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悲報:俺氏、死んでも働かされるブラック企業に強制就職

チートで回りが驚くのは基本ですよね

 俺は死んだ。間違いない。


 異世界転生して即死んだ、何が何だか判らない。何が判らないかと言えば死んだのにあの世らしき場所に逝ってないというのが謎だ。さっき死んだときは気づいたら居たのに。

 そこにさく、と草を踏む音がする。どう頑張っても体が動かない現状、見えるのは足先だけだが、複数の人間の様だ。


「なんだこりゃ?こんな所で死体たぁ、運がいいやら悪いやら……」

「けど、見たことない服着てんな、売れば結構いい金になると思うぜ?」

「おし、お前ら、回収しとけ、あとは……新入り、好きにしろ」


 何人かのいかにも山賊か蛮族らしき格好をした男たちが、俺の体をまさぐり、服をかっぱいで行く。抵抗したいがそもそも死んでいるので俺がどんなに頑張っても指一本体は動かなかった。下着まで剥ぎ取られて、完全に素っ裸。それでも寒さ一つ感じないのは、やはり死んでいるという事か。

 そこに一人の男がやってくる、中年太りで脂ぎった、禿頭の……よく見れば分厚い脂肪の下は筋肉ががっちりと張り巡らされているようで、見た目通りのデブではなく、力士のような瞬発力とパワー、防御力を持っているであろう事は予想できる。


「フヒヒ……良いですなぁ、白い肌にミステリアスな黒髪、引き締まった肉体……ぐふ、ぐふふふふふふ……これは色々滾るというモノですぞ、えぇ」

「……なぁ、やっぱこいつ仲間にしたの早まっただろ」

「いうな、ネクロマンサーとしては超一流なんだ……ただ、趣味嗜好がホモのネクロフィリアという最悪の状況なだけで……いや、趣味嗜好を合わせたら最良なのか? 」

「それただの最悪だ! 」


 まったくだ。そう思っていると視界が暗い光、としか表すことのできないものに包まれた。

俺の意思とは全く関係なく、体がゆっくりと起き上がる。視界に映ったハゲのデブネクロマンサーの杖から怪しい光が発せられ、俺を包み込んでいた。


「ゾンビ作るのはいいけどよ、腐る前に破棄しろよ?」

「腐敗防止の魔法もかけてありますから、そうそう腐るものではございませんぞ!それに、腐乱した死体というのもそれはそれで趣が……」

「判った、判ったから詳しく説明すんな」


 ネクロマンサーをけしかけた眼帯の山賊……おそらくこの山賊達の頭だろう男が、心底嫌そうに言う。実際嫌なんだろう、俺だってこーいう奴の相手するのは嫌だと思う。


「さぁ、我が作品よ、ご挨拶なさい」


 ネクロマンサーの命令に従い、俺の体が勝手に深々と頭を下げる。


「さて……ぐふふ……これはもう、我慢しろという方が無理、というモノですなお頭様」

「いや俺お前の趣味欠片も理解できねぇし。ヤるなら見えない聞こえない所でヤれ」

「ぐふふ……それならば少し離れた物陰などよさそうですな」


 まて、行かないでくれお頭!俺をこいつと二人にしないでくれお頭!!


「……いや、死体の上に男とかないわ、お前異常だわ」

「ぐふふ……それは最高の誉め言葉ですぞ」


 うぉい!?俺を歩かせるな!?木に手を付けさせて中腰にさせるな!腰を持ち上げさせるな!?

助けて!助けてくれお頭!!おかしらぁーーーーーーーーーーーーっ!!!






しばらくお待ちください







 それから数時間、俺は死んだ目をしたまま……いや実際死んでるんだが……魂まで死んだ目をしたまま、ハゲデブネクロマンサーに犯されていた。


 俺……童貞なのにな……処女だけ奪われるなんてな……


 ごめんな、俺……



 俺、穢されちまったよ……



 視界に入った足を伝って流れ落ちる嫌に粘性の高い謎の白い液体の正体は……考えたくない。



***


 その後、俺の体を「丹念に丁寧に」清めたネクロマンサーは、俺の体をアンデッドとして動かしやすくするための処理に奔走した。痛みやすくなる原因の内臓を抜き、その一つ一つを愛しそうに眺め、大切に保管していく様子には吐き気すら覚えた。

 なお、途中で様子を見に来た手下の人は吐いていた。吐き戻しながら涙を流して全力で逃げ帰っていた。是非もなし。誰だってそーなる。俺だってそーなる。腹から抜いたばかりで血の滴る腸を両手に持って恍惚の表情を浮かべながら愛の言葉を囁きつつ頬擦りしているデブを見れば誰だってSANチェック失敗する。一時的狂気に陥る。俺?死んでるからね、2~3週回って逆に冷静になってる。実際腹裂かれようと内蔵力づくで引っ張り出されようと痛くないし。

 そうこうしているうちに、処置は完了したらしい。デブは俺の体を見て「素晴らしいですぞ、まさに吾輩の最高傑作の一つと言えましょう……ぐふふふふふふ」などと悦に入っていた。


「で、それが完成したアンデッドか」

「ぐふふ……その通りでございますよ、お頭様ぁ……ぐふふふコポォ…」


 血抜きがされ、内臓などもおおよそ抜かれた俺の体は、相当に軽くなっているだろう。それでも、人と同じように動けるのはさすが魔法という所か。


「しっかし……縫いあとに目をつぶればただの痩せガキだな、戦えるのか?」

「なんぞ武器防具があれば、そこらの兵よりいい仕事いたしますぞぉ?コポォまずはこやつのステータスを確認くださいませ」

「いやそれっくらい自分で開かせろよ」

「お忘れですかな?お頭様、こやつはアンデッド、つまり元はただの死体でありますれば」


「そうだったな」とぼやきながら、お頭が「サーチ・ステータス」と呪文らしきものを唱える。大して興味なさそうだった表情は、すぐに驚愕に彩られた。


「おい……なんだよ、こいつは……?」

「素晴らしいでしょう?まるで神に愛された、神の寵児のようなスキルだ」


 恍惚の表情で語るデブの言葉を無視して……お頭は愕然とした表情を続けている。


「身体再生lv10、武芸百般、槍聖、剣聖、弓聖、騎乗lv10……ありえねぇ、化け物じゃねぇか」

「というか、ありえねぇ、ある訳ねぇ……身体再生lv10だと……?身体再生はlv2が確認されてる限界じゃなかったのかよ」

「あぁ、そのスキルでしたら我が魔術によって一部機能を制限され、手足の瞬時復元や、損傷個所の短時間での再生、程度にまで抑えられておりますぞ。勿論せっかく抜いた内臓が再生する、なんて事もありえませんぞ!ドゥフフフフフフフフ! 」


 自慢げなデブの話を、最早だれも聞いていなかった。ツヤツヤとした笑顔を浮かべるデブと反対に、真っ青になるお頭始め幹部の方々。


「おい、お前ら……手下どもをたたき起こせ、すぐにこの地域からずらかるぞ」

「うす」


 即座に、お頭は判断を下した。


 危険に対して即座に反応できる、いいお頭だった。

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