王都にて
数ヶ月ぶりの王都は秋の気配がしていた。あちこちに植えられた街路樹は色づき、その葉が風にそよいで今にも落ちていきそうだ。
この十年で何度か帰省はしているが、衛士として働くローウェルに会ったことはない。
有名人であるローウェルを避けるのは容易かったし、ただの針子と衛士様では出会う機会も当然ありはしない。
もっともローウェルは季節毎に開催される『番探し』に参加しているので、ミーニャが出席していれば顔を合わせていただろう。
十八になれば皆が当たり前に参加するそれにミーニャは数えるほどしか参加したことがない。
ローウェルを避けているのもあるが、ローウェルが『番』であることがわかっている以上参加しても無意味だし、めでたく『番』が見つかった人たちを見るのは辛かった。
それでも両親や友人達の手前、参加しないわけにはいかない。
それもローウェルが参加しないような小規模なものだけ、友人に『番』が見つかるまでの数回顔を出した。
そのうちに適齢期を過ぎても『番』の見つからない娘に両親は王都で行われる大規模な『番探し』を勧めてきたが何かと理由をつけては断った。
そんな娘の様子に両親も諦めたのか、時折思い出したように『番』の話を聞いてきたが「見つからないわ」と言って誤魔化した。
「姉さん!」
実家に帰ると栗鼠獣人の妹が丸く大きなチョコレート色の目を輝かせ、同じチョコレート色の髪を揺らしながら抱きついてきた。
九歳年下の可愛い妹はミーニャの自慢だ。
「リズリィ!元気そうで良かったわ」
「姉さんこそ!」
玄関口で最愛の妹と再会を喜び会っていると、奥から父と母、それから見知らぬ背の高い男性が姿を現した。
彼が妹の『番』なのだろう。焦げ茶色の髪と瞳が優しげにそれでもって熱っぽくリズリィを見つめている。
「おかえり。ミーニャ」
ミーニャによく似た父と、妹によく似た母がミーニャをギュッと抱きしめた。
「父さん、母さん、ただいま」
そう言ってミーニャも二人を抱きしめ返した。温かで懐かしい匂いにミーニャはホッと息を吐いた。
「そうそう!姉さん紹介するわ。彼が私の『番』ーーグイドよ」
「初めまして、お義姉さん。グイドです」
グイドは大きな手をミーニャに差し出した。
差し出された手にミーニャも手を差し出して、握手を交わした。
「初めまして。リズリィの姉のミーニャよ。これから妹をよろしくね」
「こちらこそ!よろしくお願します!」
握手をする手に込められた力が強くなり、ニカッとグイドは笑った。
人の良さそうな笑顔にミーニャを思わず笑みを返した。
熊獣人だけあって少し強面だが、グイドは可愛い妹を任せても良いと思えるほど良い男だった。
気遣いも卒なく、性格も穏やかで、話していて嫌味がない。
まだまだ新入りとは言え衛士様であるし、超優良物件と言っていい。
妹の幸運に両親もとても嬉しそうだった。
自分の花嫁姿を見せてあげられそうにない分、妹が良い相手と幸せな結婚をしてくれることにミーニャも嬉しくなった。
モヤモヤしていた気持ちもいつの間にかどこかへ消えて無くなっていた。