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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
四章 真奈美ルート攻略シナリオ
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114真奈美ルート 計画方針

 勉強会に小鳥遊先輩がどのような気持ちで臨んでいたのか、中尉から話を聞くことが出来た。


 初めはどうしてそんなことを聞くのかと疑われるかと思ったが、小鳥遊先輩の寡黙な態度では会話が成り立たないから、どのような感情を抱いているのか早く理解してもらいたいらしく、あっさりと中尉と小鳥遊先輩との会話を教えてもらえた。


「姉さ……、姉は楽しかったと言っていたであります。友達と家で遊ぶことはおろか、学校でも話し相手がいないから、それなりに戸惑いも多かったといつもより声色高めで教えてくれたでありますな。まさか椎崎殿が遊びに行っているとは思わなかったであります。姉はいざ呼んでみたはいいが、緊張であまり話せなかったと少々嘆いていたであります」


 元からほとんど話しているところを見たことも聞いたこともない……、とはさすがに言えないが、弟である中尉にはわずかな変化にも気付ける絆があるのだろう。俺と心春のような関係だな。


 ここまでくれば、中尉もシナリオに大きく関わってくる可能性は十分にある。


 俺は唯人のクラスメイトだと中尉に自己紹介をしたから、俺が小鳥遊先輩のことを嗅ぎまわっていることを唯人にいつ知られてもおかしくない。


 下手な疑いを掛けられる前に唯人には俺から軽く話しておく必要がある。


 その際には心春も一緒に話してくれればくだらない誤解も生まれずに済むだろうな。


 口数の少ない小鳥遊先輩のことをこれだけ知ることができたのなら上等だ。あまり中尉を頼りすぎるのもどこかでぼろが出そうで怖いが、心の奥で平伏しながらも今は頼らせてもらおう。


 そしてなにより、花恋さんがとっておきの情報を掴んでくれたのだ!


「一颯、朗報よ! 真奈美がどうしてぬいぐるみを集めているのか、いえ、集め続けているのかが分かったのよ!」


 珍しく声高々にそう教えてくれた花恋さんは、わざわざ我が家に来てまで報告してくれたのだ。


「あの子ったら、ぽやーとしているようでしっかり将来の夢を持っていたのよ。最近、たまに教室で裁縫道具を取り出していたと思ったら、自分好みのぬいぐるみを作ろうと練習していたみたいなの。それでどうしてそんなにも熱心なのか尋ねてみれば、教えてくれたのよ」


 難攻不落の城を攻略したとばかりに喜ぶ花恋さんは、情報を手に入れたことだけに喜んでいるようには思えなかった。おそらくは友達のことをより知ることができて、教えてくれるということはちゃんと友達として見てくれていることに喜んでいるのだろう。


 俺だって唯人が気兼ねなく話しかけてくれた時は嬉しかったからな。


「将来は人形やぬいぐるみを取り扱った玩具メーカーに勤めたいのだそうよ。子どもたちに愛される可愛らしい人形やぬいぐるみ、自分の熱を認めてもらうために裁縫から頑張るそうよ。それと頑張って人と話せるようになりたいと相談もしてくれて、ホント、友達冥利に尽きるわ」

「すごいです! 私なんか一颯くんについて行くので精いっぱいだったのに、やっぱり部長は人の話を聞くのが丁寧なんですね」


 心春が花恋さんをほめちぎり、謙遜することなく胸を張る花恋さんに俺は頭が上がらない。


 ここまでくればこれからのシナリオも見えてくる。


 改めて今まで収集した情報をまとめてみよう。


「唯人は過去に柔道をしていたが、大会の事故をきっかけにトラウマを抱えてしまった。それは何かしらのきっかけが無ければ払拭できないもので、それはヒロインの行動次第で変化する可能性がある」


 心春がメモしていたノートを見返しながらうんと頷く。花恋さんとも認識は合っているみたいだ。


「小鳥遊先輩はぬいぐるみが好きであり、愛情の延長戦にぬいぐるみを取り扱う玩具メーカーに就職希望、そのために裁縫を勉強し始めた。友達ができたことと、周りを見てみれば、親の再婚、相談相手には中尉と花恋さんがいる」


 簡潔に今まであったことを並べてみたが、これだけでシナリオの一本は完成させるのに十分な情報量だ。


 それに、最近は唯人との関係に変化が見られつつあるため、それから目先のシナリオを組み立てる。


「本人は気付いていないみたいだけど、真奈美は乙女に成りつつあるわ。少しずつ意識し始めているみたいよ」

「唯人にはそんな兆しが見られないから、またヒロイン側からのアプローチが必要ですね。鈍感主人公ってのもここまでくると面倒くさいです」


 俺の「また」という言葉に二人が反応するが、皮肉めいたジョークと受け取ったみたいでツッコミは入れてこなかった。


 複雑な気持ちだが、二人には逆効果なんじゃないかと思い始めている。もしかしてブラックジョークだった?


「真奈美についてはわたくしに任せて頂戴。他にも悩んでいることがあるみたいだから、相談に乗ってあげるわ」

「私は聖羅ちゃんから見た唯人くんについて聞いてみようかな? 最近変わったことがあればすぐに気付くし」

「俺は唯人をいつも通り誘導かな。電話での相談が主になると思うけど、必要とあらばあいつの部屋に押し入る予定」


 各々役割を決め、さっそく花恋さんは動き出してくれた。これから小鳥遊先輩を自身の部屋に招いてお茶会をするのだという。口数を増やすための練習も兼ねているのだとか。


 俺たちはなるべく自然な形で動くため、明日、学校で唯人に話しかけてみるとしよう。心春の方も恋愛に敏感な聖羅なら何か面白い情報をリークしてくれると願っている。


 未知への一歩、失敗は許されない。


 精神的な余裕はあるけども、次に持ち越せるだけの余力はきっとない。


 いつ終わるかも分からない白紙のシナリオに根気よく付き合うためにも、休みは必要だ。でも今は休んでいる暇はない。


 前に教えてもらったのだが、もう少ししたら中尉が野良猫に餌をあげる時間だ。野良猫ではあるらしいが黙認で寮が飼っているような猫だ、問題は無いらしい。


 そんな心優しい中尉を利用するのは気が引けるが、今はそれどころではない。時間のある限り奔走することが、今の俺には求められているはずだ。







もう少ししたら動き出しますので、それまでの主人公たちの準備期間にお付き合いくださいませ。

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