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1ー3:なんかみんなグイグイくる

どうしよう。はっきり言って、めちゃくちゃびびってる。

だってアンドロイド&ガイノイドとはいうものの、喜色満面カムカムウェルカム状態の成人男女が14人。

部屋を出ると円形のホールっぽい所があって、そこにお世話係が勢ぞろいしてるって圧巻すぎて現実についていけない。こんなのゲームになかった。


緊張と不安に押しつぶされそうで辛すぎてつい後ろを振り返ると、ドアは無情にもスーっと閉じた。

真っ白な壁の中で、ドアだった箇所だけピンク色になっている。多分リリスのパーソナルカラー的なやつだろう。


お世話ロボの輪からハンナが一歩前に来る。

「歓迎します、フレンド・リリス」

ハンナが口を開くと、みんなも続けて言った。

「歓迎します」


フレンドと呼ばれないのは、まだ知り合っていないからだ。

ロボットは杓子定規なきらいがあるので、自己紹介をし合ってないヒトを勝手に呼ぶのは失礼に当たる。


「ありがとう、みんな。私はリリス、よろしくね」

既に疲れを感じさせる両脚を内心で叱咤して、ようやくそれだけ答えてみると、ハンナを除いた13人が順番に私の元へとやってくる。

……人間じゃなくてロボなんだから、数え方は人じゃなくて体が正解なんだろう。でも、とてもロボットとは思えない。

手を差し出すと、動作を理解して握ってくれる。触れ合う皮膚が柔らかくて、温かい。


最初に握手をしたのは、白茶けた髪と深いブルーの眼をした、ややがっしりとした体つきのアンドロイド。オーソドックスなスーツが似合ってる。

「初めまして、私はR・ジャンダー。貴女の事はフレンド・リリスとお呼びしても?」

「よろしく、ジャンダー。あなただけでなく、他のみんなにも、私をフレンドって呼んでほしい」


「では、フレンド・リリス。私めは名をR・トニイと申します」

ジャンダーの後ろからスイっと現れたのは、銀髪のナイスミドル。

片膝を付く姿勢が様になっていて、なんだかとても執事っぽいアンドロイドさんだ。喫茶店とかじゃなく、洋館にいそう。


「よろしくね、トニイ。……質問してもいい?」

「ええ、何なりと」

執事さんっぽいって事は、お世話ロボの中でも地位が高いんだろう。勝手にそう決めつけて、私は現状確認を行う事にした。


「あのね、トニイ、ここにいるみんなはロボットでしょう?」

「はい」

「みんな仕事があるでしょう? どうしてここに集まったの?」

「はい。それぞれが己の職務に従事しております。

 箱庭における初めてのヒト、即ち、貴女を出迎える目的で、それぞれが徒歩で集合しました」


うーん、ピントがずれてる気がする。質問には答えてるけど、これは私の言葉選びが悪かったんだろうか。

「仕事を放棄して来た訳じゃないのね?」

「貴女を出迎える事によって生じる支障はありません」

「そう。なら、安心した」


「フレンド・リリス、質問は以上でしょうか」

トニイさんはニコリと笑んで立ち上がり、ピシッと中腰になった。

「貴女に自己紹介をしたいと待機しているものが、後11体おります」

「うん、大丈夫。分かった、ありがとう」


チェック柄のシャツや、無地のTシャツを着たアンドロイドとガイノイドが3人づつ。箱庭の最下層にある畑で働いてるらしい。

ベネット、サイモン、ティモシー。

ドロレス、マーサ、ルース。


フットマンのポールと、あとは先に挨拶を済ませていたジャンダーもフットマン。


メイドが2人。

エリザベス、ナタリー。それからハンナもメイドさんなんだって。


調理師に男女1人ずつ。

ドミニクとセーラ。


全員の挨拶が終わると、次はみんなが自分の持ち場を案内したがった。

物凄く理路整然と自分の職場を先に披露すべきか、いかに合理的かを主張しあうのは、笑ってはいけないんだろうけどおかしくなってしまう。

ロボットなのに、喜怒哀楽が表に出るから、やっぱり機械だなんて思えない。

しばらく立ちっぱなして疲れてしまったけど、みんな嬉しそうだから、付き合いたいなって思う。


私の様子を見かねてか、ハンナが動いた。

「フレンド・リリスは休養の時間です」

ハンナはきっぱり言い切って、私の肩に手を置いて、ゆっくり方向転換。穏やかだけど反論を許さない感じ。


背中から伝わるのは、がっかりというよりは、仕方ないって雰囲気。

でもちょっと申し訳なくなって、私は頭をめぐらせて、みんなに向かって声を出す。

「ねえ、みんな、ありがとう! また明日ね!」


「はい。また明日、フレンド・リリス」

明日は今日よりも動けるようになってるはず。明後日は明日よりも。

それで、段々、みんながどんな風に暮らしているか教えてもらおう。


部屋に戻り、ベッドに入る。

ハンナがすべすべした手触りのブランケットをかけてくれる。

腕を伸ばすと、温かくて優しい手の平が撫でてくれるから、私は眠くなる。


何だかぼんやりしてきて、ふんわり寝落ちしたいのに、頭の中に平淡な声が急に響いた。

「失敗だ」「処分しよう」


間違いだって言いたいのに、ゲームの中のリリスは何にも成功しなくて、失敗ばかりで、役立たずで、私もやっぱり駄目なんじゃないかって不安になる。

前世だって、生まれてこなければよかったって何度も思ったから。そのくせ、死ぬ間際には、死んでしまうのがとても怖かったから。


だから、立ち去ろうとするハンナに、つい甘えた。

「ねえ、ハンナ」

「なんでしょう、フレンド・リリス」

ハンナはロボットだから、絶対に答えてくれる。

機械には見えないけど、機械だって分かってる私は、ずるい奴だと思う。


「みんなをがっかりさせちゃうけど、私、実はヒトじゃないの」

「どういう事でしょう」

「私ね、ホムンクルスなの。隠してて、ごめんなさい」


私が告げると、ハンナは思案するように、一拍おいてから、顔を上げた。

まっすぐ私を見て、言う。

「フレンド・リリス、貴女が私に謝罪する必要はありません。

 そして、私は貴女の認識の間違いを指摘しなければなりません」

「え?」

「ホムンクルスの定義は、文字通り人造人間。正しく解釈すれば、ヒトが作ったヒト。

 つまり貴女もヒトであり、ホムンクルスがヒトではない、という事は、誤りです」


「……そっか」

「私は貴女の役に立ちましたでしょうか」

「うん、ありがとう、ハンナ」


ホムンクルスもヒトの一部か。

人間が人間を造るのは、赤ん坊だって精子と卵子が受精卵で分裂してどうこうなって造られるんだから、考えてみれば当然かもしれない。


「おやすみなさい、フレンド・リリス」

「うん……。おやすみ、なさい」

布団が暖かくなって、体がじんわり沈んでく。ハンナが遠ざかって、プシューっと音がする。

立ち去る前に、彼女は言った。

「しかし、貴女の懸念は、我々で共有しておく事にします」

そこは自分一人の胸に留めておきますとかじゃないんだ、と気が抜けて、私はすっかり眠りに落ちた。

次はロボットさん達の案内による箱庭内部の説明回です。

アダム候補は次々回くらいから出していければいいな……

彼らのキャラ名と軽い設定は付けてあるので、とりあえず先に活動報告に投下しておきます。

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