幸福な娘
今回から完結まで0時投稿します。
その内、見直しかけますが内容は変わりません。
あの後、どこをどう通って実家に帰ったのかミーニャは覚えていない。
気がつけば部屋の布団で震えながら縮こまっていた。
朝になれば両親が帰ってくる。二人が帰ってきたら急な用事が出来たと言って、ミレアに帰ろう。
ミーニャはそう決意して、鞄に荷物を詰めて着替えをした。
そして、一睡もせずに両親が帰ってくるのを待った。
朝日が昇り、周囲の家々が朝食を食べ終えた頃、両親は二人して帰宅した。
「おかえり、私実はーー」
そこまで言いかけて、ミーニャは母に抱きしめられた。
「ミーニャ!おめでとう、貴女もついに番を見つけたのね」
『番』という言葉にミーニャは大きく体を震わせた。
「ミーニャ、ローウェル様から話は聞いたよ。良かったなぁ。あの有名なローウェル副隊長が相手とはな」
嬉しそうな両親とは異なり、ミーニャの顔色は段々と青ざめていく。しかし、喜びに湧く両親はミーニャの様子に気づかなかった。
「聞くところによるとローウェル様とグイド君の部隊は違うが仲が良いらしくてな。昨日も仕事帰りにわざわざグイド君にお祝いを言いに駆けつけたところで、お前に出会ったらしい」
二人は口々に運命だとか、うちの娘達は幸運だとか言っている。
違うのだ。ローウェルと出会ったのは昨日ではなく十年前で、ミーニャは彼にものすごく嫌われている。
次に会ったら、きっと彼はミーニャを拒絶するだろう。
そうなったらミーニャはもう立ち直れそうにない。
ミーニャの顔色は真っ青を通り越して、真っ白になっていた。
しかし、そんなミーニャを知らずに父がさらなる爆弾を投下した。
「今日の午後からローウェル様がこちらにいらっしゃるから準備をしておきなさい」
頭が理解するより先にミーニャの視界は暗転した。
ミーニャは何かが床に倒れた音と母の叫び声を最後に意識を手放した。
ミーニャは夢を見ていた。
とても幸福な夢だった。
目の前にはローウェルがいて、ミーニャに甘くとろけるような笑みを浮かべている。
そしてローウェルはミーニャの頬に手を添えて、耳元でソッと囁いた。
かつてローウェルが発した言葉とは正反対の意味を持つ言葉だった。
本当はずっと欲しかったその言葉にミーニャはうっすらと涙を浮かべた。
鼻腔をくすぐる甘い匂いにミーニャは一気に覚醒した。
何の匂いだろうかと働かない頭で、周りを見渡してからミーニャは小さく悲鳴をあげた。
寝ていたミーニャの傍に美しい黒髪と黄金色の瞳を持つ青年が不安そうな顔をしてこちらを見つめていたのだ。