01
その滝は地球にあった。
奥深い森に囲まれて、あまり高くはなかったが、流れは激しく下の池を打ち、飛び散る水飛沫が辺りに霧のような靄を作っていた。
人も来ぬその池の水は冷たく、ひんやりと冷気が上がっている。
しかし、その水は不思議と冷えはしたが凍ることはなかった。
流れ清められ、その池の水の留まることもなかった。
夜になり森が眠りにつくと、滝は低い水音を闇に溶け込ませ、ドウドウと静かに森を揺らしていた。
ある日、一頭の熊がその滝に喉を潤しにきた。
真夏でも冷たいその水を熊は旨そうに飲んだ。
口を池に付けて眼だけ滝の方に向けていると、靄の奥、滝壺の辺りに熊は淡い白光を見た。
水飛沫が邪魔をして、時々ちらりと覗き見える程度だが、滝壺の底に、確かに白くぼんやりとした光が見える。
気を取られ、足を岩の苔で滑らせてしまい、熊は池に落ちてしまった。
そこは滝の落ち込む辺りであり、熊は水流でみるみるうちに滝壺に呑み込まれてしまった。
底まで落ちると熊は堅く瞑っていた目を開いた。
白光が幻想的に水中で揺らめく。
熊は爪でそこいら中にある直径五センチ位の白光を引っ掻いてみた。
少し硬い感触がする。
小石のようだ。
熊はそれを二、三個口に含むと水を掻いて地上へ向かった。
口の中の石は、冷たくフワフワと漂っている。
水面から顔を出し、いっしょに口も開けると、小石が転がり白光を放ちながら空へゆっくりと昇っていった。
森の周囲に住む人々は、その日から森に浮かぶ白い星を見ることとなった。
「白い星」
宙に浮くその鉱石の発見から、人類の進歩は目覚ましかった。
宇宙への憧れと破壊し尽くした地球。
宇宙CS。
「白い星」の翼を得、天へ飛び出した人類。
宇宙生活百年目。
人類は地上を忘れた。