10神様?
階段を上り切った先には驚くほどに何もなく、砂利を敷き詰められてできた広場と壊れかけのベンチ、柵による転落防止はあるけども果たして効果を発揮するかは疑問の余地がある怪しい状態だ。おまけ程度に桜の木がちらほらと点在しているが、他の木に邪魔されて毎年春の美しさを窺うことはできない。
俺たちが立っている場所がいつ崩れ落ちてもおかしくないと不安な気持ちにさせる、そんな高台の広場に俺たちはやってきた。
「ここで、誰か待っているの?」
「そのはずだけど、どう会ってくれるのかは分からない、なにせ人の脳内に直接情報を送り込めるような相手だ、正面から来るとは思えない」
「脳内に直接? ……それは怖いね」
それには物理的な意味も含めていて、もしかしたら空から降ってくるか立体映像的な何かで現れる可能性なども検討していた。
辺りの警戒をしながら待っていると、脳内でザザッ……ザザッ……、と昔のアナログテレビのチャンネルを合わせる時のような雑音が流れてきた。
『あー、あー、聞こえているかな? 霜月一颯君、聞こえていたら声に出して返事をしてくれ』
「な、なんだ!? 脳内に直接響いて――」
「一颯くんには何か聞こえているの?」
頭痛を伴うわけじゃない。若干鬱陶しいまでの雑音は残っているが、電話で話すような音声で通話する分には十分クリアな音が脳内に響く。
年は二十歳過ぎ程だろうか、声を変えていない限りはかなり若い男だ。
『心春ちゃんはここでは無関係の予定だったけど、まあ一週目ならチュートリアルということで繋げておくか……』
「は? チュートリアル? おい、お前は誰なんだ!」
『……これでよし、おーい、心春君、聞こえているかな?』
「え? 何これ、頭に直接聞こえて……気持ち悪い」
あ、向こう側でなんか落ち込んだ様子が感じられた。何か嫌なことでも抱えているのだろうか。
心春が失言したことに全力で謝っているが、男は一度素でそんなことを言われて落ち込むと、すぐに立ち直れない繊細な生き物なのよ、心春。
……あれ? じゃあ、もしかしてこの声の持ち主は……。
「あんた、もしかして、俺たちと同じ人間か?」
『ん? ああ、僕のことを神様か何かかと思ったかい? あながち間違いじゃないけど、僕個人を指しているなら、僕は紛れもなく君たちと同じ人間だよ』
神様は悩みなんて抱えないと勝手に思い込んでいたが、どうやら相手は予想通り同じヒトらしい。
頭痛と共に脳内に入ってきて、今はだいぶ整理できたなけなしの情報を手繰り寄せて尋ねる。
「なあ、ここはどこだ? どうして俺はここにいる?」
『それはこの世界をボクが創ったことに対しての問かい? それとも、君が二周していることに対してその答えを知りたいのかい?』
「……! どちらに対してもだ」
自分でもよく分かっていなかったが、どうやら聞きたいことのあたりを引いたらしい。おかげでこの世界はこいつが創造したものだと判明した。それに俺が過去に戻ってきていることについてもおそらくこいつのせいだろう。
情報を引き出すためにもここは慎重に言葉を選ばなくてはならない。
『僕は君たちと駆け引きとかする気は全くないから安心してくれ、聞きたいことがあったら何でも質問してくれていい。それと、このように会話できる機会も滅多にないからね、今回で話せることはまとめて話すつもりだよ』
そうしてくれないと困る。心春に至っては俺が時間を遡っていることを知らないから会話について行けてなくて頭を何度も横に捻っている。
どういうことかと聞かれても俺には答えられないから……神でいいか、神が全てを話してくれるのを待つしかない。
『心春君にはどこまで話したのかな?』
「世界が偽物にしか見えなくなったとは話した。それ以外はあんたの話を聞かないと何とも言えないから話していない」
『……なるほど、ならば、先に一颯君の脳内にダウンロードしたファイルを解凍しておこう。その間に心春君にはある程度の事情を話しておくとしよう』
「え? ファイル? 解凍?」
『それらは君が起きた後に話そう。では、心春君、一颯君をそこのベンチに座らせて支えてくれるかな』
「あ、はい、分かりました。いいんだよね、一颯くん?」
「……仕方ないか」
謎は深まるばかりで神は俺に何を施したのか、……施した? 脳内に無理やり何かを入れられただけか。でも、従う他なくて、俺はベンチに座って次の指示を待った。
座ったベンチは臀部が少し触れただけで軋んで音を立てる。突然底が抜けてもおかしくない。
『今から五分ほど一颯君には眠ってもらうよ、その間に今後に必要な情報を開示しておくから』
何がなんだか分からないが、俺が返事を返す前には脳のブレーカーを落とされたようにブチっと意識は途切れた。




