三話 バトリング
──無国境世紀107年4月 地球
『熱く滾る闘志! 弾ける汗はビームに、肉の身体は鋼鉄の鎧にッ!
君は知っているか!?
無敵の鋼鎧と、最強の操縦技術ッ! 観せることにこそ意味があり、魅せることに意義がある! 喝采をもって祝福しよう! 流儀を忘れ去ったこのクソッタレな時代に差し込む一筋の光明を! 燦然たるグラディエータをッー!!!
さあッ、英雄共よ競え! 不屈の意思を強襲戦躯に宿らせて、俺達を魅せてくれッ!!
今こそ開始するぞッ! さあッ今だッッ、みんな叫べ、魂が望むままにッ!!!
行くぞ! クラァアアッッッッッッシュッ!!! オーッブ、スティィイイイイイイイイルッッッッ!!!!!』
熱狂。熱狂。熱狂。
スポットライトが淫蕩な光を無差別に振りまき、炸裂した閃光のプリズムは広々としたアリーナを猥雑に染め上げる。人々は救いを乞うように天にてのひらを伸ばし、大地を揺るがさんばかりの歓声が反響する。退廃の宴がソコに繰り広げられていた。
さながら闘技場。
古式ゆかしいアリーナの中央には、市街を模したエリアが展開し、その端と端には物々しいゲートが設置されて、それぞれ赤と青のランプが点灯している。
観客席を見下ろす位置にある実況席のそばには、巨大な電光掲示板が設けられていて、そこには日時からオッズ比、選手ABと操縦士の名前に勝ち数などが表示されている。
広大なアリーナに比例して、巨大な観客席に腰を下ろす人の顔ぶれはさまざまで、例えば、柄の悪い者、人の良さそうな者、貧相な者、比較的裕福そうな者──など、客層は幅広い印象であった。誰もが一様に興奮した面持ちで、当たり前のように口汚くヤジを飛ばす。
その者達の合間を、すました顔の酒売りがつまみを片手に売り歩き、思い出したように時折、妙な因縁をつけられては気分の悪そうな顔をして通り過ぎていく。慣れた対応である。
夜も更けて、時刻は深夜零時。良い子はとうの昔にベッドインをすませているような時間帯だが、熱気に熱気を混ぜ込んだような盛り上がりようを見やればクラッシュ・オブ・スティールというバトリング競技がどれほど支持されているのか、わかるというもの。
『早速行くぞッ! 一戦目からいきなり今回屈指の注目のカード! クライマックスが来た!』
お調子者の実況が明るく宣告する。
彼のキーキー声に合わせるような緩慢さで、もったいつけるように青ランプ側のゲートは開かれていき、徐々にその奥側に潜むモノの全貌をつまびらかにしていく。
ウィィ、と貨物用のリフトがせり上がってくる機械音をご丁寧にも会場各所のスピーカーで拡大し、実況の声を掻き消さんばかりに排出されている。
『ブルーコーナーからは、新人気鋭のチャレンジャーッ! 元星間連邦軍のエンジニア様がこのご時世にわざわざ地球にまでやって来て、この素晴らしい催しに参加してくれたぞッ! なにが目的なんだ! いや、もちろん俺達はいつだってお前を歓迎しているぜ! いよっ、最高のパフォーマー!
数多の強敵達をスクラップに変えてきたのは、ジャンク品を一から組み直して独自に造ったとかいう、ある意味ワンオフのスーパーロボットッ! 趣味とロマンの賜物だッ!
見てくれは時代遅れのウスノロだが、大出力のスラスターを四つも取り付けているおかげで意外に素早いぞッ! ノロマと思って気を抜いた相手は自慢のE.ガントレットでスクラップにしてやるぜッ!
