桜散る中で
見下ろせる景色が高度が低いことから麓付近と思われる。
麓から頂上には桜が満開で幻想的な光景だったが、徐々に麓側の花びらが舞っているため少しでも登って行きながら他者から生き延び、打ち倒さなければならない。
体力の消耗や効率から、まっすぐに頂上に向かうのではなく、頂上に向けて螺旋を描く感じで登り続けるように意識しつつ歩を進めると初めての遭遇を果たした。
向こうはまだこちらにの気配に気付いてないみたいだ。
どの程度の強化がされているかの確認もしていないが…この好機を逃すわけにはいかない。
気付かれてない有利を生かし、遠距離から先制攻撃をする。仕留め切れなくても向こうにダメージがあればそれだけでかなり有利に立てるはず…
足元の石をいくつか拾い、足音を消して距離を保ちつつ向こうの動きを気にしながら追い続けていく。
歩みが遅くなり、周囲には他の気配も感じない今が好機と、外した場合の次弾を反対の手にも用意してから全力で投石する。
当たれば一撃で決められる的として小さい頭を狙って、外して警戒されるより…的として大きい胴体を狙い、少しでも後の展開を有利になるようにしたことが良かった。
初弾が胸に命中し、苦し気に膝から崩れかけている。思っていた以上の速さが出た上に狙い通りに飛んで行った石に強化された効果を実感した。
いくら決定的な有利に立ったとはいえ、弱った相手からの反撃を貰う危険があるのに近付いての追撃はしない。動きの鈍った相手を遠距離から更に追撃できる利を捨てることはないため、用意していた石を全て撃ち込んだ。
数発が頭部に被弾し、全く動かなくなった。
念のためしばらく様子を見ていたが、擬態ではないようだ。
周囲に気にしつつ、近寄って行く。
元は女であったソレは完全に事切れていた。
外見からでは何を強化していたかはわからなかったが、牙はなんとか残っている。それになんだか左胸辺りが光っているように見える…
なるほど…倒した後の本能に、か。
抑えることのできない強い衝動が体を襲う…
この左胸の光っているものが強烈に本能を刺激してくる…
これを喰らうこと以外、何も考えたくない。
欲望のままに強化された力で骨や肉を引き裂き、中身をまさぐる…
そして、あるものを掴み引きちぎりながら取り出す。
出てきたのは光っている心臓だった。そしてそのまますぐに喰らい付き、一気に喰らい切った。
謎の果実を食べた時と違い、体が熱い…罪悪感も嫌悪感も湧かない。
ただ、もっと欲しいと体が強く求めている。
これで更なる力を得ることができ、次の獲物を狩りやすくなる…
次の獲物をより狩りやすくするために願ったのは爪にした。必要に応じて伸びたり収納でき、鋭利で強靭な爪を…
今回はすぐに確認できた。
次なる獲物を求めて、頂上を目指して螺旋を描きながら進んで行く…
道中で何度も狩り、何度も襲われたりしながら返り討ちにし、大分登ってきた。
獲物を喰らい、強化された獲物であるほどに、喰らえた時の強化は大きく、とてつもなく旨く感じた。
格下過ぎる者を喰らいまくったのか、隠れてはいるが動けなくなっていたため、ノーリスクで狩れた。
補食中で隙だらけな相手や、広場で会話した相手もいたが、なんの躊躇いもなかった。
身体能力を強化したのではなく、風や火を操る相手もいた。そいつらは心臓を喰らうのではなく、血液を摂取しているようだった。
頂上にたどり着き、見下ろして桜を確認すると、この付近を除くとほぼ散っている状態だった。
まだ生き残っている者がいたとしても、桜が散っていない部分にしか活動できないことを考えれば…数人もいないだろうと思うが、警戒しないわけにはいかない。無条件にやられてやるわけにはいかない。
頂上の1本を除く全ての桜が散ったことを確認し、最後の一人になったことを実感した。
どうやら生き残れたようだ。
「ユースティアへ向かう前に勝ち抜いた褒美に誰かを3人殺せる権利、もしくは誰かを一人生き返らせる権利を選べ。恨みがある者を殺してもいいし、大事な者を生き返らせることもできる。ただし、今回の参加者は生き返らせたとしても元の場へ帰すことはできない…」
特に恨むほどの関係も築いてないし、まだこの世界でそれほど生きていないため、死に別れた者もいないが…今回の参加者を生き返らせた場合どうなるのかが気になったので最初に狩った女を生き返らせることにした。
「生き返らせたが元の場に帰せないため、桜禍の外へ送った。また、競わず散った桜の外へ出ようとした者の分はその果実から得ることができる。強化が終わり次第ユースティアに移動する。」
散らずに残っていた桜の根元から広場で見たものとよく似た果実が生えてきたので躊躇なく食べて、更なる力を得た。
次は自分と同じく勝ち抜いた者達4人と争う。
最低でも同じ強化度合いで闘えるうちに1人を狩らなければ…出遅れたらその時点で不利になる。
理屈はそうだが…もう体があの味を強く求めている。
もういろいろ疑問に思うことはやめていた。早く喰らいたいという欲望に身を任せた…
それぞれの山からは大陸の反対側に向かい、川が流れていた。
葉脈のように本流が真っ直ぐ伸び、そこから細い支流が大陸の端々まで行き届いている。
それぞれの山の桜が満開に咲き、散っていく花びらが川の流れに乗り大陸に行き渡る。
山の桜が散っていき少なくなるにつれて、生き残っている者達も減っていく。
流れる花びらは倒れた者の血を吸っているように徐々に赤みを増していく。
最後の1本が散り、血のような真っ赤な花びらが流れていく。
そして…
「今回勝ち抜いたのはノールのシジマ。ノールには鉄が大地から得られるようにした。
敗れた者の中から優れていた者は人以外のモノとして新しい生を与え命有るものはニルヴァへ送る。
シジマは桜禍には戻れず、ユースティアに留まることも認めない。桜禍の外の大陸へ送ることになる。その大陸でも他者を喰らえば強くなることができる。
それ以外で望むものを何でも一つ叶えることができる。何を望むか答えよ。」
「俺が望むのは…」
桜が咲くと始まる宴は、これから幾度も繰り返されていく…