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彼女の思いは


 ここはとある貴族の屋敷。


 その貴族は勇敢であった。


 聡慧であり、屈強である。


 名誉を欲しいままに、栄光を掴む。


 その男の名はジュリアン。


 賢者と呼ばれた、勇者の対をなす男だ。


 これが世間一般のジュリアンの姿だ。


「レイナ、大丈夫かい?」


「ええ、もう、ここの生活にも慣れたわ」


 レイナは少し前まで村娘だった。


 この屋敷という生活には程遠いもの。


 だが、ジュリアンと婚約を結んでからは一変する。


 村娘から貴族の婚約者という昇進。


 しかも相手は都で最も有名な貴族。


 ルックスも良い、性格も良い、そして名誉もある。


 人生で置いて、最大の頂まで上り詰めたのだ。


「そうかい、何かあったら使用人を呼びつけてくれ」


「ええ、分かったわ」


 ジュリアンはレイナの部屋から出ていく。


「ふっ……はははははは!」


 誰も聞いていな自室で馬鹿でかい笑いを響かせた。


「見てるかソーマ! 俺は手に入れた、お前の名誉を、恋人を、全てを! 奪ったんだよ!」


 これがジュリアンの本当の姿。


 どこまでも卑劣で、下等、下劣、下衆。


「魔王を倒したのはこのジュリアン! レイナの婚約者はこのジュリアン! お前の薄っぺらい正義なんて本当の力の前には無意味!」


 彼はソーマを嫌悪していた。


 勇者という肩書。


 正義の味方という薄っぺらいあり方。


 そして自身を上回る才能。


 だがそれもジュリアンの力によって嘘に変えた。


 彼とソーマのあり方は真逆だ。


 人の憎悪、悪意、それらをジュリアンは受け止めて、逆に利用している。


 対する、ソーマはそれを認めずに変えようとしていた。


 そしてその悪意に負けたのが、ソーマという男なのだ。


「全く、あの女も見てくれは良いが随分な尻軽だ、その分、わかりやすいがな」


 レイナは村娘。


 とてもじゃないがジュリアンと釣り合う立場ではない。


 ではなぜジュリアンは彼女に手を出したのか?


 決まっている、奪うためだ。


 誰から? 勿論、ソーマからだ。


 たとえ彼女が奴隷だとしても。


 たとえジュリアンを認めないとしても。


 ジュリアンは力ずくで自分の妻にしたであろう。


 ただソーマの思い人ってだけでだ。


 その一点こそ重要なのだ。


 ジュリアンはレイナを見ていない、ただソーマしか見ていないのだ。


「俺は明日、レイナと結婚をする、その時こそ完全勝利を手にするのだ!」


 ジュリアンは高らかに笑う。


 すでに死んでいるはずのソーマ。


 死してなお、ジュリアンの嫉妬は止まらない。


 その全てを奪うまでは。



「結婚式は明日か」


「ええ、来場者も著名な有権者ばかり、王ですら出席します」


 聖女の私室、そこでソーマとリリーは話し合っていった。


「狙うなら、そこかと、最高のデモンストレーションになると思いますわ」


「確かに復讐だけではなく、俺の意志を告げることも出来る」


 来場者は全て、ソーマの悪い噂を広めた張本人達だ。


 どいつもこいつも国に王にベッタリな貴族達。


 何をするにしても最高の舞台である。


「どちらにせよ、その前に彼女には問わなければならない」


「あら? 式場でやったほうが演出的には写ると思いますけど」


「駄目だ、こればかりは譲れない」


 彼女とはレイナ。


 なぜジュリアンについたのか、それだけは問わなければならない。


 それも1対1でだ。


「まあ、仕方ありませんわね、都合します、他のシナリオはお任せくださいな」


「ああ、最高のシナリオを頼む」


 リリーは口元を歪ませる。


 リリーのシナリオ。


 それも今までの聖女の姿ではない。


 悪女としての処女作。


 最高のものにしなければならないといきこんでいた。


 それを見ながらソーマは考え込む。



 ――彼女は俺の理解者だ。


 恋をしていた? そうかもしれない。


 ただしその時は気づかなかった。


 気づいたのは全てをなくした後。


 ジュリアンと結婚するって聞いた時だ。


 それほどまでに俺は正義の味方に恋をしていた。


 まさに盲目の恋、そもそもが選択肢になかったのだ。


 だが、それでも俺とレイナは心を通わせていた。


 俺が夢を語る時、彼女は笑って共感してくれた。


 俺が訓練している時も、ずっと側にいてくれた。


 俺の誕生日には、お守りを作って、夜まで星の丘で寄り添った。


 俺が村から出ていく時、ずっと待っていると言った。


 俺がレイナと一緒に居ることは当たり前だった。


 だからこそ信じられない、そんな簡単に離れるものなのか。


 今までは中途半端だったからこそ、知らねばならないのだ。


 たとえどんな答えで、どんな結末が待っていようとも。

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