100女子に逆行説明は難しい
100話だというのに本編です。
幕間は書けませんでした、ごめんなさい。
制服から部屋着に着替えた俺と心春は俺の部屋に集まって座布団に座った。夕食までは時間もあるし、ゆっくり話すことができそうだ。
「えっと、それで、どういうことなのかな? 一颯くんが全部仕組んでやったことじゃないんだよね?」
「ああ、未来予知かと言われたらちょっと違うんだけど、俺はしばらく先に起きることを知っているんだ。分かりやすいかは自身がないけど、未来から来たと言えば伝わるか?」
「驚きが過ぎて困惑しているんだけど……、それはええと、未来の一颯くんが過去に遡ってここにいる?」
「正確には違うけど、今はそういう解釈でいいよ」
やはりギャルゲーをしたことのない女の子にループしているという表現は伝わりそうにないな、時間逆行でギリギリイメージが出来るくらい。
「うーん? 未来から? 非現実的すぎて難しいよ、一颯くんに不可思議な力が備わっていたの?」
いっきに詰めて話しても頭がこんがらがるだけだから、一つずつ丁寧に説明をしていく。
まずはどうして未来を知っていたのかについて、これは今の説明通り、未来から時間を遡ってきたという解釈が分かりやすい。
次いで、どうして未来から時間を遡ってきたかというと……。
「俺は神様に使命を与えられたんだ。とある男子生徒の恋愛が上手くいくように手伝ってやれって、時間を遡れたのは神様の力なわけだ。ちなみに細かい原理は俺も知らないから難しく考えないでくれ」
「とある男子生徒? ……それって、……あっ! さっきの大柄な男の人! 陽菜ちゃんにぶつかった人だね!」
伝わってよかったと安堵しながら大きく頷くと、心春にも伝播してほっと安堵していた。
「そう、その男子生徒が明日に俺のクラスにやって来る転校生なんだ」
一つずつとはいったものの、ここからはどうしても話が飛躍するから心春の理解力に毎回任せる他ない。
「その転校生を俺たちは仲間に招いて、俺はそいつの恋愛を手伝うことになっている。それはこの世界がゲームの中だからなんだ」
「……ごめん、全然分からなかった。もう少し分かりやすく教えて?」
「えっと、俺たちはよくゲームを一緒にやるだろ? レースゲームを特に遊んでいるけどさ、ゲームって他にも格闘ゲームとか、シューティングゲームとか、ジャンルが有るわけじゃない? それでジャンルの中には恋愛シミュレーションというジャンルがあるんだよ」
分かりやすく説明するためにパソコンを起動してギャルゲーを検索欄に打ち込んで検索する。
「名前は知っているよ、えと、文字を読むゲームだよね? 途中で選択肢が出てきてそれを選ぶんだっけ?」
検索したギャルゲーの画像を心春に見せてあげる。イメージと一致していたみたいで「そう、こんな感じのゲーム」と指差していた。
ここまで知っているのなら説明は楽だ。
「こんな感じのゲームの世界に俺たちはいるんだ。神様が作ったゲームのキャラクターとして生きているんだ」
「俄かには信じられないんだけど、……じゃあ、私たちは神様に創られた存在なの?」
「生まれるまではね。でも生まれてから今日までの人生に神様は関与していないと明言してくれたから、俺たちはちゃんと自由に生きてきた人間なんだよ」
仰々しい話ではあるが、真実であり心春には説明しておかなければならないことだ。決して俺たちは神に縛られて生きてきたわけじゃない。
「だから、俺たちが義兄妹の関係になったのは、神のいたずらではなかったということだ。起こるべくして起きてしまった……ことなんだ」
「そう、なんだ、……あの時は喉が枯れるまで神様を呪ったのにね。……そっか、まだよく分かってないけど、このゲームの世界? も、一つの世界なんだね」
二人して過去に思いを馳せるがそれが変わることは決してない。
「ああ、俺たちは生きている。外側と同じなのかは分からないけど、この世界は神様のいないまま今日までを過ごしてきたわけなんだ」
「え? 神様っていないの?」
「あの野郎も俺たちと同じ人間だよ。この世界からすれば神様みたいな存在というだけだ」
ため息交じりにあの神を適当に説明すると、今まで頭を悩ませてうんうん唸っていた心春が笑った。そういえばずっと固い話ばかりで冗談の一つも交えてなかったな。
「ふふっ、一颯くんったらそんなに神様に恨みがあるの? 口が悪いよ」
「仕方ないだろ、あいつのせいで俺がどれだけ苦労してきたことか。この世界がギャルゲーだからさ、ヒロインは一人じゃないんだよ、四人いるから一人ずつ転校生と恋仲にさせないといけないわけで、大変なんだ」