型破りの造り屋にして、前代未聞の壊し屋ッ! その名も―ッ! ジャァックッ、ボルトォオオオオッッ!!』
ガチュンッ。リフトの到着音。
少し間を空けて、半開きのゲートにかけられたのはコバルト・ブルーの装甲に保護された、黒いマニピュレータである。ギギッ、と一瞬だけ拮抗するような音をさせたあと、無理に門はこじ開けられ、その奥から演出用のスモークとライトに照らし出されて姿を現したのは、ボディビルで言うところの、ダブルバイセップスのポージングを取った青い機体。
その機体のシルエットといえば、今時のABとしては過剰なほどに重厚かつ巨大であって、とにかく軽量化。とにかく小型化、操作性の簡略化という時代の流れに真っ向から否を突き付けるような様相であった。
CXA‐019 〝ネリオルⅡ〟を素体にして、胴部に増設された特戦用強化パッケージの追加装甲と背部の追加スラスター。更に自作と思われる特殊合金製の追加装甲が腕部や肩部、脚部に外付けされ、機体の嵩を増している。
武装は両肩部にマウントされているヘビー・キャノンが合計四門、両腕部に取り付けられた対近接装備のE.ガントレットに腰部に取り付けられた手投げ式のE.スラッグのコンテナ。挙句、膝の部分にはいつ使用するかも知れないような、小型のドリルまで取り付けられている。
装備する兵装のいずれもが戦力評価不十分で廃棄されたものとのウワサで、引き換えにもはや携行が当たり前となったE.デバイスを積載しない様子は、なるほど確かに。清々しいほどロマン主義であった。
時代に逆行した思想は、効率を思えばバトリングというほぼ真剣勝負と言ってよい場において淘汰されて然るべきモノなのだが、そのAB──〝リファイン・ネリオル・ビルドアップ・スペシャル〟を迎える観客の反応は概ねのところ好意的だった。
本来、地球生まれにとって宇宙生まれというのは基本的に嫌悪すべき対象であって、例えばその正体を明け透けにした場合、普通は罵声と共に石や汚物を投げつけられるのが定例なのだが──。しかし、今日この日、そこに至るまでに彼が魅せてきた英雄的立ち回り、ロマン主義なやり方があって観客たちはすっかり、ジャックボルトという新人気鋭のバトリング選手に骨抜きにされたのである。
「アーイ、アーム、ナンバーワァーンッ!!」
ズシンズシンとアリーナへと歩を進め、わざわざコクピットから身を乗り出してまでジャックボルトは宣言する。スピーカーを通さない肉声だったが、そのバカ声は集音機に拾われ、拡声されてアリーナの隅々にまで届く。
筋肉質の肉体を見せびらかすようなポージングのまま、会場中央の巨大モニターにデカデカと自分が映されているのを確認し、続けてこれでもかとパフォーマンスを行いだした。
数分もそれをやれば満足したとみえて、一つ頷きをしてから、リファイン・ネリオル──〝リ・ネリオル〟へと戻る。そしてまたABでもポージングを取った。ド派手なパフォーマンスである。
ともすれば、ちょっと頭の悪そうな内容でもあったのだが、観客は喜び、割れんばかりの歓声が瞬時に巻き起こる。一部では青と銀の横断幕まで振られ、その内容は、〝ジャック・オブ・クラッシャー。彼こそナンバーワン〟や〝ザ・グラップラー。彼こそ英雄〟など、その人気ぶりはもはやアイドルかと錯覚さえしてしまうほどだ。
『レッドコーナーからはチャンピオン! 半年前、このクラッシュ・オブ・スティールに彗星のように現れ、あっという間に頂点をかっさらった無敗のAB乗りッ! その経歴の全ては謎に包まれ、確かなことはメッチャ可愛い女の子ってことと、デートに誘っても冷たくあしらわれちまうってことだけだッ! チャンピオーンッ、俺だ! デートしてくれーッ!
それはそうと、並みいる挑戦者共を鉄くずの山に変えてきた彼女の愛機は、今や博物館でしか見かけない骨董品のドズールッ! 金はあるんだろうからさっさと高性能ABに乗り換えちまえばいいのに、よっぽど好きなのか! なんか重いぞチャンピオンッ!!
