ヘイトとヒナヨ
狂宴は終わることはなく長い時が流れた…
ノールのとある青年は今日も日課の宴の過去の情報を見て考察を繰り返していた。
「んー…肉体を強化する場合はやっぱり食肉を行い、超常現象や自然現象を使うための強化をする場合には吸血、で間違いないかな。例外としては…」
ぶつぶつ言いながら、それらを自分用の資料に書き込んでいた。
「ヘイト!またこんなことばっかして…」
「ヒナ!これ見てくれ!法則を見つけた!肉体能力と自然能力のどちらを強化するかによって補食方法が違うみたいだ!」
俺の後ろから声を掛けたのは恋人であるヒナだ。
「もう…で、何?前も言ってたけど、その時には食肉しているけど火を使う人もいたから違うって納得したじゃない?」
「食肉は肉体能力の強化は間違いない。ただ強化したのは細胞の活性化と操作によって燃える物質の生成と発火を行ってる!でも、同じ現象を起こすにも効率が悪かったり、強化度合いの差で能力に優劣がある!」
「はぁ…普段からもっとそれくらいやる気出せばいいのに。宴に関することばっかしか全力出さないからヘイトのすごさが伝わらないし、いつまでもいたずらっ子だった印象のままって言われてるじゃない?」
「ごめん…」
恋人であるヒナは可愛いというより綺麗という言葉が似合う美人だ。スラリとしたボディーライン、切れ長の目にしゅっとした鼻、笑うと頬に線が入って八重歯が良く似合ってて猫そっくりで本当に可愛くて自慢の恋人だ。見た目も素晴らしいが、強く惹かれたのは強い芯を持っていても弱さは他人に見えないところでしか出せない内面を偶然見てしまった時に一目惚れしてしまった。
昔から何度も交際を求めては断られたが…根負けしたのか、やっと付き合うことができた。
「今日はもう仕事は終わったの?」
「朝から川に潜って魚は捕って皆に渡したし、昼に森で猪も捕ってきたから大丈夫!そっちは大丈夫?」
「次の宴についての話し合いに父様たちはまだ悩んでるみたいだけどね。どうせ決まったことに従うだけだからってお偉いさんだけ残ってる。」
ヒナヨはここらを治める副臣家の娘で、その家柄はこの国で2番目に発言力を持つ。
いつからか宴にて貢献した家系のみが姓を名乗ることが認められることになったらしい。副臣家はこの国では歴代2番目にユースティア制覇と到達回数を誇り、最大貢献家系の源家に仕える一族だ。
俺には姓はない。ただのヘイト。副臣家と同じく源家に護衛として仕えている家系だ。護衛として仕えているため、宴には自主的に参加することはない。
俺は誰かに仕えるなら自分で選びたいし、自由を妨げられたくないと当主の父と揉めてほぼ絶縁状態だ。俺が命を使うのはヒナヨのためだけだ。
今は川で魚を捕ったり山で鹿や猪を狩ったり、
木や竹を加工して暮らしている。時間があるときは過去の宴についての情報を自分なりに研究している。
「ヘイトは復縁しないの?もし、私と一緒になるつもりなら復縁するのが一番だと思うのに…」
「…ごめん。ヒナのことは何よりも大事だけど、それだけはできない。もし、復縁して結婚できたとしても、その場合は源家を第一優先にしないといけない。俺が一番優先したいのは、守りたいのはヒナだけなんだ。」
「もー…だったら早く認めてもらえるくらいになってくれないと困るよ?このままずっと待たないからねー?待ちきれなくても知らないよー?」
「う…うん、頑張る!」
「期待しないで適当に待ってるよー?」
この幸せがずっと続くと、この時にはまだそう思っていた。
いつからか、宴において食肉で強化を行う者達を人狼。吸血で強化を行う者達を吸血鬼と呼び始めた。しかし、肉体能力の強化の傾向が見られる人狼、自然現象や超常現象を起こす傾向が見られる吸血鬼ではあるが、両方とも少ないが例外もあった。その例外は、自らに施した強化の発展という形でそれを実現していた。
例外を除き、強化による能力で優れていた傑物には畏怖や尊敬を込めて爵位か階級を付けるようになっていた。
吸血鬼ならば公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の爵位を、
人狼ならば帥、将、佐、尉、曹の階級を、それぞれの強化タイプによって偉人に付け、どの能力が有用かなどを議論されたり子供達の憧れだったりにされていた。
中でも、強化の詳細がわからない吸血鬼タイプよりも、戦闘方法や肉体の外見からある程度推察が可能な人狼タイプは参考にして模倣からの発展も度々見られていた。