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転生したらお邪魔虫ビッチなんて聞いてない!  作者: 嶌与一
『攻略対象』が起きてきた
8/10

2ー1:ひとりめ

自分で設定作っといてなんだけど、箱庭が便利すぎてもう外に出なくていいんじゃないかなって思うこの頃。

 すっと背筋を伸ばして、トニイさんは去っていった。

 残された私はハンナを見上げる。


 人間に仕える事が喜びというロボットの意義。

 私が覚えている限りの『ファウンド・エデン』の情報。

 この2つから憶測するに、新しい職務は多分、目覚めたヒトさいしょのアダムこうほのお世話だろう。

 ならば、ここで『リリス』が駄々をこねるような真似をしたって何の意味もない。


「……行こっか、ハンナ」

「はい、フレンド・リリス」


 出入口でセーラとドミニクに挨拶してから、お手々繋いで田園へ。

 広いエレベーターに乗る。中は壁が白く光っていて、未来感がハンパない。

 階数ボタンにあたる部分にはめ込まれたディスプレイをハンナがタップすると、コオォンと硬質な音が鳴り、乗っている箱が動き出す。

 金属か何かを叩いた時みたいな高い音は、モーターが動く重低音に交じって、静かに続いている。

 前世でさえ名前と使い方を知っているだけの設備1つとってすら、私には理解できない未来技術の結集に違いないのである。


 ぽおん、と目的の階に到着を告げる電子音。両開きの扉が左右にスライドする。

 『箱庭』最下層で、面積は1平方キロメートル、天井の高さは25メートルの、コンピュータによる完全な制御がなされた円柱状の閉鎖空間。

 理屈としてはそうだ。


 けど、頬を撫でるこの爽やかな風はなんだろう。

 雨がさっと通り過ぎたような匂い。暖かな太陽の光。

 目の前に広がる穏やかな起伏。揺れさざめく葉。鮮やかな色の果物を実らせた木々。綿雲が流れる青い 空。


 途方もない景色が視界いっぱいに広がって、頭に浮かんだのは、オズの魔法使いだ。

 童話みたいなレンガの道が、今、足元にあって、私は何も言えないまま一歩踏み出す。

 蛇行した道は、背の高い農作物の裏に隠れていて、先が見通せない。かと思えば、遠くの方の丘の上に現れて、どこまでも続いていそうな気がする。


 まだ青い麦……稲だろうか。知識の脆弱さにしょんぼりしつつ、穂に触れてみた。

 手を伸ばしたまま歩くと擽られるような感じ。ちょっとだけチクチクで、そこもまた面白い。

 振り返ってハンナの顔を窺う。微笑んでるから、私は安心して駆……。


「オアー!」


 駆け出す勢いそのままに全力ですっ転んだ。


 ……なにかね?

 私はいつの間にやら体育会の保護者リレーで足を縺れさせる親になっていたとでもいうのかね?