スティール・エア・ヒット誌なんかでも散々言われてるが、彼女のドズールは正真正銘の骨董品ッ! もしかして時代遅れの皮を被った最新機なんじゃ、なんて心配は無用だぞ! だが、油断は禁物だッ! オンボロだと思って甘く見てると、対装甲ダガーで八つ裂きにされちまうぞ、気をつけろッ!
縦横無尽の操縦技術と壊れ損ないのハーモニーッ! チャンピオーッン! フィィーーアアアアアッッ!!!』
騒ぎが一通り収まるのを待って、実況者は私情の混じりきった紹介をする。
ジャックボルトの時とは違い、スムーズにゲートが開く。ライトとスモークに演出されて登場したのは、ところどころの塗装が剥がれて銀の装甲が露出した漆黒の騎士甲冑。リ・ネリオルとは違い、何のポーズもとらず、ただ静かに佇むのみ。
出迎えの歓声が止むのを待ってから、ドズールは気負いのない挙動でゆったりとアリーナへ歩を進めていく。古めかしく傷んだ装甲が胡乱なライトを乱反射して、戦意を示すように凶悪に輝いた。
☆
『チャンピオン! アンタの天下は今日でおしまいだッ! いいか、よく聞けよ!
今日! この日! この俺がこのバトリングの頂点に立って、アンタがチャレンジャーの位置に引き摺り下ろされる! 覚悟しやがれ!』
『……ずいぶんと自信があるみたいだね、オジサン。けど、そういうことはちゃんと結果を出してから言わないといけないよ。……じゃないと、恥をかいちゃうからね』
『デカい口を叩いてられるのも今だけだッ! 見ろよ、この巨体をッ! この重装をッ! 俺のカワイ子ちゃんが肉食獣なら、お前のソイツは腰の砕けた小動物だ! さっさと尻尾を巻いて逃げちまった方がケガも少なくて済むってもんだぜ!』
『おあいにくさま、戦いに背を向けるのは趣味じゃないよ。……そっちこそ、大事なオモチャがスクラップにならないうちにコウサンしちゃった方がいいんじゃない?』
『ぬかせよ! そんなオンボロで、どうやってコイツの重装甲を突破するってんだッ』
『近寄れるなら、ダガーで抉っちゃうけど?』
『はッ、馬鹿も休み休み言え! こっちの間合いに入り込んでなんて見ろッ。イカしたドリルをソイツにぶち込んで、キッタねえ穴ぼこをひとつ増やしてやるよッ!』
そして、オープン回線で繰り広げられる煽り合いである。これも、クラッシュ・オブ・スティールの醍醐味だ。言い争いは激しければ激しいほど客受けがいい。それから下品で、下劣で、聞くに堪えない感じだとなおのことよい。現に観客は喜び、実況者までもヤジを飛ばして参加している。
売り言葉に買い言葉という奴で、悪口の応酬はどんどんヒートアップしていくが、五分ほどすると、流石に埒が明かないと判断した実況が名残惜しそうに甲高い声で遮った。
『盛り上がってまいりましたが、続きはどうぞ戦場にて! ……さあ今始まるぞ、ルール無用の殴り合い! どちらかが先に相手を叩き潰すまで終わらないエキシビジョンマッチッ! 行くぞ、やるぞ、今始まるぞ、行け、今だッ!! クラッシュ・オブ・スティール!!』
試合開始を告げるブザーが鳴り響き、観客席とアリーナとの間にバリア・フィールドが展開される。
不完全燃焼の気を出していた二機だが、試合開始を告げるブザーを聞くと弾かれたようにブーストし、まずは牽制の射撃がアリーナを飛び交った。
チャンピオンは射撃が苦手と見えて、ドズールが携行するE.デバイスから発射されるエネルギー光は、図体が大きくて当たりやすいはずのリ・ネリオルにさえ、散発的にしか当たらない。加えて、彼女が不利だったのは、ジャックボルトの自負通り、耐熱処理を施された分厚い装甲板には、わずかな傷を与えるだけにしかならなかったことだ。明らかな出力不足である。
