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月が綺麗ですね。なんて告白はするものではない。

作者: 西脇 徳利

I love you を、日本人はそんなに直接的な告白をしないとして、月が綺麗ですねと夏目漱石は訳したという。そんなのは都市伝説で根拠はない、もちろん、面白い訳ではあるが。


「これは共に月を眺めるだけで心満たされる相手に、これからもこうした時間を共に過ごしたいとかそうした意味を匂わせる発言で、ストレートに好意を伝えたい恋文には向かないよ。古風なのはまぁ趣味だからいいとしよう、でも君、それを下駄箱なり机なりに入れるんだろう? 日も幾分早く落ちる様になったとはいえ……夕焼けとかの方がいいんじゃないかな。それでも不確実だが、朝に渡し、一緒に夕日を見ませんかとして、帰りを共にしたい旨を匂わせるとかね」


私の言葉にスマホに映った彼女はげーと呻いた。夜中に告白文の添削を求めて先輩に送りつける非常識な後輩だが、顔と成績のかわいい後輩である。


「ただ、この一文を除けばいいんじゃないかな、君の恋文。日を跨ごうという時間に添削求めてメールを送るのは、やめた方がいいと思うけれど、半ばまでの文は素直でいいと思う。だからこそ、最後の小手先感が浮くんだな。素直にね、好きですだとかでいいんじゃなかろうか」


私、死んでもいいわと返ってくればいいのかもしれないが、その返答も夏目漱石のものではないし同じ文への訳ではない。まぁ、そうした正しさは野暮なのかもしれないが、相手が返答に困るのは間違いないだろう。


私の言葉に少し嬉しそうに彼女は頬を染めたが、それ以上に困った顔でもじもじとし始めた。


「もしや、月が綺麗ですねが、送り先の相手に取って特別な意味ある言葉だったりするのかな?」


私の問いに、彼女は直接は答えなかった。さすがに踏み入った質問だったか、答えるには気恥ずかしかったのだろう。


「窓の外を見ながら、もう一度読んでもらえませんか」


私は疑問に思いながら窓の外を見た。今日は久方ぶりの快晴で、満月とはいかないが実に綺麗な月夜だった。


なるほど、素直にするべきなのは最後の一文ではなく私の読み方だったのだ。


「……明日も晴れるらしい、きっと夕陽が綺麗だろう」


私の言葉に、彼女は少し恥ずかしそうにはにかみながら笑った。

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