 でも仕方ないんじゃけえ。リリスちゃんはほんの数日前に目が覚めたばっかの養殖ベイベーじゃけえ。バネのごとき筋肉はまだまだ発達しておらんのじゃけえ。


 不思議な事にズゴーンと倒れた衝撃はあれど負傷した痛みはなく、ついでに拗ねる心の余地もある。

 腕立て伏せの体制から重たい頭をふんぬっと上げようとしたところで両脇を掴まれて、ひょーいと宙に浮いた。

 仰ぎ見ると、心配そうな笑顔を貼り付けた、いかにも農家然とした風貌の男のヒト(ロボット)が私の体を抱えている。


「気をつけて、フレンド・リリス」

「……ありがとう」


 ええと、見たことある。ファーマーのロボットの、名前は……なんだっけ。


「R・サイモン、あなたの助けに感謝いたします」


 悩む私を知ってか知らずか、ハンナがさりげに口を添えてくれる。

 おお。サイモンさん。そうだった、彼はサイモンさんだ。

 ロボの中で一番背が高くて、ずんぐりしてて、30代っぽくて、もじゃもじゃ赤毛のサイモンさんだ。

 2人が会話を交わす隙に脳に叩き込む。ちなみにおこさまはひょーいの体勢から肩車へと移行済である。

 紛い物とはとても思えない太陽光がオレンジ色に反射する赤い髪は、案外硬い。ハンナの髪はダークアッシュのさらさらストレートで、匠の細やかなコダワリを感じる。


 とびきり高い、3歳児では届かなかった視界に映える風光明媚な光景。その果樹園から、


「あらっ、フレンド・リリス、畑の見学かな?」


 よく日焼けした肌に赤茶色の髪、朴訥がまるごと姿形を得たようなガイノイド3人組がこちらへ手を振った。


「うん、見にきたの」


 片手を掲げて振り返すと、サイモンさんがのしのしそちらへ向かって歩き始める。

 左右に揺れる開けた視線は実に愉快爽快。


 寄れば、小さな籠にいくつもの果物が積まれている様子が見える。



 左右の髪をそれぞれ3つ編みにして後頭部でバレットで留めてるのがマーサ。

 比較的恰幅がよくて肝っ玉も座ってそう。


 たっぷりの巻き毛を無造作風カールアップで括ってるのがドロレス。

 錆混じりの青い猫目で何気にスタイルがいい。


 外跳ねしたショートボブで鼻と頬にそばかすが散ってて一番明るい空色の瞳をしてるのがルース。

 手足も胴も細っこい。


 マーサが長女(しかも婿がいそうな風格を感じる)で、ドロレスが次女で、ルースが末っ子っぽい感じ。

 女の人同士が仲良くしてるのっていいよね~。癒されるわあ~。

 でも羨ましさが勝るの~。私ってば友達いない系女子だったからあ~。


「降りる、でしょう、か?」


 イイネ!

 サイモンさんの提案に「うん」と声を出して頷くと、両脇をわしっと掴まれて、ぐおーんと地面に着地する。


「ねえねえ。フレンド・リリス、いる?」


 そんな言葉に見上げれば、唇を横に広げてニコニコ笑顔でオレンジを差し出すルース。


 イイネ!

 「ありがと」と礼を述べて受け取って、そのまま香りを嗅いでみる。新鮮爽やか、いい匂い!


 木の根元に座って、ハンナに手を拭いてもらってから、もらったオレンジの皮をさっそく剥く。

 一房(ひとふさ)取って齧ると酸っぱくて甘くて顎の辺りがぎゅーってなる。んほー、うまぁい。

 田園を見渡せば辺り一面食材の宝庫だ。おいしいものはみんなにもおすそ分け。


「おっ、いいの? やったね。役得ってやつ?」

「もうっ、ルースったら……あら。私にも? ありがとう、フレンド・リリス」


 橙色の果実をぽてっと手の平に乗せて、ドロレスとルースがキャイキャイ掛け合いしてる。

 マーサが柔らかい笑みでそれを眺めてて、サイモンさんはなぜだかちょっぴり肩を窄めてる。

 2人もどうぞ。ハンナもね。


 今までこんな体験したことなかった。


「おいしいね。楽しいね、ハンナ」

「フレンド・リリス、あなたが幸せで何よりです」


 転生ってこんなに幸せなことなんだ。


 私の反応が面白かったのか、ルースが目をきらきらさせながら色んな果物を次々に渡してくる。

 それを斜め後ろに座るサイモンさんの膝の上に乗せていったら、あっという間に山積みになった。


「R・サイモン、大丈夫? いま籠によけるわね」

「ですが、R・マーサ。これはフレンド・リリスの望みでは?」

「あ。ごめんね、サイモンさん。困った?」


 マーサはかなり若いけど、何だかみんなのお母さんみたい。

 サイモンさんは気が優しくて力持ちって感じ。いたずらにちょっとだけ弱ってしまった様子で、私が謝ると丸っこい鼻先を人差し指で掻いて微笑んだ。

 ミカンっぽいのを籠に入れると、みんなもぽいぽい入れていく。

 ドロレスはとても器用で、皮の柔らかそうなベリーとかブドウとかをよけて、競争しようと誘うルースを上手にあしらっている。


 とても機械制御とは思えない、お昼前の太陽の日差しに、涼しくて優しい風。

 私達がそんな風に過ごしていると、突如――



「おいっ、そこでなにをしている!!」


 キンキン声の邪魔者が入った。

続きを待っています、と仰ってくださった方、ありがとうございます。

ようやくゲームの攻略相手の一人目が出せました。

正体は生意気な俺様(幼)です。

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