一方、リ・ネリオルのインパクトキャノンの威力は絶大で、名前の通り、着弾の衝撃だけでもすさまじい。一発でも直撃をさせればドズールを木っ端微塵にするのは間違いなかったが、肝心の照準はめっぽう杜撰で、更には撃ち出された砲弾も大きさと重さで動きが緩慢と、命中精度が恐ろしく悪い。いずれも周囲のビル群に直撃して、跡形もなく吹き飛ばすだけでしかない。
『……恐ろしい破壊力だね、ソレ。そんなブッソウなのを人に向けて撃つなんて、どうかしてるんじゃない?』
『どうせ当たらねえからいいだろ。まあ、もし仮に当たっても、ここの医療班は優秀らしいし、運が良けりゃ死なんだろ。それにさ、……人死にはルール違反じゃねえし、構わんだろうがッ!!』
『……まあ、それも確かに。どーりではあるね』
リ・ネリオルがもたらした破壊の痕跡を見やって、いくらか警戒を強めた様子のフィーアが冗談めかしたように軽い口調で苦言を呈す。が、何馬鹿なと言わんばかりに、ジャックボルトはそれを軽く鼻で笑う。
正確に言えば、ルール違反ではないというだけで、殺しが正当化されるわけではないのだが、別に終わった後に捕まるわけでなし。そもそも、命の危険がある競技と説明されて、はいわかったと出てきた以上は、彼の言うことに道理があるのは明白で。
甘ったれたことを言ってしまったとフィーアは反省して、ドズールの操作に意識を戻す。
『ォお―っと、ここでリファイン・ネリオルがドズールとの距離を詰めにかかったァ―ッ! うねりをあげて超回転するドリル・ニー! 一撃必殺のE.ガントレットが仄暗い燐光を滲ませながら襲い掛かるッ! どうする!? どうするんだチャンピオン! 俺とのデートもどうするんだァ―ッ!』
青白い噴射光が一瞬閃き、リ・ネリオルの巨体がドズールに向けて猛加速する。その初速といえば、機動性を重視したカスタマイズのヴォルムさえ追い抜くのでは、というほどの速さだった。もしかすると、ゼニードにすら匹敵するかもしれない。
右腕に装備したE.ガントレットが濃緑の燐光を振りまきながらサークル状のエネルギー刃を形成し、大振りのストレートパンチをこれ以上ないくらいに強化する。回避を許さんとばかりに金切り声で威嚇するドリルとの二面作戦で、常識的に考えて、性能に劣るドズールでの白兵戦は避けるべきであった。だが──。
『なッ! 何ィッ!?』
ドヒュッ。それは、ドズールのスラスターが奏でる噴射音。機体前部のサブ・スラスターを噴射しての退避ではなく、フィーアが選択したのはメイン・スラスターを全開にしての特攻。迎撃であった。
『突っ込んだァ―ッ! チャンピオン、トチ狂ったか!? ヤケになったか!? それとも破滅願望かァ―ッ!!!?』
もちろん違う。
確かにそんじょそこらの凡夫が同じことをしようとすれば、コレは自滅に他ならない行為だが、フィーアがやれば事情が変わる。つまり、単にソコに活路を見出したからやっただけに過ぎないということだった。恐るべき度胸と、自身の腕っぷしに対するナルシズムめいた自負で。
事実として、少女の腕は確かだった。
機動性においても、装甲においても、火力に至っても大幅に劣るドズールという化石で、リ・ネリオルを翻弄してみせるのだ。
ドズールの背中に背負った大型のスラスターが翠緑の粒子をまき散らしながら、埃まみれの市街を縦横無尽に飛び回る。時にはビルディングを足蹴にしての三角跳び、時には急制動からの急加速、慣性を利用しての急降下など織り交ぜて、実に多彩なアクロバット・マニューバを披露する。
それらは展覧会や祭典などで披露される難度の高いマニューバの数々だが、反動や難度を思えば、実戦形式の競技で使用するなど狂気の沙汰でしかない。恐るべきは、それを可能とする確かな操縦技術──。地球の、それもたかが一都市単位の狭苦しいバトリング競技場とはいえ、チャンピオンを名乗るだけのことはあった。
