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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
四章 真奈美ルート攻略シナリオ
109/226

109強引な選択 選択肢……1

 七月に入ってからはしばらく時間が空く。


 主人公の唯人はこの間に聖羅とのイベントやまだ見ぬ三好サラとのイベントなども進行していく。しかしそれらがどのような結果に終わろうが真奈美ルートに影響はないため俺は関与しない。シナリオ進行に必要な他登場人物との会合を淡々とこなしていけば、すぐに第二のフラグがやってくる。


 実は先日、シナリオに変更があった。本来はこのイベントに俺の関与することは一切なく、唯人が小鳥遊先輩の家に遊びに行った際に起きるイベントなのだ。


 なぜか変更されたシナリオによれば、選択肢の発生場所は学校。しかも俺の行動ありきのシナリオなのだ。


 小さな頭痛と共に行われたシナリオ変更には俺の若干の怒りが丸めた布団にぶつけられたが、この目で進行を見守れるのであればそう悪い話ではないと自分にいいかせた。


 期末試験が近付く今日この頃、俺は唯人を図書室へと誘導する。それだけならいたってシンプルな話、呼び出せばそれで解決だ。でもそう簡単にはいかない。


 図書室の隣には屋上へと通ずる階段がある。そこの踊り場に小鳥遊先輩がいてシナリオが進行するため、どうやって何もないあの場所に唯人を一人送り込もうかと、心春と花恋さんに相談もした。


 俺は図書室でいつまで経ってもやってこない唯人を待っているだけでいい。しかし唯人を自分の判断で屋上へと向かわせなければならないのだ。


 共通ルートにも関わらず細かいシナリオの設定がない。選択肢が発生するはずなのにそのタイミングも不明だ。小鳥遊先輩と唯人が出会ってからなのか、それとも俺と唯人が教室にいる時なのか、一瞬たりとも油断できない緊迫した状況に陥ろうとしていた。


 そこで立てた作戦は、選択肢が発生しやすいよう唯人に択を多く直面させることに決まった。


 二択、または三択以上の選択肢が出たとして、唯人がそれのどれを選ぶかは白紙のシナリオ故、未知の領域。しかし今までの傾向から予測すれば、正解とは反対を選択する可能性が非常に高い。


 俺の居ない所ではある正解を選んでいるみたいだが、俺が関わらなければならない選択肢は決まって外れを引く。今回はそれを利用してみることにする。


 狭い選択肢で二択を幾度も責め立て、唯人が屋上へ向かうのに自然な形を作り上げる。これが今回の作戦だ。シンプル故に前の聖羅ルートのような不安はあるが、チャンスは一回、失敗に繋がるような難しい作戦は立てることは憚られた。


 作戦は朝から。俺と心春で唯人に勉強会を開こうと提案する。


 もう図書室には行きたくないと思っていたことは棚に上げて、場所は図書室、放課後に集まって一時間程度やってみないかと声をかける。


 ここで「参加する」か「参加しない」の二択を迫ってみたが、そもそも選択肢になっていないようですぐ「参加する」が返ってきた。


 ……まあいい。辞退されるよりはましだ。なんとか選択肢を発生させなければ俺の見えない所で外れを引く可能性があるのだ。焦らずとも地道に迫っていこう。


 他のシナリオに妨げが入らないように言葉を選ぶ。屋上へと向かわせるにしてもタイミングを間違えば月宮さんとの屋上でのシナリオに影響が出る。


 矛盾を起こしてしまえば一巻の終わりだ。修正するために今回と次回、それ以降も幾度かは捨てなければならなくなる。


 そもそもシナリオに矛盾が起こったらどうなってしまうのかと言うと、まず脳内のファイルがバグる。文字化けと共にシナリオがちぐはぐになり、酷いときは唯人やヒロインたちが同時に二ヵ所に存在したりする。


 この世界が本当のゲームであるならば、ある程度の“距離を無視”することも可能だっただろう。しかし、この世界はゲームであると同時に“現実”でもある。唯人やヒロインの足で間に合わない距離にあるイベントは決して進行出来ないはずなのである。


 その矛盾が前に一度起こしてしまった際、三度の繰り返しを経て、具体的にはいくつかのシナリオを捨てることで元通りに修正した。その現象を単純に『エラー』と呼んでいるが、もう余計なことに時間を使わされるのは御免だ。


