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1ー1:リリスは最初から詰んでいる

ひとまず、自我を持っていると判断され私の処分は保留となった。


小さな両手を眺める。

四方の壁のうち通路に面した部分はガラス張りで、そこに写るのは撫子色の髪と紅色の瞳を持つ、白い病衣のような服を着た幼女。


「うーん……

 さっきの研究者さん達はどう考えてもゲームに出てきたアンドロイドだし、

 この外見はどう見ても過去編のリリスだ……」


はあー、と長い溜め息が出る。

当然だろう。


私は母子家庭で育った。

小金持ちの両親から甘やかされ、娘から親にシフトチェンジしなかった母によって養育費を下らないガラクタで浪費され、離婚した父の所まで高校進学のための学費おかわりを私が恥を忍んで恵んでもらいに行った。

父の顔がとても呆れた表情だったのを覚えている。

私にじゃなくて、我が儘を改めず我慢を覚えられない母に。


工場みたいな所で働いてた父にもらった費用を少しでも返そうと始めたバイトは、けれど給料を家に入れろと母にむしられた。

別に悲劇でもない。よくある話だ。


高卒で家から離れた企業に就職し、ようやく独立したぞー! とゴキゲンなヒャッホーの小躍りから二年も経たないうちに、外国で起きたなんたらショックで会社が倒産し無事無職化。

以降は非正規の派遣とバイトで家賃と光熱費と食費をギリギリで確保しながら何とか食い繋いできた。


アラサーの後半戦へと突入した頃に不治の病が発覚し、あれよという間に容態悪化からのあっけない病死。

死ぬ前に、父は何回か面会に来た。ひどく悔しそうだった。父が望んだ身代わりも、高額医療も、現実には不可能だった。父にも私にも、不可思議な術を使う魔力や大博打じみた借金の担保なんてないのだから。

我が子に先立たれる自分の不幸を嘆く母を怒鳴って病室から追い払ったのと、巡回のお医者様に頼んで面会を禁止してもらえたのはちょっとスッキリした。


私は誰にも看取られず、独りで死んだ。朝の、巡回がくる前に。

自分の電源が落ちるみたいな静かな感覚の中で、心電図から流れるツーーーという無機質な音を聞いたのが最期。

これもよくある話だろう。


で、気付いたら唯一の趣味ともいえるスマホゲームの中にいた。


自分でも意味がわからない。


何が嫌って主人公じゃなくて悪役キャラ、しかも敵対組織とかじゃなく獅子身中の虫的なウザウザ阻害要因になってるのだ。

誰得であろうか。少なくとも私には利がない。ノット私得である。


いや、転生自体は、なんか、こう、ちょっとだけ期待してた。来世に期待、ワンチャン、的に。

生前に時々読んでたネット小説のテンプレによくあったから。

でも生まれ持ったスキルがしょっぱすぎて親とか勇者に見捨てられた後に実はスキルがぶっ壊れチートだと分かって今までバカにしてきた連中を盛大に見返すやつとか、

婚約者のいる男性に馴れ馴れしく接するヒロインに悪事を働こうとして断罪される悪役令嬢の過去になってて小市民モードの善人ムーブでバッドエンド回避するやつとか、

なんかそんな感じの、理解者を味方につけた成り上がりっぽい話だった気がする。


ぶっちゃけ思ってたんと違う。

いくら参考にしようと思っても、高卒アラサー喪女が狭い了見で触れてきたアニメ漫画小説等で転生するのは決してビッチ側ではなかった訳で。

しかしこの身は将来ビッチになる訳で。


「こんなの聞いてなァァアイイイ!!!」


となるのも無理はない。


なんせ私は喪女なのだ。親友どころか友達さえいない、多少接してきた同級生とは卒業と同時に縁が切れたコミュ障寄りの喪女なのだ。

今は人気(ひとけ)がない『箱庭』だけど、既に恐らくアダム候補という10人の美少年(美幼児?)達が培養機にスタンバってる事だろう。

アダム候補は全員そのデザイナーベビーで、そのデザイナーベビーは何故か男型しか作れない。

更に、彼らはイヴに選ばれて晴れて正式なアダムとなれるまで、誰一人として精通を迎えない。

色々と突っ込みたい……突っ込みたいけど乙女ゲーム的な都合なのでそこはもう修正不可能……!


は、さておいて、少女『イヴ』がアダム候補の誰かと親しくなるたびに、リリスはその相手を横取りしたがる。したがらなきゃならない。

リリスはホムンクルスだから。

ホムンクルスが生きるためには、男性の……その、アレが。アニマとかいうあのアレが必要だから。


でも、繰り返したくないけれど、なんせ私は喪女なのだ。青春を謳歌する機会のなかった喪女なのだ。

横恋慕? した事アリマセン。そもそも恋愛した事アリマセン。

っていうか恋って画面の向こうの二次キャラにしか感じた覚えがない。接触の可能性がない安心安全な一方通行だった。

プレイしていた『ファウンド・エデン』にしても、正解のある2択で、プレイヤー自信じゃなくイヴを通したものだ。


それが急に、「あなたはホムンクルスに生まれ変わりました。成長したらアニマを得られないと死にます」って運命を丸投げされましても、はいわかりましたってならんわー!!

イヴの選択肢はいつだってリリスの横恋慕を阻止してきた。リリスはいつも失敗して、つまり、ゲーム自体ですら『私』の参考になってはくれない。


これ、詰んでない?

クソゲーじゃない?


例え主人公の劣化版程度の能力しかないリリスが、主人公に大差をつけた美少女であっても。

今の時点でハイライトがオフしてるとはいえとんでもない美幼女であっても。


「あざといビッチなんて絶対イヤーーーー!!」


やれないもんは、やれっこない。

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