唸るE.ガントレットをすり抜け、穿ち抜かんと迫るドリルをかわし、隙を見て放たれる対装甲ダガーが確実に重装甲を削り取っていく。
『張り付いたーッ! なんとドズールッ、リファイン・ネリオルに取りついているーッ! 恐るべきは操縦技術か、クソ度胸か!? ジャックボルト、なんとかチャンピオンを払い落としたいが、血吸いこうもりのようにしつこくまとわりついて離れないィーッ!!』
☆
『チクショウッ、チクショウがッ! このクソ忌々しいオンボロめ! ドズールなんぞにこのリファイン・ネリオル・ビルドアップ・スペシャルが負けるものかよッ! 負けるなどあってたまるものかよーッ!!』
──そして。
焦りを孕んだ罵倒が大気を揺らし、精彩さを欠いた腕撃が幾度も空振り、空を裂く。やけっぱちになったような連打はもはや狙いもつけずに無差別に繰り出され、さながら死の旋風と化して、偽りの市街を蹂躙している。
けれど、いくら繰り出しても一向にヒットすることはない。肝心のターゲットにはかすりもしないのだ。無価値な瓦礫の山だけが量産されていく。
なぜだ!? どうしてだ!? ジャックボルトの胸中を、焦燥感と共に疑問が埋め尽くす。なぜこんなにも俺は恐れた気持ちになっている!?
どれだけ攻撃をもらおうと、有利なのは依然ジャックボルトのはずだった。何せ、奴はチマチマとチンケな刃物を振り回すしかなく、一方彼は一撃でも奴に当てられれば晴れてチャンピオン交代は成る。
そう、焦る時間ではないのだ。この程度のダメージは、今までの対戦でいくらでもあったのだから、ここは一度、冷静になるべきなのだ。
負けるわけがない。負けるはずがない。だって相手は百年前のオンボロだ。対してこっちは彼手ずから組み上げた珠玉の機体。いくら腕前に差があったって、どうなるものでもない──なってはならないのだ。
『──どーしたの? 何か、悩みごとがあった?』
不意に、蜜のたっぷりと詰まったリンゴのような、瑞々しい甘さを孕む声が耳を打った。一瞬、天使の呼び声かと思ったが、それは他でもない、対戦相手の少女──チャンピオン、フィーアの声である。
ハッとして、埋没した意識を引き戻しにかかれば──。
『どこか素敵な場所に旅立ってたみたいだけど……。戦いのさいちゅーによそ見はダメだよね? だって、うかつだもの』
『ギ……ッ、グァアッ!!』
『強烈ゥッ!! これは強烈だァ―ッ!! リファイン・ネリオルが見せてしまった一瞬の隙をついて、加速のついたドズールのダガーがクリーンヒットォ―ッ!!!』
『……どうするの、オジサン? もう終わりにしちゃう?』
『……ハッ、抜かせよガキが。装甲をほんのちょっぴり抉り取ったくらいでいい気になんなや』
最悪だった。考えうる限り、最悪の展開。
チャンピオンのダガーが抉り取っていったのは、追加装甲を取り付けているハードポイント──留め具にあたる部分だ。つまり、リ・ネリオルの防御アドバンテージは失われかけているということ。ここまでやられた以上、もう勝ち目はないと察する。大人しくギブアップするのがせめての潔さであるが、どうにも認めることなど出来そうになかった。
頭の隅っこの冷静な部分では、やめるべきだと理解をしていたが、しかしそれは彼の反骨心が認めないのだ。ことここに至って、ジャックボルトは意固地になっていた。
反骨の炎を瞳にくゆらせ、言葉にならない叫びをあげてドズールへ機体を進ませる。どうせ当たらないとわかりきったE.ガントレットを再度両腕に展開し、もしかしたらを夢見てフットペダルを踏み込みスラスターをフルスロットルにした──。