表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

漫才の台本

漫才「ビルディング」

作者: 沢山書世

漫才12作品目です。どうぞよろしくお願いいたします。

「確かにこの住所で間違いないんだけどなあ。看板にも三十世紀いろはにビルディングと書かれてあるし・・・でも、この建物は平屋建てだものなあ」

 ドアが開けられて、中から男性が出てきた。

「すみません、いろはにビルディングを探しているんですが、ここ以外もあるのでしょうか?」

「いえ、ここだけですよ」

「三十世紀不動産の人事部に用がありまして。いただいた書類では九階となっているんですが」

「ええ、人事部は九階にあります」

「そう・・・ですか」

「ここが十階。んで、すぐ下が九階ですわ」

「私の目には、ここは一階に見えるんですが」

「昔はね」

「は?」

「昔は一階だったんだけど、今は十階なんですわ」

「わからないんですけど・・・」

「地盤沈下で、ビルの九階から下が地下に潜っちゃったんですよ」

「はあ」

「一階は、一般のビルでいうところの地下九階にあるんです」

「理解しました」

「よかった、あなたは呑み込みが早い方ですな」

「ありがとうございます」

「この辺だけ地盤に問題があったらしくてね。自社ビルで、設計も建築も自前でやってきましたから、どこにも文句を言えませんわなあ、ははは」

「はあ」

「隣にあるビル、二十階建てに見えますでしょ」

「ええ」

「元々は百階建てで計画されていたんですよ。日本一をめざすっていうんで張り切っていたんですけどねえ」

「はあ」

「それが、建てはじめからじわじわと沈みだしましてね、端から見ていてもやばいなあとは感じていたんですけどね。造ったそばから沈んでいくんですから。で、完成時には、見える部分が三十階、残りの七十階分は地下になってしまいした。それからも沈み続けて今は二十階建てにしか見えません」

「はあ」

「地下七十階でも立派に日本一でしょうけどね。あっ、これは余談でしたな。いや失敬失敬」

「いえいえ、貴重な建築史を学ばせて頂きまして、ありがとうございます」

「差し支えなければ、私が九階にご案内しましょう。ご用件は?」

「入社試験を受けに来たんです」

「それはそれは、受かるといいですね」

「頑張ります」

「あ、帰るときには、周りの景色、よく覚えておいた方がいいですよ」

「なんでですか?」

「まだ沈んでいるんですよ」

「そうなんですか」

「この一階も来年にはあるかどうか・・・」

「え?」

「あなたが初出勤するころには、屋上しか見えなくなっているかもしれませんねえ。そうだ、地面に目印を付けておいたらいいですよ」

「建て直さないんですか?」

「うちの技術ではねえ・・・」

「よそに頼んだらどうでしょう」

「お金がないからねえ」

「そうですか」

「試験、受かるといいですね」

「はあ」


読んでいただき、どうもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