 時間があれば唯人に二択、三択を迫り、放課後に至るまで一度も正式な選択肢が発生することはなかった。流石に焦りが表立ってくる。


「一颯くん、ちょっと落ち着いて、ね?」

「……すまん、ありがとう」


 放課後、図書室へ向かう前の教室で心春が背中をさすってくれる。


 ここまで失敗が続くのであれば、俺の居ない所で唯人が正解に辿り着いてくれるのを願う他ないのかもしれない。俺が関与すればそこでイベントは終了、きっと小鳥遊先輩との進展もないだろう。


 次が最後、博打なんてしたくない。だからあくまで影響がでないぎりぎりを狙う。


「なあ、唯人って図書室以外に五階を探検したことはあるか?」

「いや、ないな。前は図書室に迷い込んでそのまま帰ったからな」


「図書室に行く前にちょっと歩いてみたらどうだ? 特に何かあるわけじゃないけど、人もいないから自分だけのスポットを見つけられるかもしれないぞ」


 ……唯人の方向音痴に賭けることにした。


 地図を見ても反対方向へ進んでしまうような、絶望的な方向音痴、たとえ校内の何もない五階でさえも、唯人なら迷ってしまうことに賭けたのだ。それであわよくば屋上へと続く階段の踊り場に小鳥遊先輩を見つけてくれないだろうか? ……そんな消極的な賭けなのだ。あまり期待はしていない。


「……そうだな」


 唯人は……、顎に指を添えた。


「…………!」


 見えない所で心春と拳をコツンと合わせた。顔には出せないが俺は涙を流したいほどに感極まっている。心春が椅子に座る俺の背中に乗ってきた。それだけ心春も嬉しいのだ。


「いや、時間ももったいないし、今度でいいよ」


 予想通り、唯人は俺たちの期待を裏切ってくれた。ならさらにそれを裏返す。


「そうか、まあ特に何もないしな。さっさと図書室に行こうぜ」


 聖羅は部活、だから三人で行動できるというのは実にありがたい。


 階段を上っていけば、心春は事前に決めた通りに何かを思い出す。

「一颯くん、私、ちょっと先生に提出するものがあったのを思い出した」

「ん? なんかあったっけ?」

「進路志望の紙だよ。たしか期限近かったよね?」

「あ、それ、俺も出してないや。悪い唯人、先に行っててくれ。ちょっと相談もしてくるからちょっとだけ遅くなるかも」


 二人して若干の棒読み、でも唯人はそれを訝しがることなく分かったと返答し、先に階段を上っていった。


 それを隠れて確認した俺は急いで携帯を取り出し、通話を掛ける。相手は花恋さんだ。


「もしもし? こっちは上手くいきました。そちらの方の確認をお願いします」


 花恋さんには俺たちと別れた後の動向を確認してもらうことになっている。近くの空き教室から隠れて唯人の動向を確認し、小声で俺たちに連絡をくれる。


『ええ、分かったわ。……今、見えたわ。図書室はすぐに見つけたけども入らないわね。真奈美は早い段階で屋上へと向かって行ったけども……、あ、階段を上ったわ』

「分かりました。ありがとうございます。図書室で落ち合いましょう」


 通話を切って俺たちも階段を上っていく。進路志望の紙は……、後日でいいだろう。なんなら俺は出す気もない。


 五階に辿り着けば唯人の姿はない。ここからは見えないが目の前の階段の踊り場にいることは間違いない。


 俺たちがやってきたことを悟られないよう図書室に入ると、なぜかカウンターに花恋さんが待っていた。


「あの子の代わりにわたくしが当番を引き受けたわ。なんだかおねむのようだったから、陽の当たる踊り場に案内しておいたのよ」

「ありがとうございます。それなら自然な形で誘導できていますし、唯人に理由を聞かれてもおかしな点はありませんね」

「今頃、唯人くんは小鳥遊先輩と何をしているのかな?」

「残念ながらそれは俺にも分からない。あそこにいることは確かだけど、花恋さんの言う通り寝ているのか、唯人と話しているのか、見て確認したいけど、そうもいかないんだよね」


 三人揃って残念と肩をすくめながら、近くの席に荷物を下ろした。期末テストが近付いているのは事実、花恋さんも含め、俺たちは唯人たちがこちらにやってくるまで問題集やノートにペンを走らせるのだった。







投稿頻度が落ちてしまって申し訳ないです。限りある時間でなんとか続きを書いていますので長期的に間隔が開くことはないと思います。

よかったらブックマーク、ポイント評価の程よろしくお願いします。


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