェードアウト

 あれから今日まで、中尉の父親が姿を現すことはなかった。


 小鳥遊先輩が出かけるときは青春よろしく唯人と待ち合わせて共に行動しているのだと聞く。


 あまり外に出ないインドアな先輩でも、買い物や新たなぬいぐるみの蒐集に部屋を出ることはある。そこに唯人をぶつけることは間違っていなかったようだ。


 最近はだいぶ打ち解けてきたのか、唯人相手に口数も増えてきて、花恋さんに唯人との話を持ち出すほどに二人は親睦を深めていった。


 母との和解については少し後回しにしている。ストーカー紛いに現れた父親の件について、あまり印象を悪くしすぎない程度に花恋さんが小鳥遊先輩の母親に伝えると、娘を夏休みの間だけでもお願いされたみたいだ。


 うちの高校はかなり自由が利く校風なのだが、それは寮においても同じだった。


 もちろん最低限の風紀は守られているが、誰かを呼んでお泊り会みたいなものは、わざわざ寮の先生に報告をしなくても構わないのだ。しかしそれが長期となると別問題で、花恋さんは今回のことを先生に報告すると、教師としての責任は持つが、私生活に関しては責任を持たないと了承を得た。


 初めての寮生活に楽しんでいると花恋さんから話を聞いているが、まだ母との和解が済んでいない今、気休めにしかなっていないはずだ。


 しかし、話し相手もおらず一人で過ごしてきた今までにくらべ、寮では花恋さんに唯人、城戸先輩や他には聖羅も話し相手や遊び相手として親しくしてくれているみたいだから、その幸福を享受しても誰も咎めはしない。


 今回の真奈美ルートでのシナリオで、俺と心春はもう深く関わろうとはしないと決めた。


 もう俺たちのことは小鳥遊先輩に忘れられているだろう。その程度にしか話したことも会ったこともないのだから、後は唯人と周囲の人たちに任せておけば大丈夫だ。


 俺が関わるよりも上手くやってくれる。……なぜか、そんな自信があった。


 唯人の感情が中心だった今までのシナリオとは違う。小鳥遊先輩について、周りがフォローする、そのフォローの中心にいるのが唯人なんだ。


 七度も繰り返し、八度目の挑戦でやっと漕ぎ付けた真奈美ルートでも、俺の出番は必要ない。あくまで主人公は唯人、その事実はどう頑張っても覆ることはない。


 愛陽が提示した謎についても、必要なかったように思えるほどあっさり解明され、これからも出番がある様子はない。


 ――さて、また時間は過ぎていき、夏休みも後半、これまではずっと唯人が小鳥遊先輩の護衛として親睦を深める時間に使われていたわけだが、やっとシナリオに進展が見られた。


 あと数日で休みも終わり、新学期が始まるといった毎日変わらず暑い日の一応は週末、小鳥遊先輩がついに母と和解するために家に帰るのだそうだ。


 これだけ待たせたのだからもちろん新しい情報は入ってきているのだが、和解に必要なものはない。己の気持ちをぶつけてどうして仲違いしてしまったのかしっかり話せば、母親も分かってくれるだろう。


 そういうわけで、小鳥遊先輩は唯人と共に帰宅。もはや彼氏を親に紹介するような光景だが、唯人はそれを護衛としか思っていないから困りものだ。


 本当は一人で行くと覚悟を決めていたのだが、寮を出る直前になってやっぱり不安だと花恋さんに縋りついたみたいだ。だがそれで花恋さんが最後までついて行っても仕方ないため、……こう言っちゃなんだが、こういう時にあまり頼りにならない唯人を隣に置いておいたわけだ。


 何か唯人が覚醒して小鳥遊先輩のアシストをしてくれるなら万々歳。それが出来なくても本人の成長に繋がる何かはあるはず。


 ……ちなみにここまで俺は何もやっていない。すべては花恋さんや中尉の発案と実行だ。


 細かく報告は貰っているけども、事情は説明してすべてを花恋さんに任せた。花恋さんは張り切って引き受けてくれたのだが、それほどまでに小鳥遊先輩とは仲良くなれたのかな?


 何にせよ、俺の出番は本当に無くなったわけだ。今回のイベントが成功するにせよ、失敗するにせよ、小鳥遊先輩を慰めるのは俺ではなく、唯人や花恋さんだ。


 ……精神の疲弊を回復させろと言わんばかりに、この夏は今まで一番静かで普段通りだった。


 普段通り心春と遊んで、母さんの作る上手い飯をかっ食らって、また心春と遊んで、今頃花恋さんたちは何をしているだろうかと話し合ったり。


 月宮さんや聖羅の時のような充実した立ち回りではなくて、完全に主人公の友達として表舞台から徐々にフェードアウトしていった脇役だった。


 これでも上手くいくのならこれでいい。別に今は退屈に刺激を求めているわけでもない。


 ……それでもやっぱり結果は気になるものだ。先ほどから鳴りもしない携帯から目が離せずにいる。意味もなく電源を入れては消し、心春との会話に耳を傾けることもできなかった。


 一緒に遊んでいて、そんな俺にムッとした心春がいたずらとばかりに後ろから抱き着いてきたが、されるがまま、そのまま俺は横にこてんと倒れる。背中をポカポカと叩かれるが代わりに腕を後ろに回して頭を撫でれば、嬉しそうな猫なで声が聞こえてくる。


 俺と心春の日常は昔から変わらずこんな感じだから周りから不思議がられる。


 ……ああ、早く結果を知らせてくれないだろうか。







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