「それって、もしかしてヒロインに陽菜ちゃんが入っているの? だからさっき駄菓子屋の前でぶつかったの?」
「察しがいいね、そうだよ、月宮さんは一人目のヒロインだ。もう陽菜ルートは終わったけどね」
「ひ、陽菜ルート……、なんか、すごいね?」
心春には俺の話がとてつもなく壮大に聞こえているのか、驚いて口元を抑えていた。そこまで大したことではないのだが、心春にとっては恋愛ドラマか劇場のラブストーリーだと想像できるのだろう。
「ヒロインは四人いて、心春が知っているのは二人、月宮陽菜と神楽坂聖羅だ」
「聖羅ちゃんも! す、すごい、……あの二人が恋愛だなんて」
「おいおい、二人とも恋する乙女だぞ、何かきっかけがあって恋に落ちることは特別おかしなことはないだろう」
「私にはまだ転校生さんのことを何も知らないから、どんな人なんだろう? 一颯くんから見たその人の印象は?」
唯人の印象か、……長い時間を過ごしていると最初の頃のイメージが和らいでしまうが、そうだな。
「荒いな。転校してきた最初の頃はどこか荒々しい性格をしていると感じる。俺たちが三年生になる頃には、楽しさ重視のはっちゃけた聖羅の同類と見られるくらいには柔らかくなる」
ふんふんと聞いていた心春が唯人の性格を想像している。きっと恐竜のような肉食の唯人が徐々に草食に変わっていくイメージを持っているのだろう、なんとなく伝わってくる。
「過去にいろいろあってやさぐれているのが抜け切れていないだけだよ。突然の挙動に驚くことがあるだろうが、まあ理解してやってくれ」
「明日話せるんだよね? そのときに判断しようと思うけど……」
言葉を詰まらせた心春はもじもじとして何か聞きたそうに俺のことをちらちら見ている。そんな心春が何を聞きたいかを俺は分かっている。
「時間を遡っているのなら、前の自分がどんな態度でいたか気になっているんだろ?」
「う、うん、その……、私って一颯くんとどんな感じに過ごしていたのかな?」
唯人への接し方ではなく俺との接し方を知りたい模様。心春にとってはこっちの方が重要なのだろうな。
「俺の口から踏み込んだことは言えないけど、心春が俺に話せないような、願っていたことをいくつか叶えたよ。所謂あんなことやこんなことまでってやつかな?」
「うぅ……、気になるけど、ちょっと怖いからこれ以上は聞かないでおく」
「後日、ちゃんと話す機会があるからそのときに全部話すよ。それが以前の心春からのお願いだから」
「い、今から心の準備をしないと耐えられないかも……、私以外に協力者っているの?」
「いるよ、花恋さんがもう一人の協力者」
普段は部長と呼んでいるから、花恋さんと言われても一瞬誰か分からなかったのかもしれない。でも俺たちの知っている人で花恋という名前は色濃く鮮明に浮かび出てくる人だから、驚いた心春が俺に詰め寄ってくる。
「なんで名前呼びなの!」
「そ、そういう条件で手伝ってもらっているからだ」
心春が俺の花恋さん呼びを聞くと毎回こうして詰め寄ってくる。そんなに問い詰めないといけないような事なのかな?
顔を近くまで寄せすぎたのか、心春は恥ずかしそうに俺からぱっと距離を取り、またもじもじと身体を揺らす。
「えっと……、私も何か条件を付けたとか、ない?」
「いや、心春は特になかったかな、俺の頼もしいパートナーだ」
「一颯くんのぱ、パートナーだなんて……、いい響き」
恍惚とした表情の心春、今日は表情の変化が激しいな。いつもは切羽詰まった表情だったり自信なさげに不安な表情だったりするのだが、俺のどの行動が心春の表情に変化を与えているのか調べてみるのも面白いかもしれない。
「明日は花恋さんに心春に話したことを伝えるつもりだ。大丈夫、シナリオは俺の頭の中にあるからそれに沿って行動するだけだから。……この後はゲームでもしないか? 昨日の俺とは腕が違うところを見せつけてやりたい」
「それを口にしたら格好悪いよ。でもゲームの腕を見せてくれたら一颯くんの話を信じられるかも」
夕食までの時間を心春とゲームで過ごしたのだが、俺が練習していたゲームはこの時点では購入していないゲームだったため、誤魔化すように別ゲームに興じた。結果は以前と変わらない。つまり五分の結果で決着し、心春からはなんとも言えない表情を返された。
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